第10話 ジャンキー


 翌朝は小雨が降り続く嫌な天気だ。

「さて、馬車はどこですの?」

「馬車は借りてないぞ、そんなに時間はかけたくなくてな」

「え?じゃあどうするんですの?」

「俺に掴まってくれ、『転移』」

 二人が掴まったことを確認してから転移でスタンヴェールへ転移した。


「え?え!えぇー!」

「これはお見事」

「転移で一っ飛びだ。てかこっちは晴れてて良かったな」

 スタンヴェールは快晴だった。

「ギルドに顔出してから宿を取るぞ」


 宿をとったらいよいよ中級ダンジョンだ。

「ここが中級ダンジョンのハーヴィダンジョンですか」

「あぁ、二十階層までは迷宮型でそこからは開放型だ」

 開放型とは草原や森などの地形で、迷宮型のように区切りがない為、つぎの階層への階段が分かりにくい。あとは全方位に気を配らないといけないから危険度が跳ね上がる。


「さて、んじゃシャインはその槍と盾なんだな?」

 シャインの持っているのはショートランス、突きに特化した円錐型をしているプラチナシルバーの槍とお揃いの盾である。

「そうよ。バレンシア家にある一番最高級の槍よ」

「ふーん、んでサザンさんは?」

「私は投げナイフですね。一応近接でも大丈夫です」

 艶消しブラックのナイフは暗器だな。手品のように何本も出しているのはこの際無視しておこう。


「んじゃ出発」

「「おー」」

 二人ともノリがいいな。


 ハーヴィダンジョン 三階層

「いーやー!」

「こら!逃げるな!」

 三階層のモンスターはでっかいイモムシのキャタピラーだ。舐めてかかると糸で動けなくして来る。

「はぁ!!」

“トストストスッ”

 サザンさんのナイフでキャタピラーはドロップ品に変わる。


「はぁはぁはぁ」

「お前なぁ、あれでもモンスターなんだから倒せよ」

「ムーリー!ブニブニして刺したらぷチューって!絶対ムーリー!」

 シャインはイモムシが苦手のようだがそんなことは知らん。


「おっ!次が来たぞ!いけっ!」

「嫌ァァァァァァ!」

 足蹴にしてキャタピラーに突っ込ませてやった。

「ブシャーって!いや!ムニムニキャァァァァ!」

 ん!なんとか倒したみたいだ!



「鬼!悪魔!おたんこなす!」

「うっせうっせー!ちゃんとしろや!」

「苦手なもんくらいあるっつーの!」

 シャインはずっと文句を垂れている。

 いっそこのまま三階層で迷子になったフリでもしてやろうか?

「なんか考えてるでしょ!ちゃっちゃっとこの階層を抜けるわよ!」

 何故か考えてることがバレてるな。


 ハーヴィダンジョン 十階層

「ボスだから気をつけろよ」

「分かってるわよ!」

 この階層のボスはホブゴブリンチーフ・ナイト・ビショップ・タンク・マジシャンだ。

「まずはマジシャンかビショップを狙え!」

「そのつもり!」

 盾でナイトの攻撃を逸らしてビショップを突いて倒すと、後ろからサザンさんが投げナイフでナイトを倒す。

「せやぁ!」

 シャインがそのまま突っ込んでマジシャンを突こうとするとタンクに邪魔をされる。

「ジャマァ!」

 シールドバッシュで吹き飛ばすとマジシャンに接近して倒した。シャインが後ろを向くとタンクにトドメをさしているサザンさん。

「まぁお見事だったよ」

 チーフはもうサザンさんが投げナイフで倒していた。


「私だってやる時はやるんですからね」

 そりゃやらないとやられるだけだからね。

「さすがお嬢様」

 ここは煽てておこう。


 ハーヴィダンジョン 十一階層

「嫌ァァァァァァ!」

 またまた昆虫系で今度はでっかいタランチュラだ。

「やる時はやるんだろ?」

「いやぁぁァァァ!」

 本当に嫌なんだろう、逃げ回っている。

「サザンさんよろしく」

「了解しました」

 サザンさんは簡単に斬って倒していく。

「お前は何しに来たんだよ?」

「ダメなの!カサカサモゾモゾしてなんなのあの毛は!あり得ないんですけど」

 たしかに気持ちのいいもんではないが、倒さないといけないんだからさ。


 十階層に戻って転移陣で今日は宿に帰る。

「明日はまた蜘蛛からだからちゃんとしろよ?」

「無理なのよ、あれだけは無理なのよ」

「お嬢様、私がおりますから」

 サザンさんの優しい言葉も聴こえてないようだ。


 流石にお守りは疲れる。

 今は夕暮れ前だが昼も食べずに攻略してたから、ってことで今日はジャンクなハンバーガーで乾杯だ。

 お疲れ俺。

 アイテムボックスから机にダブルチーズバーガー、ポテト、ナゲットを取り出し、ハンバーガーを一口。

「うめぇ!」

 缶ビールもキンキンに冷えてやがる。


“バンッ!”

「コタロー!ご飯食べに……」

「モグモグ……」


「何それ?!美味しいの?美味しいの?」

「美味いけどなんだよ?やんねーぞ」

 急に入ってきたシャイン達に見られてしまった。


「なんで一人だけずるいぃー!!お金なら払うわよ!」

 キーキーうるさいのでポテトを食わすと、ウサギのようにモクモクと食べ始める。

「それだけだからな?」

「んーんーんんんんー(そっちもよこしなさいよ)」

「なっ!コイツちからだけは強い!」

「んんんんんんんー(寄越さないと酷いわよ)」

 ポテトを食べながら俺のダブチーを寄越せと襲いかかるシャイン。あ、胸が当たってるって!

 

 俺の負けだ。


「美味っしーーーー!」

「ほんといい根性してるよ」

「ありがと」

「褒めてねーよ!」

 結局、バーガーもポテトもナゲットも出してやることにした。ちゃんとサザンさんにも。

「美味しいですね。このパンも柔らかくて肉もジューシーです。あとこのチーズがなんとも」

「ね!そうなのよ!こんなの家でも食べたことないわ!」

 そりゃこんなジャンキーな食事を出すような家じゃないだろ。


「コタローの飲んでるのも頂戴よ」

「これは酒だ。こっちを飲め」

 コーラを差し出してやる。サザンさんにはビールだ。

「「なっ!、、!」」

 二人が一瞬止まってしまう。

「シュワシュワしてる!なんて美味しい飲み物なの!」

「これはエール!?ではなく別の酒でございますか?」

「シャインのがコーラ、サザンさんのがまぁ、エールみたいなものだ」

 二人とも目が輝いてる。

「ずるいわコタローだけこんな美味しいものを食べているなんて!!」

「食わせてやっただろうが!」


「ふぅー、食べ過ぎたわ」

「私もです。お恥ずかしい」

 二人とも床に横になってる。大丈夫かよ。

「寝るなら自分の部屋で寝ろよー」

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