第32話 これが現実なんだ。美しすぎる、真実すぎる現実

恥ずかしい思いを抱いてしまった旅行からしばらく、僕らの関係は特に変わりのない感じである。夜は愛され、ちょっと過剰な愛され、それ以上はなし。健全なのか何なのか。

でも、これで満足している。ほんとうに。僕にリョウジなんてもったいない、そう思うから。


その思いをずっと変わらずに時は過ぎ、僕らも新しい学年を迎えた。僕は変わっていないけど、リョウジは変わった。モデル活動が活性化してきたからだ。

学校終わりにもオーディションを受けたりしているらしく、そして結果もでているみたい。まだ高校生だから活動は抑えめになるようだけど。なにかで撮影した写真も見た。

それを見て僕は驚いてしまった。僕の見ているリョウジとは違ったから。そして、僕が見ているリョウジのほうが数倍かっこよかった、美しい、可愛いから・・。

それは僕がリョウジを毎日見ているからだろうけど。

つまり、リョウジの良さが世に伝わるのは、まだこれからなのだろう。


そんな日々が続いた中、リョウジが嬉しそうに報告をしてきた。

「今度の土曜に、ショーにモデルで出ることが決まった!」

「え、すごいね。ショーだなんて。ファッションショーとかかな」

「なんか、よくわかんないんだけど、記念のショーみたいな」

「イベントかな」

「そうみたい。その中のショーかな。初めてで、一般の人も入れるみたいだから、ショウも来て!」

「え、僕いいのかな」

そんな華やかな場所に行ったことがないし、なんせ自分は無縁の世界だから不安になる。

「大丈夫大丈夫、とりあえず受付でショウの名前を言えば入れてくれるから」

「わかった、行くよ」

「やった、ショウが来てくれるなんて、うれしい」

口角が上がったその顔を見て、僕は不安が更に高まってしまった。


その日、週末のとても曇った午後に、僕は家を出た。リョウジが出るイベントを見るために、聞いたことはあるけど、行ったことのない街に。場所はイベント会場らしく、全く知らないところ。なんとか辿り着くと、〇〇周年記念ショーなんて看板が出ていた。驚いたのは、いわゆる報道陣もいたことだ。照明器具やカメラや腕章を付けた人たちが沢山いる。

こんなところに果たして自分が入っていいのだろうか。不安でリョウジに電話をしたくなったけど、出番前で忙しいから申しわけないと控える。


「関係者受付」と入り口にあったので、思いきって話して見る。あ、あの・・という感じでおぼつかない自分が恥ずかしいけど。

「はい、ヨシダショウ様、中の関係者用の席にご案内いたしますね」とやさしいきれいな女の人が席まで連れて行ってくれた。

会場はまだ暗いけど、白いドレープがかかってたり、匂い立つほどの花が置かれていて、華やかな雰囲気だった。

そのどこか重たさの感じるような空気に押されたのか、閉じる必要の無い目を閉じてしまった。

やっぱり、自分は場違いだ。今日はリョウジの出番を見届けて、すぐに帰ろう。下は向かないように、みっともないから、と言い聞かせて背筋を伸ばして、静かに座っていた。心の中はヤバい感じだけど。


沢山の働く人がこの会場にいて、リョウジもその中の人。今日は主役ではないにしろ、主要な役周りには違いない。

自分はやっぱり小さい。何もない。リョウジとの差は出会ったときから感じていたけど、ますます広がってきていると実感した。

すると、邪念をあざ笑うかのように、鐘が鳴りはじめた。もちろん本物の鐘ではない音だ。

その音で目が覚めたかのように会場の照明がついた。それはステージだけに当てられた。もの音楽が鳴り響く。「今日はみなさまお集まりいただき・・」というような司会の声が響く。

この日はリョウジが出るショーの主催会社の40周年記念イベントらしい。そして、その会社はブライダルの会社のようだった。

司会の話からそれがわかった途端、今日のショーの内容の想像がついた。

想像したくないもの、、いや、なんて。


すると、再び鐘が響き渡る。音楽も大きくなる。

「それではみなさま、当社の40周年を記念したコレクションをご覧ください!」と司会が叫ぶように話した途端に、2人のモデルらしき人物がステージに登場した。

大きな拍手の中で、現れたのは、ウエディングドレスを着た女性と、そしてリョウジだった。

白いタキシードを着て、青いブーケを持つリョウジは照明とスタイリングのおかげで、いつもよりも輝いて見えた。こわくなるほどに。

長い手脚に凛々しく可愛らしい顔立ちに、少年と大人の間の幼さの残る表情が、今日はかえって魅力的に見えた。

なんて素敵なのだろうと思うと、距離が実際の距離よりも離れて見えてしまった。


でもそれは一瞬の感情だった。リョウジにエスコートされる女性、白い肌、顔だけではなく、その全てが白い。もちろんメイクとドレスの所為でもあるのだろうけど。自信を持った、かつやさしい微笑みは、辺りを光の世界に導くようだ。その唇、まつ毛、鼻筋。


これが、女性なんだ。


リョウジとその人が見つめ合う。こんなリョウジの顔は見たことがない。沢山のリョウジの顔を見てきたのに。僕に対してあんな表情はしなかった。いや、そんなことは。

でも否定はできなかった。リョウジは女といてこそ、引き立つ。それは女の人も同じだ。女の人の背は女性としては高く、おそらく僕と同じくらいだろう。

リョウジとぴったりの背丈、僕と同じ背丈。でもこの人は女性。

僕は男。


これが現実なんだ。美しすぎる、真実すぎる現実。

リョウジはこんな感じの女と恋愛をして、その誰かと家庭を築く。

僕にはその先が見えてしまった。

僕なんか、かなわないんだ。この現実には。

ふと手を見る。僕の手は男にしては細いけど、やっぱりゴツゴツしている。

あの女の人の手とは、、と思ったら、リョウジと手を繋いで、こちらまで歩いていた。これはもちろん演出だろうけど。

花道を2人で歩く。

まるで結婚式のように、いやそのような演出だろうけど。祝福も演出なのだろう。拍手も聞こえてきた。


おめでとう。リョウジ、おめでとう。

これは現実ではないけど、僕にとっては現実だった。

痛い、何かが痛い。いや、痛みを感じる、身体ではなく、どこかが痛いんだ。

だから、帰ろう。もう帰ろう。この場から去ろう。今の自分を誰にも見られたくないから。

音楽が止んだ瞬間に、迷惑にならず走らないように、会場から出た。なるべく早く、歩いて。落ち着くように。

泣かないように。

街が歪んで見えるような気がする。僕はどうなってしまうんだろう。

だめだ。しっかり。その時だった。


「ショウ!」

その声に振り返ると青いブーケを持つリョウジがいた。

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