第22話 髪を切る


 一旦、ルナディアに帰って一月の宿泊費を払い、また日本に戻ってきた。

「あと四年くらいかぁ」

 もう十六歳だからあと四年頑張ればこっちに永住できるな。


 ATMで金を下ろして下着や食料を買い込んでアイテムボックスにしまう。

「あ、髪の毛だったな」

 美容室に予約を入れ、それまで時間を潰す。昔は彼女に切ってもらって大変なことになったのを思い出し、何故か笑ってしまった。こちらではまだ二年も経ってないのに、俺の中ではもう遠い昔のことだから。

「懐かしいなぁ」

 失恋と同時に童貞と歳と日常さえ失くしたのだから、俺の人生ハードだったよなぁ。

「って、俺はまだまだ生きるし!」

 ビックリした、俺の中の何かがエンドロールを流してたぞ。


「はぁ、美容室にでも向かうかね」

 

 美容室に入るとすぐに切ってもらうことになり、シャンプーが気持ち良くて寝てしまったり、美容師さんとの会話がダンジョンのことばっかりだったりした。

「私もダンジョンに潜ってるんですよー」

「へぇ、じゃあどんな感じなんですか?」

「うふふ、気になります?ですよね!私はまだ二階層までしか行ったことないんですけど、もう…………なんですよ!すごいんです!」

「はぁ」

 すっげぇ喋るな!こっちがビックリだよ。

でもルナディアのダンジョンと同じ感じだな。まだ攻略はしていないダンジョンが多いし、初級から上級までランク付けされてるのも一緒か。

「はい!こんな感じでどうでしょうか?」

「あ、ありがとうございます」

 今風にしてもらったら髪の色が凄く明るくなった件について……まぁ、いいか。少しくらいヤンチャな感じになっても、中身はもうアラフォーだけど外見が十代だし。


「おまかせもなかなか悪くないな」

 なんだかんだで気に入ったな。


 いい時間になったので、転移でルナディアに帰る。

 ここアルスタットという街は国境沿いにある街で、良くも悪くも商業が盛んだ。ポケットさんから聞いた話だと闇市なんかもやっているらしい。


「あれ?あんた客にいたかい?」

「あぁ、二号室の客ですよ、髪を切ったんで分からなかったですか?」

「あ、あぁ、黒髪が綺麗だったのに変えたんだねぇ」

「そ、そうなんですよ」

 やっべぇ、こっちでのこと忘れてたよ。

 ルナディアにも髪を切るところはあるにはあるが普通は自分達で切ることが多い。髪に金をかけるのは金持ちだけというわけだ。

「でも上手いもんだねぇ、私も切ってもらおうかねぇ」

「いやっ!これは!その!」

「あははは、嘘だよ。誰かいい人に切ってもらったんだろ?ご馳走様」

「いや、あははは」

 なんか勘違いしてくれてよかった。


「それじゃあアルスタットを見て回ろうか!」

 俺は宿から出て魔法屋を探す。

 ちなみにいまは、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コタロー・カザマ 十六歳

 レベル91

 力 S+

 体 A+

 速 S

 魔 S+

 運 A+

スキル 五行魔法(火・水・土・風・雷)        

    闇魔法 光魔法 回復魔法 転移魔法 時空間魔法 強化魔法 支援魔法 付与魔術

    剣術 槍術 棍術 体術 盾術 感知

ユニーク 


 黒の魔女の弟子

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 もう少しでオールSも夢じゃない。


 魔法屋は大通り沿いにあった。

 結構大きな建物で王国より優遇されてるのか?

「ちわー」

「らっしゃい!魔法玉もスクロールも揃ってるよー」

「おぉ、んじゃ索敵のスクロールとかある?」

「あるよ」

 ほんとに品揃えが良さそうだ。

「他にはなんかオススメは?」

「空間魔法がうちのオススメだ!」

「他には?」

「え、えーと、んじゃ雷魔法は?」

「それもいいや、他には?」

「えぇっ!えーっと、どんなのがいいんだよ?」

「錬金術とかは?」

 男なら憧れるよな!

「錬金魔法はないなぁ。調合のスクロールはあるけど」

「ならそれも」

 結局、索敵、調合のスクロールだけ買った。なかなかの値段がしたが、ほかにはなかったので買うしかなかった。


 次は魔動具屋だ。

 魔動具屋では調合用の道具と素材を買って終わり。これといって惹かれるものがなかった。


 最後はギルドにいって溜まったドロップ品を少し換金しておく。

「なにを買い取らせてくれるんだい?」

「これとこれと、あとこれも」

「レッドキャップの爪に金剛虫の甲殻、あとは……地龍の鱗?!」

「鱗は三枚だけね」

 ビックリしてるおっさんに買取をお願いして、結果五百二十万ゼルになった。王国ルビーから帝国ではゼルになる。


 地龍の鱗なんて何枚もあるし、こういう大きな街でしか売れないからな。

「さて、なにかいい情報はないかな?」

「お前さんならいけると思うが、瘴気の森に出るらしいんだ」

「なにが?」

「ユニコーンだよ。捕まえれば一気に稼げるぜ!」

「へぇ、ユニコーンねぇ」

 ルナディアでもユニコーンは伝説の生き物と呼ばれている。曰く、処女の前にしか姿を現さないとか、曰く、血を飲めば不老不死だとか眉唾物だ。

「ダンジョン系はなんかないの?」

「ダンジョンだとサワディダンジョンが初級、マイコダンジョンが上級でここら辺だとあるぜ」

 マイコダンジョンに行ってみるか。


 アルスタットから東に向かい、川を挟んだ向こう側にダンジョンゲートが管理された町があった。ユゲの町と言うのどかな雰囲気の町だ。

「ギルドもあるんだな」

 アルスタットの宿は引き払って来たので、ユゲの町の宿屋にチェックインする。

「マイコダンジョンは人気がないのかい?」

「いや、普通さね。上級冒険者なんか一度入ったら早々出てこないからねぇ」

「あぁ、だからこんなに冒険者が少ないのか」

 少人数のパーティーしかギルドでも見なかったから人気がないのかと思ったよ。

「あんたもダンジョン入るんなら宿は取らなくていいんじゃないのかい?」

 なんか態度悪いなぁ。

「俺はちょくちょく帰ってくるから宿を取るんだ」

「へぇ、そうかい!そりゃありがたいねぇ」

「とりあえず一月分まとめて払っておくよ」

「あ、ありがとうございます」

 なかなか客がつかないんだろうな。


「いってらっしゃいませー!」

 ほんといい根性してるぜ。


 マイコダンジョン 十階層

 ここのボスはヴィジョンタイガー、影魔法を使う厄介な虎だ。

「まぁ、弱いけど」

 サッと首を刎ねてドロップ品を拾う。

 さすがに王都ダンジョン(コタローダンジョン)に比べると見劣りしてしまうのはしょうがない。帝国には特級ダンジョンがあるからそこに期待だな。


 宿に泊まりながら十階層づつ攻略していくと、十日でダンジョンを攻略してしまった。

「なんか拍子抜けだな」

 百階層のボスもミスリルゴーレムが三十体出て来たがそこまで脅威にはならなかったし。

 特級ダンジョンを探すか。

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