夢見病のマリン

山岡咲美

第1話「プロローグ」

「ねー、そらちゃん知ってる?」

 帰りの通学路、水色のランドセル、黒髪ショートの女の子が後ろをふり返り話を切り出した。


「なになにうみちゃん?」

 前髪パッツンで肩までくらいの髪の女の子がピンクのランドセルをユサユサゆらし、あわてて水色のランドセルの女の子を追いかけてワクワクとこたえる。


 ピンクのランドセルの女の子は黄色いチョウがガードレールの柱とアスファルトの道のスキマに咲いた花に止まっているのをジッと見ていて遅れたのだ。


 ピンクのランドセルの女の子はコレでよく迷子になってママに怒られていた。


 それはいつもの光景、小学五年生の晴田空はれたそらと幼なじみの豊海ゆたかうみは楽しい楽しいガールズトークにいそしみ歩いた。


「あのね空ちゃん、病気ってね科学の進歩で治せるようになるんだって」

 海ちゃんはきのう見たドキュメンタリー番組の受け売りを話す。


「へー、そーなんだ!」

 なぜそんな話を海ちゃんがしたのか理解もせずに、空ちゃんはこたえる。


「だから空ちゃんも希望を捨てないでね♪」

 海ちゃんは空ちゃんの小さくポニュポニュした手を自分の手でつつみ優しく、でもイタズラっぽい笑顔でそう言った。


「フフン♪」

 と海ちゃん。


「あっ!」

 と空ちゃん。


「空、ビョーキじゃ無いよ!!」

 空ちゃんは手をフリフリ足をダンダンして海ちゃんにもう抗議こうぎする。


「いや算数のテスト五点って、もはやそのレベルだよ」

 海ちゃんは空ちゃんのピンクのランドセルからテストの答案用紙を取り出す。

 

「五点……」

 そらちゃんの目の前に突き付けられた現実。


「九九の時点で間違えてるんだよ空ちゃん」

 どうやら五の段以外全滅らしい……。


「海ちゃん、九九って何年生で習うんだっけ?」

 テストを手に取りジッと見る空ちゃん。


「ニ年生で習うけど……」

 どういう質問なのか、はかりかねる海ちゃん。


「そんなに昔か~~」

 ずいぶんと昔の事なので覚えていないアピールをする空ちゃん。


「いや、ニ年生の時からずっと使ってるから過去の話じゃ無いよ!!」

 そのいいわけ無理がありますと海ちゃん。



「電卓が」

 電卓があれば……と空ちゃん。


「空ちゃんは科学の力で補うの?」

 九九が出来ない小学五年生はそんなにも科学の力を必要としてるのかと、そのザンネンな思考にキョウガクをきんじえない海ちゃん。


「エーアイ……とか?」

 AIがなんだかわかって無い感じの空ちゃん。


「AIに頼りすぎると基本スキル延びないよ」

 それ、ただの丸投げだから勉強にならないと海ちゃん。


「でもでも~、辞書も電子辞書だし、計算も全部電子にしたいよ」

 計算できない子の意見。


「計算するのって楽しくない?」

 計算できる子の意見。



「意見がソウイ過ぎよ海ちゃ~~ん」


相違そうい過ぎるの? 空ちゃん?」



***



「じゃあ、わたしが政治家になって算数五点でも生きていける社会を作る!!」

 変な決意をかためる空ちゃん。


「今度は福祉でなんとかするの?」

 今でも結構生きれてると思うけどまだ福祉が必要? と強者の意見の海ちゃん。



「そうフクシで何とかする!!」

 コブシをたからかにかかげる空ちゃん。


「空ちゃん、福祉の意味わかってる?」

 たからかなコブシをを見上げる海ちゃん。



 

「フクシ!!!!」




 あっ! コイツ何もかもわかって無い!!


 海ちゃんは何時もの通学路で頭をかかえました。

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