第37話 ゼロからの再出発
「夢からは覚める時間ですよ、ツバメ先生」
俺の言葉に、ツバメはようやく涙と土でドロドロになった顔を上げた。
「こんな現実……見たくなかった。知りたくなかった……」
ツバメが潰れたような声で泣き言を吐く。
「本当は楽しかったのに、楽しい学校生活だったはずのに……それも全部、虚構なんだって、私の本当の居場所は異世界にあるんだって……そう言い聞かせて、私は、私の理解者になってくれるはずだった丸山くんさえも……これ以上ない残酷な形で裏切った」
「……」
「……ねぇ、丸山くん。どうしたら、どうしたら私のことを許してくれますか……っ?」
「そんなの……許せるわけねーだろうが! 甘えんなッ!」
「……ッ!」
俺がそう吐き棄てるように言うと、ツバメはビクリと肩を跳ね上げた。
「あんたは、どんな理由があったにせよ
「……もう、取り返しはつかない……のですね」
「ええ。でしょうね。ただ──これまでのツバメ先生がくれた俺への親切心や、教えに罪はない。それは本当に感謝しています」
「丸山、くん……」
目を見開くツバメへと、俺は言葉を続ける。
「独りの俺に声をかけてくれたこと、どんなに取り返しのつかない状況からも再出発はできると俺に勇気をもたらす教えを与えてくれたこと。俺はその言葉に背中を押されて、その結果として
「……! 私、は……」
「でも、もうそれで終わりだ。俺は、それ以上……あんたに関わりたいとは思えない」
「……当然、のことですね。本当にごめんなさい、丸山くん。いまさら、そんな謝罪程度で済むとは思っていませんが、それでも……本当にすみませんでした」
ツバメは深々と、地面に頭を着けた。俺はでも……それを、やはり受け取れはしない。謝罪を受け取ってしまったら、この怒りの矛先をどこかに仕舞わなければいけない気がしたから。
俺は気を落ち着けるように、小さく息を吐いた。
「……で、ツバメ先生。あなたはこれからどうするんですか。本当にこの異世界で再出発するんですか? それとも……現代世界へと戻りますか?」
恐らく、現代世界へと戻ったところで……ツバメを待つのは罪を償うための一生をかけた過酷な日々だろう。
「……私は、異世界に来て本当は何をしたかったのでしょうね」
ツバメはポツリと呟いた。
「魔王になって、丸山くんをないがしろにしたこの世界に復讐して、そうしてこの世界で思うがままに過ごして、素晴らしい人生を歩もうと思っていたのに」
「そんなの、俺は少しも望んでいない」
「ですよね……。だったら、私は何をするんでしょう。何をしたいんでしょう……。あはは……空っぽになっちゃいました。私が異世界に来たかった理由。本当に……過去の記憶から逃れて、異世界へと来たいだけだったんですね、私……」
魂が抜けて行くかのような重たいため息を吐いて、それからツバメは俺のことを真っすぐに見つめた。
「……戻ります。そして、罪を償います」
「……分かりました。じゃあ、俺の背中に乗ってください」
俺はツバメを背負うと、魔力を足裏へと集中させて【
「全て、結果だけ見れば無駄なことだったのかもしれないですけれど」
上空から、地上を見てポツリ。ツバメが口を開く。
「それでも、これから始まるのがゼロからのスタートではないと思いたいです……。私は、ずっと思い焦がれたこの世界に来れたんですから。それだけは……私の人生に積み上げられたひとカケラだと、そう思います」
ツバメのその言葉に、
……何が、人生に積み上げられたひとカケラ、だ。
それが
俺は行き場を失った憤りと悔しさに歯噛みしながら、ワームホールへと再び突入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます