【マスク着用殺人事件】

 〇月〇日。

「只今―。」「お帰り。」「悲しいわ。」「何が?」

 澄子の質問に、俺は事件のあらましを話してやった。

 ある高齢者の男Aが、別の高齢者の男Bを殴り殺してしまったのだ。

 高齢者Aは、所謂「マスク真理教」である。宗教団体ではない。宗教じみた「思い込みによる依存症」なのだ。

 コロニーはもうとっくに終っている。コロニーが5類に下がった時、厚労相は「自己判断で」と発言してしまった。

 そんなあやふやなことを言うから、旧テレビ局体制で「マスクは必須。高齢者は特に着用しないとコロニーにかかる」という、根も葉もないガセが拡散してしまった。

 現状に対する弊害を重く見た市橋総理が、「医師の指示の無い人は、出来るだけ外しましょう」と電波オークションの後、発言したのだが、一部マスコミは「まだ終っていないから必要だと喧伝した。それを鵜呑みにした高齢者が「信念」のように、「マスクを未着用の者はウイルスをばら撒こうとしている」などと言う妄想を持っている。

 医師や看護師が、患者に治療する前にバッタバッタと倒れる「バイオハザード」状態なのか?呆れるばかりだ。

 その男Aは、他の診療所でマスク着用を強要されたらしい。

 だから、Bを許せなかった。

「藤島先生も、東京の池上先生も、マスク外そうデモに参加したよ。でも、まだ、そんなアホがおったんやな。」

「マスクはひとに移さない為のもの、って言葉を知らないのね。マスクしててもしていなくてもバリアになる訳ではないから、うつされる可能性はある、って話。」

「やりすぎました、ってさ。よく言うよ。」と言いながら。佐々ヤンが入って来た。

「全日本医師連合が悪い。未だに『幽霊病床』で儲けている。次の疫病が流行りだした時、また嘘出任せが蔓延するやろうな。」

「アホに付ける薬はないちゅう事やな。」

「あのー。」

 奥のテーブルにいた、男がやって来た。

「私、こういうもんですが、今の話、詳しく聞かせてもらえませんか?」

 男の手首に、一美の手錠がかかった。一美は、従業員に化けていた。

「煽り屋半兵衛こと、碇半兵衛やな。逮捕したの、別嬪さん出よかったな。」

 男は、皆が笑っていることで状況を察したようだ。

「あ。連行の前に精算していってね。」

 澄子は、しっかり女房や。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る