《石神若の記録》4/30(土)夜
4月30日、土曜日。時刻は21時00分。
とても疲れているけど、寝ちゃう前に今日の記録を開始するわ。
……。
現在地はホテル。場所は福島。本来なら東北新幹線はやぶさで仙台までひと息にいくつもりだったけれど……道中で刺客による襲撃が2件発生。不本意にも途中下車してしまったわ。
襲撃の1件目は韓国政府お抱えの暗殺者集団──
その構成員は50名から1000名とも呼ばれていて、全員が特殊暗殺武術の使い手というウワサ。
でも、こちらはあくまで人間を鍛え抜いているというだけだから……異世界帰りのコウくんの敵ではなかったわね。
……。
問題は2件目。E.H.A──EUヒーロー協会という存在。私はその存在は知らなかったけど、襲撃者のジャーマノイドを名乗る男が装備や持っていた兵器を考えれば、バックは確実にいそうね。
彼は電気を自在に操れるようだったけど……
あと、彼の仲間には私の能力を見抜く力を持つヒーローがいると言っていたわ。
……。
なんなのかしら、私の【世界を滅ぼす能力】って。
どうやら、それを危険視して私を殺そうと企んでいる連中もいるのね。
……。
……。
……とにかく、ジャーマノイドは強力な能力者だった。
彼との戦いで、コウくんはたくさん傷ついてしまった……。
……。
いえ、私が傷つけたようなものなのよ……。
私が足を引っ張ったせいで、簡単に攫われてしまったせいで。
コウくんは、私を守ることに全ての力を使って……ジャーマノイドの攻撃をぜんぶ、生身で受けてしまっていた。
……。
……怖かった。
コウくんが死んでしまったら、なんて考えたら……。
私は、私が死ぬことより恐ろしい。
……。
やっぱり、今からでも遅くない。
これからは私ひとりで──
……。
……。
……なんて、そんな考えはきっと……失礼で、ズルいのよね。
コウくんは命懸けで私を守ってくれているのに。
なのに、私はあえて無謀な道へと、破滅への道へと進んで逃げようとしている。どうせ死ぬなら私ひとりで、って。
……。
だから今、私がやるべきことは一刻も早く
そうして逃げ回る必要の無くなった世界で、私は……。
……。
……コウくんと、普通の恋人になるの。
……。
……。
……コウくん。
……コウくん?
……起きて、ないわよね。
……。
……フゥ。
ふたりでひと部屋に泊るって言われた時はとても緊張したけど……。
本当に何も無かったわね……。
コウくん、部屋に着くなりすぐに寝ちゃったから……。
……。
まあ、当然よね。あれだけの戦闘をしたんだもの。疲れていて当然よ。
別に……私に魅力が無いワケじゃ、ないわよね……?
……。
……そのはずよ。ぜったい。疲れてただけだわ。
……。
隣の部屋にはコウくんに負けて絶賛気絶中のジャーマノイドを寝かせている。
彼はまだ目を覚まさないようだけど……。
明日の朝も目覚めていないようだったら置いて出発するわ。
ここまで運んで来ただけ、充分以上の親切だと思うもの。
……。
……というか、私は空中で、しかも私を守って抵抗できないコウくんを電気でイジメ抜いてくれたあの最低ジャーマノイド野郎を許せてないわ。
信念があったからとか、正義があったからとか、関係ない。
コウくんに痛い思いをさせたのが単純に憎いもの。
2、3発思いっきり殴って罵倒してやりたい……!
……。
……。
……はぁ。
私、醜いわね……。
コウくんに比べて、本当に……。
コウくん、ホントに私でよかったの……?
……。
ねぇ、コウくん。
……。
……可愛い寝顔しちゃって……。
……。
……。
……。
4月30日土曜日、21時09分。石神
私も寝なくちゃ。
……また明日。
おやすみ。
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