第80話 魔物の集結を知る


「ところであんたたち、これからどこ行くの?」


 旅支度を整えていると、ウンディーネが聞いてきた。


 グラディムの王城で暮らすようになった彼女は、結局まだ精霊界にはかえっていない。


「ファーラムって国に行きます。そこに俺の知り合いがいる可能性があるので」


「それはまた遠い所を目指してるのね。トールの知り合いって、貴方とおなじ異世界人ってこと? もしかして、そっちが勇者とか?」


「そうです。俺は彼らの召喚に巻き込まれたんですけど、大人としてあの子たちを守らないといけません。俺は彼らを、元の世界に還したいんです」


「勇者なんでしょ? それにトールはスキルを貰えなかった無能異世界人。普通は貴方が勇者を守るなんてできっこないって笑うんだけど……」


「トールならできるニャ!」


「そう。トールならできちゃいそうなのよね」


 大精霊にそう言われると自信が持てるな。


「ありがとうございます」


「でも勇者を探してるなら急いだ方がいいかもね」


「どうしてです?」


「ファーラム付近に魔物が集結してるって、風の大精霊が教えてくれたの。集まってる魔物は、魔人に操られてる可能性もあるみたい」


「魔人に操られた魔物が集結してる……。それなら、急がなきゃ!」


 もしかしたら勇者たちがその魔物と戦おうとするかもしれない。女神様からスキルを貰えなかった俺がここまで強くなれたので、ちゃんとしたスキルを貰った勇者は、今の俺よりずっと強くなっている可能性が高い。


 俺が心配する必要なんてないかもしれないけど、危険な魔物と戦うのは大人であるべきだと思う。


「いくらトールでも魔物の数が多すぎたら一般人を守り切れないと思うよ。魔族が指揮してるなら、その数は数万体とかになることだってある」


「す、数万!?」


「魔族1体でその数だよ。魔族がつるむことなんかこれまでは無かったんだけど、エルフの王国ミスティナスでは3体の魔族が結託して攻めて来たって情報もある。ちなみに世界樹から聞いたの。魔族が複数同時に現れるなんて信じられないかもしれないけど、これは確かな情報よ」


「知ってるニャ。だってその3体の魔族倒したの、トールだニャ」


「……え」


「トールは魔族3体を相手にしても勝てちゃうから、きっと大丈夫ニャ」


 ミスティナスでの戦闘は、事前にしっかり準備できていたってのが大きい。それから俺専用の杖、ハザクを手に入れていたから。


 100年に一度、全部で13体現れるという魔族のうち5体は俺が倒した。勇者がまだ魔族と戦っていなければ、残りの魔族は8体。

 

 その全てが敵として襲ってくるのが最もヤバい。


 最悪を想定すべきだろう。



 世界樹からの情報だと残りの中に最強の魔族、魔王と呼ばれる個体がいるらしい。そもそもミスティナスで倒した魔族は、どいつも俺より魔力量が多かった。


 魔王がいるなら、俺がこれまで倒してきた魔族以上の強敵だ。


 世界樹と契約して、ハザクを持った俺でも厳しいかもしれない。


 でも、ここに来た俺なら──

 


「え、えっ、ちょっと待って。魔族3体をひとりで倒すバケモノに、私は水魔法の詠唱速度と攻撃力と攻撃範囲が全部2倍になる加護あげちゃったってこと?」


 そう。水の大精霊ウンディーネから強力な加護を貰うことができた今の俺なら、魔王と7体の魔族が相手でも何とかできる気がするんだ。

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