異世界転移したら婚約破棄の現場でした。頼る人が婚約破棄した王子しかいません
綾南みか
一章 異世界に転移しました
01 異世界転移しました
頭が痛い。
ブツブツブツ…………
それに雑音のような不快な音がずっと聞こえる。
やたらと豪華で広い学校。見覚えのないウエストまでのジャケットにふんわりと広がった長いスカート丈の制服。金髪や銀髪、赤黒茶色、水色やピンクがかった色の髪まであり、瞳の色もとりどりの生徒や教師たち。
何を話しているのか水の中にいるような不明瞭な会話。
そしてブツブツという不快な音。
目が覚めるとひどい頭痛が襲ってくる。
「疲れた……」
ぐったりと脱力して学校に行くと、友人達が「これでも読んで元気出してー」と、漫画や本を貸してくれた。
今流行りの転生モノや悪役令嬢モノで、梨奈も嫌いではなく自分でも買っている。今日は友人が貸してくれた本を読んで、もう少しマシな夢を見たい。
梨奈はそう思いながら眠った。……はずだった。
* * *
ああ……、また頭痛がする。
梨奈は顔を顰めて、ゆっくりと目を開いた。
おかしい。今日はいつもよりずっと、夢がクリアでリアルに見える、と梨奈は訝しみつつ周りを見回す。
彼女は広いホールのような所にいた。高い天井から豪華なシャンデリアが幾つも下がり、壁は大理石の柱と彫刻と絵画が並べられ燭台も飾られた、とても豪華な大広間であった。
金髪銀髪、赤黒茶髪、とりどりの髪色をした男女が美しい夜会服に身を包み、遠巻きに周りを取り囲んでいる。
目の前にはプラチナブロンドの髪を綺麗にハーフアップに結って、豪華なドレスを纏った、ものすごく綺麗な女性が佇んでいた。
ちょっときつい紫の瞳がこちらを睨んでいる。と、すぐ側にいた男がしゃべりだした。
「クロチルド・ラフォルス。私は今日限りで、お前との婚約を破棄する」
(エッ? ナニコレ。婚約破棄のシーン?)
さっき梨奈が読んだばかりの漫画と同じセリフを、隣の男が喋っている。思わず側の男を見上げる。背の高い金髪の男だ。白い騎士服を着て、長い髪を後ろで三つ編みにして緩くリボンで括っている。
(ちょっと待って!)
どう見ても西欧人の見た目だが、どうして言葉が分かるのだ。
異世界転生か転移なのか? ファンタジーなのか?
とんでもないことである。梨奈は慌てて周りを見る。
後ろに四人の青年が立っている。ひとりは赤い騎士服で三人は夜会服だ。間違いなく取り巻きだろう。梨奈はもう一度、目の前の女性を見た。少しきつめの顔をしているが間違いなく美女だ。
目の前の美しい女性が悪役令嬢?
自分のこの位置はヒロインの位置?
「な、な、な、何で……? どうして?」
どうしてこんな所にいるんだろう。周りを見回している内に自分の胸がチラと目に入った。
(大きい!)
梨奈の胸はこんなに大きくない。しかも視界の端に見える髪はピンク? ストロベリーピンクだ。ピンクの髪はヒロインの定番である。
(いやああぁぁーーー!!)
梨奈は日本人だけど半分は西欧系が混じっていて、髪は栗色だし目は榛色だけど、ピンク頭のヒロインはマジ勘弁して欲しいと思った。真面目な高校生をしているのだ。
(夢じゃないのかな。夢だったらいいな。あああ、誰か、夢だと言ってーー!!)
心の中で絶望の叫びを上げながらも一縷の望みをかけて、梨奈は自分の頬をペチペチと叩いてみた。
(痛い……)ような気がする。いまいち間に何か膜みたいなモノがあるようで、直な感覚とは程遠い。例えて言えば夏休みにバイトで着た着ぐるみだろうか。
(やっぱり夢じゃないのかな)
すぐ側にいる男がまだ何か言っている。この立ち位置だと、この男が王子様だろうか。白い騎士服の王子様は漫画で何度か見た。
「お前はこのマリア・シェルツをひどい目に──」
(え!? この王子様は断罪をする気か?)
やばい、ひたすらやばい。このままだとこの男は廃嫡とか平民落ちとかあるんじゃないか? 大体、これ以上この王子に何か言わせると、こっちも巻き添えを食らう。
牢に入れられるとか、塔に閉じ込められるとか、処刑とか──。
(冗談じゃない!)
梨奈は手に持っていた扇子で、男の頭を引っ叩いた。
ベシッと音がして、男が頭を押さえる。
「きゃあぁぁーー!!」
周りから悲鳴のような声が上がる。男はゆっくりと梨奈を振り返った。
金髪碧眼のものすごいイケメンの青年が、頭を押さえて睨んでいる。
(わ、王子様を殴ってしまった。マジで不敬罪で処刑される??)
(くっ、また頭が痛くなった)
どうせなら引っ叩く前に痛くなってくれと思いながら、梨奈は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「どうしたんだ、マリア」
男は驚いて心配そうな顔になった。いきなり梨奈を軽々と抱き上げて歩き出す。
ざわざわと揺れるホールに「そのまま続けてくれ」そう言い残して、どこかに連れて行く。
何するんだ。どこに連れて行かれるんだ。
(私はマリアじゃなーい! 人生初のお姫様抱っこが人違いとか、ないわー!)
梨奈は痛む頭を抱え、心の中で叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます