55.派遣されてきたチーム

「アシュメル。あなた、本当に。研究一本の人生だったわね……」


 リーナが、苦笑いをして僕に言う。


「『心に対する物理的アプローチ』なんていう、面白そうな課題をちらつかされて喰い付かないほど、僕は無欲じゃない」


 帝都から出て、魔都に向かう飛行戦艦の中で。僕は、僕とリーナ。それに新顔の植物の専門家(ただの花屋の娘らしいけど、どんな種でも咲かせることで有名だったんだ)の三人のチームで魔都から提案のあった、『魔導樹』の研究についての話をしていた。


「マカナさん。大丈夫? 飛行戦艦って、酔わない?」

「ちょっと……。酔います」

「主治医の先生にまでついてきてもらって、申し訳ないんだけど。『魔導樹』の種を作れたとしても、咲かせられなければ意味がないの。あなたの、花を咲かせる腕。信じているから」

「そんな……。私、ただの花屋の娘ですよ?」

「でも、植物博士でも咲かせることの難しい花の種を、店頭に並べられるくらいに咲かせていたではないの」

「植物の声、聞こえるような気がするんです。私。先生、これって幻聴ですか?」


 マカナさんが、恥ずかしそうに主治医のレイドン先生に聞く。なんでも、マカナさんは長年の間、精神病を患っていて。つい何年か前に退院したものの、いまだに通院を続けなければならない体だそうだ。


「役に立つ幻聴は、幻聴とは言わないよ」


 精神科医のレイドン先生が、何気に名言を吐く。


「それに、余計な声が聞こえるなら。私が投薬で止めてあげるよ。これでも、腕のいい精神科医を自負しているからね」


 この先生は、大したものだな。僕はそんなことを思った。生意気にもね。


   * * *


「……! アルバド?! アルバドでしょ、あなた!?」


 なんだ? 帝国の飛行戦艦が魔都の広場に降りてきて。中から降りてきた『魔導樹』人魔共同研究チームの内の二人。


「……君は、こっちにいたのか。ずっと……」


 ! コイツ、背がますます大きくなってるけど、アシュメルだ! ってことは、さっき俺に向かって叫んだ女は……。


「リーナ……、か?」

「そうよ、アルバドっ!! どうして、あの時。いなくなっちゃたのよ!?」

「……あの時、俺の居場所は帝国には無かった。それだけだよ……」

「アルバド君。久しぶりだね」

「リーナと、アシュメルがいるってことは……。ステッドは?!」


 リーナが目を伏せ、アシュメルも顔をそむける。それでも、アシュメルは言った。


「死んだよ。帝国の勝利のために。そして、人類は魔人族に勝った」

「死んだ?! ステッドが?! 魔神にやられたのか?!」

「そうともいえる。ただ、最後は。自分の意思で、人類を守った」

「何も知らないのね……、アルバド。あなたでも、『機神』のことは覚えているでしょう?」


 機神、か。苦い響きを持つ、魔神を全滅させて散っていった、帝国の決戦兵器。


「機神ステッド。正式名称は、それなんだ。ステッド君は、機神のコアだった」

「! じゃ、じゃあ?!」


 俺は気が動転しかけた。


「君が、この魔大陸にいる間。ステッド君は最前線で魔神や魔族と戦い続けた。そして、最終的には機神のコアになり、魔神を全て。完全に消滅させた……。そういうことだよ」

「……ステッドが……。魔大陸を屈服させた力だったのか……」


 怨念を感じるような気がする。俺は、帝国大陸から逃げ出して魔大陸に来て。

 ネレイドと出会い、貧しく大変でも、幸せを感じられる時間をたくさん持った。

 それなのに、ステッドは。


 機械兵器のコアになって。最後は死んでいったなんて。

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