第30話「時の魔女」


―学園中庭


「シオン、彼女と戦っちゃだめ!」


「お姉様、見ててください。今からこの女をぎゃふんと言わせてやりますから」


決闘の噂を聞き中庭に来たレオナ。

嫌な予感がして来たようだが、それは的中した。

レオナの「正式な」婚約者のレナスが来ていたのである。

彼女は「時の魔女」で文字通り時間を操る、この世界で5本の指に入る魔女なのだ。

そんな厄介な相手に詩音が勝てる訳がない。

心配したレオナは二人の間に割って入った。


「この決闘は無効よ!どうしてもというのなら私が受けるわ!」


「君が?幼い頃から一度も勝った事がないのに?」


「お姉様、いいんです。私この人と戦います」


「ほうら、本人もそう言ってるし、ね?」


詩音本人がああ言ってる以上、レオナはこれ以上口出しができなかった。

時の魔女レナスはローブのフードを取るとそこには片目に眼帯をした黒髪のショートヘアの女性がいた。


「じゃあ始めようか、杖よ!」


「あれは私の・・・!?」


自分の魔術が真似されて驚く詩音。

杖からはレーザーの様な物が照射され詩音の左足を貫く。

痛みは無いが、その足を動かす事は出来なかった。


「その足の時間を一時的に止めただけだから安心するといい」


「くっ、片足くらい!レビデイト!」


詩音は浮遊の魔術を唱え高速機動戦モードに入った。


「どこまで避け切れるかな?杖よ!」


浮遊した杖は1本から5本に増え、無数のレーザーが詩音に向け照射される。

脳のある頭や詠唱している口のある顔に当たったらおしまいだ。

詩音はレーザーの包囲網をなんとか潜り抜けるのに精一杯だった。

そこにレナスからの直接攻撃が加わる。

魔術の彗星がレナスが手にした杖から放たれた。


「杖よ!」


今度は詩音が杖を呼び出した。

レナスよりも多い7本の杖である。

詩音の杖全てが詩音の周囲を囲み、

向かって来たレーザーを、魔術の彗星を魔術障壁を展開して防いだ。

当然それを受けた杖は機能を停止し地面に音を立てて落ちた。


「くっ・・・、杖―」


「させないよ」


時間停止のレーザーがレナスの杖から放たれる。

その当たった場所は顔だった。

頭、顔、鼻、耳、口とあらゆる感覚が時間を止める。

当然詩音の思考は止まり、詠唱もできなくなってしまった。

音を立てて空中から落ちて来る詩音。

それを受け止め様とするレオナだったがその前に詩音が空中で停止した。

詩音は蒼いオーラを発すると詠唱もせず古びた魔術書を召喚した。


「そんな、詠唱無しで魔術を使うなんて!?」


驚愕するレナス。

地面に落ちた詩音の杖が再び宙を浮き詩音の周りに展開する。

そして杖は眩い光を放ち、その光に触れたレナスの杖は音を立てて地面に落下した。


「くっ・・・こうなったら時全体を止めてあげるわ!時よ!」


しかし何も起こらない。

レナスは手持ちの杖で試しに魔術を振るうが何も起こらない。

どうやら魔術が無効化されている様である。


「そんな・・・こんなの古代魔術級じゃないとできっこない・・・!まさか!」


そのまさかである。

詩音の古びた魔術書は強力な古代魔術が載っているアーティファクトなのだ。


「くっこうなったら・・・!」


レナスは腰の剣を抜き詩音に襲い掛かった。

それを詩音の杖が遮る。

杖達はレナスの周囲に展開すると青い波動をレナスに送った。


「くっ・・・頭が!」


激しい頭痛に襲われるレナス。

レナスはそのまま倒れ込んでしまった。


「勝者、シオン!」


審判が勝利者宣言をする。

宙を浮いていた詩音はゆっくりと地面に倒れ込み、レオナに抱きかかえられるとその腕の中で眠った。


―学園保健室


「うーん、ここは?」


「保健室よ。大丈夫?なんともない?」


ベッドに横たわる詩音のすぐ側にはレオナがいた。

例のレーザー攻撃で時を止められた詩音だったが、その時は動き出し正常な状態へ戻っていた。


「はい、大丈夫です」


「よかった・・・」


レオナを心配させてしまった事に対し申し訳なく思ったが、心配してくれて嬉しいと感じる詩音だった。

そこへその雰囲気を台無しにするが如く乱入者が現れた。

あの時の決闘相手、時の魔女レナスである。


「何しにこられたんですか」


レオナが警戒してレナスを睨みつける。

しかしその口からは意外な言葉が発せられた。


「君との婚約は破棄するよレオナ」


「本当ですか!?」


レオナの前に反応したのはベッドの上の詩音であった。


「その代わりシオン、私と婚約してくれ」


「ええええええええええ!?」


突然のプロポーズに驚く詩音。

しかし詩音の答えは決まっていた。


「悪いですけど私の婚約者はお姉様ただ一人です!」


「シオン・・・」


「本人にその気がないならしょうがない。だがいずれまた来るからね」


「何度来ても答えは同じです!」


詩音が言い切る前にレナスはその場から消えていた。

詩音が自分の事をここまで想ってくれている事に感動するレオナであった。

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