『捕り物』
〇月〇日。
今シーズン最後のおでん、ということで、俺は倉持を呼んで、3人でおでんをつついた。倉持は俺の「優秀な」後輩だが、最早身内のようなものだ。澄子は、いつの間にか、倉持には料金を請求しなくなっていた。
「すいません。御馳走になってばかりで。」「ええやんか、気にすんな。それより、今日の『捕り物』面白かったな。」
「腰抜かしてましたね。怖かったのかなあ。」「怖かったのは、俺らや無くて二美やろ。空飛ぶバイクで追いかけてきたから。俺らは、トオセンボをしただけやろ。」
俺は、澄子に事情を説明した。午前中に、浮気調査案件が終わったから、のんびりしていたら、所長から連絡が来た。小学校の廃校近くの市営住宅付近で、『闇討ち』が流行ってて、日本刀振り回して怪我させる奴らを捕える為にEITOに協力しろ、ということで、夜に出動した。
「銃刀法違反なのに、何で日本刀を使って襲ったか。捕まった奴は、皆、若者の、スマホ脇見運転で怪我をして重傷になった人間の身内やった。それを半グレが見付けて、話を持ちかけた。半グレは、売るだけで直接怪我させたりしてへん。殺す目的で日本刀振り回したら、障害致傷か傷害致死や。金が幾らかかったかは知らんが、脇見運転で怪我させた奴らは不起訴やったから、怒りが堪ってたんやな。そやから、ターゲットは不特定多数。でも、脇見運転してないバイクや自転車に乗ってた者は襲われてない。やつらなりのルールがあった訳や。」
「江戸の敵を長崎で、ちゅうことかいな。」「まあ、あの会社は、なかなか尻尾を出してなかったらしいから、捜査員はラッキーやった。東京で辻斬り流行ったことあったけど、今度は夜だけ。闇討ちは夜の不意打ちやからな。こっちが先に不意打ちする、ちゅう作戦やったんや。やるもんやで、あのオッサン。」「あのオッサンて?ああ、大前さんか?」
「他におらんヤロオ、大阪支部に。」と、俺は笑った。
「それで?」「それで、半グレに乗り込んだ、EITOエンジェルズが一網打尽ですね、先輩。」「ところが、どっこい。お嬢1人で社長を倒したら、全員白旗や。」
「どこから、それ?」と言いかけた倉持と澄子に俺は言った。
「本人から自慢のメールが来た。あほくさ。日本刀を三枚におろした、って言ってた。」
「そんなアホな。魚か。」と突っ込み入れた澄子に、「那珂国製の刀はナア、『焼き』が甘いらしい。それで、棒2本で跳ね飛ばしたら、3本になって、地面に刺さった、ちゅうことや。松本さんの受け売りやけどな。」
今夜は、話が尽きるまで時間がかかるな。
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