凶事

 春夏秋冬を祀ったトコワの国の四神殿。そこでは年に一度、星空の世界から竜の卵が一つ贈られる。卵は托卵たくらん巫子ふしあるいは巫女みこが預かり、孵化の旅に出て雛竜ひなりゅうかえす。

 生まれた雛竜は迎えにきた竜たちと共に星空の世界へと帰還し、一年後には四季を統べる四季竜となって生まれ故郷であるトコワ国を見守り祝福するのが習わしであった。


 ──しかし、昨年の夏。


 慣習に従って孵化の旅に出た夏神殿の托卵の巫女が、不慮の事故で命を落としてしまった。旅先で急に降り出したこぶしほどのひょうに頭を打たれたのが原因だった。

 すぐに別の者が卵を預かったが、生まれる前に仮親の死を間近で経験した竜の卵は深く傷つき、孵ることを拒否してしまう。


 夏神殿、二百年ぶりの凶事だった。


 孵る竜がいなければ翌年の夏竜は不在。統べる竜のいない季節は破天と災害に見舞われる。すぐにトコワ国全土に、翌年に備えるようにと触れが出された。

 孵らなかった卵を抱え途方に暮れる夏神殿には『大変だろうが後は任せた』と言わんばかりに次の卵が贈られてくる。巫子たちは新たな卵を安置する台座から大急ぎで用意する羽目になった。


 二つの卵をどうするべきか。困りきった夏神殿は星詠みの神託にすがった。


『最も暖かく、最も明るき赤星の下に生まれた双子を次の”托卵の巫女”とせよ』


 その神託により探し出された双子がリリとリラである。

 町の小料理屋で生まれ平凡に生きてきた二人の少女がトコワ国の希望と祀り上げられたのは、こうした経緯あってのことだった。

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