夢幻現世〜あなたはこの生き地獄に耐えられますか?~
ライト
前編
雨の日の夜の景気が好きな私は、経営学部に席を置いている大学の二回生。名前は
窓を開けて風を感じながら見る雨の夜の街の光。窓を開けているので少し雨が部屋に入り、顔に雨水がかかるけど、その雰囲気が大好き。
雨の日は窓際で椅子に座りその景色を楽しむの。普段は特段考えないようなことを考えてしまう、私の大切な時間。
あの店のスカートが可愛かったとか、同じ学部の岡田くんの横顔が格好いいとか……。
そんな色んなことを考えながら、遠くの家から漏れる光だとか、街灯の明かり、車のヘッドライト、テールランプの赤い光を眺めているの。
全てが雨のせいで揺らぎ、いつもなら魅せることのない様相を呈している。
その日も朝から生憎? の雨だった。
雨が好きと言いながら何故生憎の雨と言ったかを説明しないといけないわね。
夜に家の窓から見る雨は好きなんだけど、朝や昼の雨は濡れちゃうし、窓から外を見ても光がないから面白くない。
だから鬱陶しいと感じちゃう。
「早く夜にならないかな?」
そんなことを思いながら、授業を受けていた。
学校も終わり、特に用事も無かったので家に帰り読書を楽しむ。
夜を待ち望みながら……。
そして、壁掛け時計が夜の十時を告げた。
「さあ〜て、今からが私の大切な時間よ」
カーテンを開けて窓を開け、椅子をセットしてその日だけの特別な夜が始まった。
「はぁ、綺麗……」
その日の雨は何時もより少し激しく感じる。
何時もの景色、何時もの街灯、いつもとは違う車。
雨が何時もと同じに降ることはない。なので、全てが新しく見える。
時折吹く風が頬を撫で、前髪をなびかせた。
まるで映画の世界に入り込んだようなこの瞬間が、堪らなく好き。
また風が吹く。
今度の風は窓のサッシから滴る雨水の軌道を変える程強かった。
落ちてきた雨水が顔にがかかる。
いつもはタオルを側に老いているんだけど、今日は濡れる女を気取りたくてタオルを持ってきていない。
手の平で顔にかかった雨水を拭い取った。
「ん? あんな所に人がいるわ」
何時もの家の前の道。
顔を拭った手の平をどけると、さっきはいなかった人が視界に入った。
少し離れた所にいるその人は、季節外れのコートを着てキャップをかぶっている。
「あれは男の人かな? それとも女の人?」
傘もささずに立っているので、かなり濡れているだろうと想像する。
「何をしているのかな?」
そう思った瞬間、また強い風が吹き込んだ。
顔に雨水がかかり一瞬目を閉じたが、コートの人が気になり直ぐに目を開けた。
「あれっ? こっちに近づいてる?」
先程より明らかに自分との距離が近くなっていた。
こうなってくると俄然興味が湧いてくる。
少し前のめりになってコートの人を観察した。
「動かないわね。こうなったら我慢比べよ!」
ゲーム感覚だった。
コートの人が動くところを見たいがあまり、何故そんな恰好で、何故傘もささずにという疑問すらなくなっていたのだ。
「あの人が動くまで絶対に目を閉じないわ」
そんな時ほど瞬きをしたくなるのが人である。
閉じそうになる目を無理に開けているので、瞼が痙攣してきた。
「ん〜……もう駄目!」
今度は乾いた目を潤す為に、数秒間目を閉じる。
「もう閉じないんだから!」
そう呟いて目を開けると、コートの人がいなくなっていた。
「やっちゃった! 何処に行ったのかな?」
辺りを見渡してみたが、雨の夜なので視界が悪い。
「はぁ、いないや。でも、やっぱり雨の夜は面白いなぁ」
その時。
背後に人の気配を感じて振り返ると、
誰もいなかった。
「お母さんかと思っちゃった。ドアが開いてないのにいるわけないわよね」
気のせいだと思い特に気にかけることもなくまた窓の外を見ていると、後ろから今度は確実に人の気配がする。
「えっ? ドア……開いてないよね」
ドアが開いた音はしていない。恐る恐る振り返ると……。
ずぶ濡れのコートの人が、下を向いて立っている!
声が出なかった。
本当に怖い時って声すら出ない。
口を押さえて震えていると、コートの人がゆっくりと両手を肩まで上げた。
「だーる、ま、ざん、が、ごーろんだ……」
そう良い終わると、顔を上げ目を見開いて大きな口を開けて私に向かって走った来た!
「きゃーーーー!」
肩まで上げた二本の手で首を絞められ、声が出なくなる。
「うっ……」
怖かったが思い切って目を開けると、口を大きく開いているのが見え、いきなり喉に噛み付いてきた!
「ガブッ!」
ブシューーっと音を立てて鮮血が飛び散る。
感じたことのない痛みが全身を駆け巡る。
首の身を噛り取られ、今度は反対側に噛り付かれた。
「ガジリッ!」
そして、反対側と同じように身をえぐられる。
そして勢いよく飛び出す真っ赤な血。
「ガハッ……だず……だすげで……」
薄れゆく意識の中で……。
「わだじ、死ぬの……」
一言残して、完全に意識を失った。
意識が覚醒し目を開けると、そこは自分の部屋の窓際にセットした椅子の上。
「あれ? 私、夢でも見てた?」
首を触っても傷ひとつない。
「やっぱり夢だったんだ……凄く怖かった……」
そう呟き生唾を飲み込んだ私は、目を疑った。
「あれ? コートを着た人がいる……」
正夢かと思わせるシチュエーション。
震える身体を両手で抱きしめる。
「夢……よね? お、願い……夢なら覚めて!」
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