【結婚祝い】

 ○月〇日。午前9時。南部興信所。会議室。

 会議室と言っても、実は、衝立で仕切ったテーブル。今日は全員が揃って、所長からの話があった。

「と言う訳で、50年かけて、ゴールイン、や。どうせ財産継ぐ者もおらんから、って引き出物も派手やったらしい。ウチはカタログが届いた。新婚旅行は、天童さんの怪我次第や。」

「所長。重症やないんですか?」と,俺は所長に質問した。

「左腕を貫通。運動神経がええから、咄嗟に左腕で庇った。敵は正面から顔を狙ったらしいから、普通なら即死やな。ヤクザの鉄砲玉が人違いで狙ったらしい。」

「人違いで殺されたら、たまらんなあ。」と、花ヤンが言った。

「人違いで殺されたら、たまらんなあ。」と、横ヤンが言った。

「それ、今、ワシ言うたがな。」「あ。同感ですぅ。」と、横ヤンが訂正した。

「幸い、貫通したのと、所謂『神経』は切れてないらしい。けど、リハビリせんことにはなあ。お仲間の、EITO大阪支部で師範やってる松本さんは、今朝新幹線で向かったよ。新婚旅行は大阪の予定やが、いつになるかもしれんからな。ああ、それから、中津さんが婚約したらしい。中津興信所の所長やってる、中津君やなく、兄貴の中津警部や。お相手は、本庄弁護士らしい。」

「ウチも初めて聞いたけどな。2人は学校の同級生らしい。まあ、50年越しには勝てんけどな。」

「所長夫人と違って、奥ゆかしいわな。」と、俺は、お嬢を弄ったが、「何てええ。」と、お嬢は冗談で返した。余裕やな。

 倉持がケラケラ笑った。俺は、思わず先日の、倉持と小町の出逢いを思い起こして妄想した。イカンイカン。

「ほな、分担な。花ヤンと横ヤンは淀川の殺人事件の目撃者捜し。倉町と幸田は、この依頼者の浮気調査や。」

 所長は、データ書類を俺に手渡した。女房はブス、旦那は醜男。似合いの夫婦やないか。金も絡んでいるのかな?

 午後7時。

「ただいまー。」今日も、何となく一日が終った。今日は、店の方でなく、俺のアパートの方に帰った。

「あんた。まだやったわ。」どうせ、「妊娠してるかも?」と言って、藤島病院に行ったのだろう。

「鶏やあるまいし、ポンと出てくるかいな。」と言うと、ドリンク剤を渡された。

 滋養・強壮にいいか知らんが、子作りに即効性がある訳やない。

 黙って、飲み干す。こいつと一緒になると覚悟したんや。こいつの夢は叶えてやりたい。何年も兆候なかったら、里親になるしかないかな。そや。結婚祝い、どうしよう。あの蒲鉾屋の『上等の蒲鉾』にするかな?

 午後9時。

 寝床を敷きながら、澄子は、「警部も年貢の納め時か。」と言った。

 うんと頷き返して、ん?となった。何で、朝礼の話を知ってる?

 あ。お嬢か。『しゃべり』やさかいなあ、あいつ。

 ―完―

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