第二十話 TAKE5
「困っている幼馴染をほおってはおけない」
「私が蒔いた種だもん! 私も一緒にやるのは当然でしょ!」
「幼馴染の危機ですからね。ここは一つ協力しないといけません」
……以上、勝手にビルに入ってきた三人の幼馴染による、答弁でした。
「み、みんなぁ!」
鼻をずびずび、うれし泣きな琴音。
僕のドラムと琴音のベースだけだったもんな。
琴音も不安だったのかもしれない。
「で、本音は?」
「「「う?!」」」
それまで三人でハモらなくても。
ほんと仲が良いんだから。
すると、くるりと後ろを向いて、何やら三人でコソコソ。
「だから言ったじゃない! 琴音に限って、抜け駆けなんて考えていないって!」
「それはまだ分からない」
「そうです! ああ見えて、意外と大胆なところがあるのが琴音さんですから!」
何を話しているのかは聞こえないけれど、間違いなくロクな事じゃないことは判る。
「本当に嬉しいよぉ!」
「「「きゃあ!?」」」
通学カバンからポケットティッシュを取り出し、ずびびっと鼻を噛んだ琴音は、三人に抱き着いた。
「じゃあさ、またみんなで演ろうよ?」
「にしし♪」と笑う琴音にすっかり毒気を抜かれたのか、三人とも立ちあがると、僕の方を向く。
「しょ、しょうがないわね! そこまで言うなら、やってあげるわ!」
赤いツインテ―ルをかき上げる美穂。
君が変な賭けに乗ったのが悪いんじゃないのか?
「琴音はともかく、そらが負けるところなんて見たくない」
乱れた青い髪を押さえつけながら、頷く玲奈。
負けるの前提なの?
「私はもともと、そらくんにお願いされたら一緒にやるつもりでしたから」
頬に掛かった金色の髪を後ろに流す愛花。
うんうん。嬉しいけど、まだ僕お願いしていないよね?
「それで? そらはなんでわざわざここに?」
事情聴取は終わったとばかりに、美穂が質問してくる。
まぁ、もういいけど。
「いや、練習する為だけど?」
「そうじゃなくて、軽音楽部の部室あるじゃない? そっちを使えばいいでしょ?」
「そうなんだけどね」
最初は、琴音に迷惑掛けると思ったからこのスタジオを使おうって思ってたんだけど、立木部長が料理研究部の部長さんに許可を取った今、内緒にする必要は無くなった。
だから、軽音楽部の部室を使えるんだけど……。
「実はさ、軽音楽部の部室が使えなくて」
軽音楽部の部室は二部屋ある。
空き教室になっていた二部屋を、軽音楽部の部室として使用している。
もともと昔は、郷土資料室とその準備室だったらしいけど、市の図書館兼歴史資料館が出来て、ここに有った郷土資料はそこに寄贈されたらしい。
資料が置かれていた棚が、今はスピーカーやアンプが置かれているというわけだ。
それはともかく。
二部屋あるのだから、交互に使えば僕たちにも順番が回ってくるはずである。
なのに、僕と琴音がディオで演るって言ったその日から。
なぜか俄然やる気を出した松本先輩が、全然部室を空けてくれなかった。
割を食う形になった残りの先輩方と僕たちは、残り一つの部室を交互に使うしかないんだけど、さすがに僕は一年生で、しかも二人しかいないから遠慮していた。
なので、僕たちはまだ一回も部室で練習出来ていない。
先輩方は、その事を立木部長に話したいみたいなんだけど、文化祭に向けた部長会?ていうので忙しいみたいで、まだ話せていないみたい。
「まぁ、ここがあるから僕たちは全然焦っていなかったんだけどね。って、どうしたの?」
気付けば、美穂と玲奈、そして愛花がまた後ろを向いてしゃがみ込み、ボソボソと何か話している。
「そんなんだから、琴音とデ、デートでも行ったんじゃないかって思っちゃったんじゃない!」
「ほんと、あの茶髪先輩はロクな事をしない」
「いっそ、邪魔できない様にしてしまいましょうか」
琴音とデートはともかく、愛花さん? ちょっと怖いですよ?
「まぁまぁ。でもそれで三人が来てくれたんだから、逆に良かったかな。ね、琴音?」
「うん♪」
「ありがとう」って三人にお礼を言うと、立ち上がってモジモジしだした。
「そ、そう? そらがそういうのなら、ウチ、勘弁してあげようかな!」
「そうだね。許してあげる。私、大人だから」
「えぇ。あんな不良、自分たちが相手にするまでもありませんね」
それは良かった。
「コホン。そ、それで演るのはカバー? それともオリジナル?」
立ち上がった美穂が訊ねてくる。
文化祭で演奏する楽曲のことだな。
「オリジナル。カバーは駄目だって」
「そっか」
美穂の表情が曇る。
その理由は分かるよ。
入学して立った一ヵ月少しで、オリジナルを1曲作ってそれを皆の前で演奏するなんて、かなりハードル高いもんな。
「でも、オリジナルで良かったじゃないですか。今からカバーをやるよりかは」
「そうだね」
愛花の言う通りだ。
曲によるけど、1曲カバーはかなり大変。
当たり前だけどまるまる1曲練習しなくちゃいけないし、バンドスコアも用意しなくちゃいけない。
それに観衆のみんなが知っているような有名な曲になれば、確実に比較されてしまう。オリジナルの人たちには、どう足掻いたって勝てる訳がない。
それにひきかえ。
オリジナルなら極端な話、1分くらい演奏して「はいお終いです」って出来る。
短い練習時間しかない僕らからすれば、断然オリジナルだ。
「まぁオリジナルっていっても、ちゃんと形にしなくちゃだけどね」
「それは当然」
ウンウン頷く玲奈。
「私たちが演るのなら、中途半端なモノにしたくない」
「そうだね」
そうなんだけど、さ。
まぁともかく。
──全員集合だ。
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