第97話 仕返しタイム

 

水よマイン回れディスドーヴ

「かはっ──」


 まずはオーソドックスに、回転する水の刃で魔王興行師の喉を切断する。


 しかしすぐに斬られた首が回復した。


 よし、まだいける!



水よマイン分離しレファフィリード 弾けろラツォート

「うぶっ!!?」


 魔王が水風船のように膨らみ、そして弾けた。


 ちなみに俺とミーナに魔王の血肉が飛んでこないよう、水の壁で守っている。



「……これは、ちょっとヤバいか?」


 魔王が復活してくれるか少し不安になった。


 数分後、はじけ飛んだ血肉が集まり、魔王は蘇った。


 良かった。

 心配させやがって。


 これで大丈夫なら、もう少し無理ができるな。



「ふ、ふざけるな! 我はまお──」


水よマイン双璧となりシュラム 押しつぶせリホルズ


 2枚の水の壁を作り出し、それを高速で合わせるようにして魔王にぶつけた。


 エルフの王国ミスティナスに攻め込んできた3体の魔族を葬った時の様に、魔王の身体は水塊の中でバラバラになっている。


 以前はこのまま魔族が消滅するまで殺し続けたが、今回は水の塊を解除する。



 しばらく待つと、バラバラになった肉片から魔王が復活した。


 次はアレをやってみよう。


 立ち上がった魔王に杖を向ける。


「ちょっ、ちょっとま──」

水のディポート 粒よマイン止まれディフシーク


 何か言おうとしていたが無視した。


 魔王の身体が一瞬で氷漬けになる。

 血液も全て凍らせた。


「ミーナもる?」

「えっ、良いのかニャ!?」


 俺の背後でソワソワしてたから、彼女も魔王に攻撃したいんじゃないかって思ったんだ。ガロンヌさんにミーナ専用の鎧や手甲を作ってもらったが、彼女はまだそれを攻撃用途にはほとんど使っていない。


 全力で何かをぶっ壊すって気持ちいもんだ。


 破壊対象が世界を恐怖に陥れる魔王の肉体で、しかも何度でも蘇るって言うのなら、なにも遠慮する必要なんてない。


「全力で殴って良いよ」

「トール、ありがとニャ!」


 氷漬けの魔王にミーナが近づく。


 彼女から目に見えるぐらい濃密な魔力が放出された。


 その全ての魔力が拳に集められる。

 ちょっと空気がピリついた。


「せいニャ!!!」


 ミーナの拳が消えた。


 離れた場所にいる俺が彼女の拳を見失うほど超高速で、ミーナが魔王を殴った。


 凍った魔王が粉々になり霧散する。


「んー! さいっこうニャ!!」


 ミーナが気持ちよさそうにしていた。


「これでこの鎧も、魔王を一回倒したって箔が付いたニャ」


「ガロンヌさんに報告しなきゃね」


 少し待つが、魔王はその場で復活しなかった。



「あっ! アイツ、逃げようとしてんじゃん」


 肉体を粉々にされたことを良いことに、魔王はこの場から逃走しようとしていた。


 でも魔王の魔力は覚えたから、逃がしはしない。


 そもそも魔王の移動速度は遅かった。


 魔王と一緒にいた魔族が高速で移動可能な風魔法を使うんだろう。それでファーラムから離れたこの城まで高速で逃げて来られたんだ。



 ──***──


 魔王城から離れた森の中。


「こ、ここまでくれば」


 魔王は俺たちから逃げきれたと思ったのか、安堵の声を漏らしていた。


「なんで我がこのような──」


「魔王の癖に逃げるなよ」

「っ!? ひ、ひぃぃっ!!」


 背後から声をかけたら、魔王はわかりやすく動揺していた。


 俺とミーナの姿を確認すると、這うようにして逃げて行く。


 逃げ出すってことは、やっぱり死ぬのは苦痛なのか?


 何度死んでも生き返るって言ってたけど、本当にやりたい復讐は早めに実行しておいた方が良いかもな。



「俺がやられて一番痛かったのが、焼けた鉄の棒を押し付けられる拷問。でもここに鉄の棒なんて無い。だから、こうすることにした」


 杖を向けると魔王が慌てて立ち上がり、走って逃げだした。


 距離をとってくれて助かる。


 自分たちを守るための魔法を展開しなくて良いからな。



水よマイン加速せよレィーツ


 魔王を中心に、半径20メートルの水分を全て蒸発させた。


 蒸気になった水分子を更に加速させる。


「あ゛あ゛ぁ゛っ゛! あ゛づぅ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」


 水で焼く。

 これを常圧加熱水蒸気という。


 常圧加熱水蒸気を利用したオーブンなんかは温度が300~350℃とか。


 今、魔王の周囲はそんな温度になっている。

 

 通常の大気圧環境下ではこのぐらいの温度が限界。



 魔王は死んだらしく、反応が無くなったので魔法を一旦解除する。


 次の魔法に向けて魔王の周囲を分厚い水の壁で覆った。



「はっ。わ、我は、いったい──っ!? なんだ、この水は」


 生き返った魔王に、先ほど使ったものの上位互換魔法を放つ。


水よマイン加速せよレィーツ


 詠唱は同じ。


 しかし使用条件が異なれば、魔法は更なる効果を発揮する。


 今回は魔王を囲む水の内側だけをどんどん蒸発させていく。減った分の水は周りから回収し、魔王を取り囲む水の壁の大きさは絶対に変化させない。


 そうするとどうなるか。


 魔王がいる空間の蒸気圧がどんどん高まっていき、常圧加熱水蒸気では達成できない超高温へと温度が上昇していく。


 圧力を維持できれば、1000℃以上にすることも可能。


「ッツ…!! かひゅ──」


 丈夫な肉体を持つ魔族でも、高温高圧環境下ではまともに声も出せないようだ。



 さて、次はどの魔法を使おうかな?


 蒸し焼きになって地面に横たわる魔王興行師の復活を待ちながら、俺は次に使う魔法の検討を始めていた。

 

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