幕間 クロチルドとフォルカー


 クロチルドは庭園のガゼボに座っていた。ラフォルス公爵家自慢の庭園で、ガゼボの周りを彩る四季咲きのバラは盛りを過ぎていたが、まだ甘い香りは残っていた。

 目の前にはフォルカー・クラレンス公爵令息が座っている。

「こんな時は、逆にチャンスかなと、思って」

 ニコニコ笑う顔は、生真面目そうなクリスティアン殿下に比べ、とても胡散臭そうだ。


 クロチルドの元にはそろそろ縁談が舞い込んでいるが、王妃教育を受けた者を、おいそれとそこらに嫁がせられもしない。

 望まれるのは第二王子のエアハルト殿下だが、先日の魔族襲撃事件の影響か様子見となった。


 あの魔族は捕まっていないし、王国騎士団は屋敷の周りをうろうろするし、評判が悪いことこの上ない。

 もはやクロチルドの行き場は、修道院か別邸幽閉くらいのものか。


 そんなところにフォルカーがやって来て「クリスがちょっとね、君が……。まあ、めったなことは言えないけれど」と囁くのだ。

 察しの良いクロチルドなら、これくらいで分かるだろうと。


「何が、言いたいのです」

 プラチナブロンドの髪が風に揺れている。きつい紫の瞳がフォルカーを睨んでゾクゾクする。

「君が欲しい」

 単刀直入に言われて、クロチルドは絶句した。


「それならば尚更、わたくしはもう。クラレンス公爵様もお許しにならないかと」

「僕もやらかしているからね。そのことを恨んでいるのなら、仕方がないけど」

「そんなことは。その、クリスティアン殿下は、どうしていらっしゃいますか?」

 話題に出たクリス王子の事をそろっと聞く。罠にかかった子ウサギを見るような気持で、フォルカーは楽しそうに言った。


「元気だよ。何だか女の子を連れていたな」

「え」

「もちろん、マリア嬢ではないよ。今、一緒に西の森離宮にいるが、とても親密そうだね」

 クロチルドは言葉もなく、目を見開いてフォルカーを見る。


「そんな……、マリア様は?」

「それがね、みんなで離宮に向かった時に襲撃されてね、マリア嬢は連れ去られたんだ。多分、男爵の所にでも、戻ったんじゃないかな」

 何がなんだか、訳の分からない話だった。


 クリス王子は夜会を途中で抜けた後、マリア嬢を連れて王宮に上がったらしい。そのまま離宮で謹慎するという話になったと聞いた。

 それなのにマリア嬢は攫われて、他の女性が一緒に居るというのだ。

 納得がいかない。どんな女性か見て確かめたい。確かめたいけれど、今の自分はそんな所に行く資格なんかないのだ。


 唇を噛むクロチルドを、フォルカーがニコニコ笑って見ている。

「その子はこの国に来たばかりで、何も知らないんだってさ。色々教えてくれる人が、必要なんじゃないかな」

 フォルカーが悪魔の囁きをする。

「僕が君を紹介してあげるよ。その代わり、僕とのことを考えて」

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