幕間 クロチルド


 クリスティアン王子と初めて会ったのは、宮廷で開かれたお茶会だった。たくさんのご令嬢が招待されていたけれど、クロチルドが選ばれるのは既定路線だ。

 金髪碧眼の麗しい王子に令嬢方がさざめく。


 クロチルドは王子の隣に立つのは自分がふさわしいと思っていた。家柄も容姿も頭も、誰も自分には敵わない。王妃になるのは自分だと。


 それが揺らいだのは、学園にピンクの髪の少女が来てからだ。一番の筈の自分に真っ向から逆らう存在。

 マナーもなっていない。頭も良くない。身分も低い。なのに次々と、高位貴族の子息連中が、その女マリアに跪くのだ。

 王子まで跪いてくれたらどうしよう。

 あの日、赤紫の髪の女が現れて「王子の心を、引き留めたい?」と聞いてきた。

 そして、記憶が途切れ、王子の心が離れて行った。


 いや、そうではない。王子の心はもともと自分にはなかった。

 政略結婚だし、そんなものはどうでも良いと思っていた。

 なのに何故、こんなに心が軋むのか。悲鳴を上げるのか。

 あの女のせいで──。


 二度目に赤紫の髪の女が来た時、クロチルドは自分から進んで女の魔法にかかった。

「王子の心を、手に入れたくないかい」

 だが失敗したのだ。王子は冷たい目をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る