第27話 エルフ姉妹と同行
「なるほど、昔助けてもらった勇者に教えてもらったから、ララノアは俺たちの言葉が話せるんだ」
「ウチと同じにゃ!」
無事にララノアたちエルフと和解でき、今は俺の馬にララノアを。ミーナの馬にララノアの姉のラエルノアを同乗させてゆっくり移動している。他のエルフたちは走って先に
エルフは世界樹のそばにあるこの森では精霊の加護を受けられるようで、馬よりも速く長距離を移動できるようだ。身体能力が上がり、五感も鋭くなる。そんな森の中で俺に抵抗できず捕らえられたことを信じられないと言っていた。
先に王都へ戻ったというエルフたちだが……。俺たちを迎撃する準備を整えているんじゃないだろうかと少し不安になる。この世界に来て初動が最悪すぎたせいで他人を信じられなくなっている。
いきなり騙されて奴隷にさせられ、剣闘士となって命がけで勝利したのにひどい拷問を受けた。そもそも言葉が通じない状態でこの世界に送り込んだ女神にも怨みがある。神相手に怒ってもどうしようもないから、女神への怒りも俺を拷問した興行師に還すとしよう。
とにかく、奴らのせいで俺はこの世界の全てを疑うようになった。そのおかげで今日まで生きて来られたともいえる。打ち解けたと思ったコロッセオの統治者が何度も俺に刺客を送り込んできたように、ここは他人を信じすぎれば命を落とす世界だ。
ただ、ミーナだけは無条件で信じられる。それぞれが命の恩人になったこと。そして利用し合うのではなく、相手のために何かしてあげたいと互いに思っているから彼女といると心から落ち着ける。
もし彼女が俺を裏切ったら。
ミーナに殺されるなら俺は死んでも良い。
それ以外で俺は死ぬつもりはない。誰かがミーナを傷つけようとするのを、俺は絶対に許さない。
だからエルフたちが裏切る可能性は常に頭の隅に置いておく。いつでも対処できるよう、何が起きてもミーナを守れるように警戒は怠らない。
「私、馬に乗るのって初めてなんです」
「へー。そうなんだ」
互いに謝罪したことで俺が完全に気を許したと思っているのか、ララノアは無邪気な笑顔で俺を見ながら話しかけてくる。
そもそも彼女は、俺とミーナが魔物のいる森で無警戒にキスしていたのを危険だと注意してくれるような無垢な少女だ。ララノアが俺たちを裏切る可能性は低い。問題は大人のエルフたち。
姉のラエルノアは妹と楽しく談笑する俺をたまに睨んでくる。妹が男と楽しそうにしているのが気になるからなのか、あるいは……。
「トールさんは勇者様みたいなスキルを持っていないのにお強いんですね」
「ミーナのおかげかな。俺が水魔法を使えるって気づかせてくれたんだ」
血を分離すれば魔力を含んだ水として水操作が容易にできるってことも気づかせてくれた。あの瞬間、俺は水魔法の神髄に覚醒したのだと思っている。
「あの。トールさんはミーナさんと、恋人なんですか?」
突然聞かれて少し悩んだ。ララノアは俺たちがキスしていたのを見ているから確認のつもりで聞いたんだろう。恋人か。今更だけど俺たちって、恋人なのかな? よくよく考えれば付き合ってほしいと告白なんてしてない。
でも俺の気持ちはずっと同じだ。
「うん。命をかけて守りたいくらい俺にとって大切な女性」
「す、素敵です」
そう言うララノアのエルフ特有の長い耳は真っ赤になっている。
「ねぇ、聞いたかニャ? うち、トールの恋人だって。命をかけて守ってくれるってニャ。いひひっ、ウチ幸せニャ」
ニヤニヤしながらミーナがラエルノアに話しかけている。ララノアが通訳しなければ言葉は通じないのだが、彼女は惚気を誰かに聞いてもらいたくて仕方ないようだ。
「私はおふたりを応援します。ミーナさんの身体の傷を治したいんですよね?」
「そうだよ。俺も彼女も奴隷だったんだ。その時に付けられた傷を消してあげたい」
「トールさんたちも奴隷に……。人族って、同胞も奴隷にするんですか」
ララノアの表情が曇る。奴隷という言葉を知っていても、その実情がどれほど悲惨なものかは知らないのだろう。人族である俺が普通に来ることのできるこの森にひとりでいたことから、彼女の警戒心のなさが分かる。
まだこの辺りには奴隷狩りが来ていないのだろうか? それとも、この世界ではエルフを奴隷にする需要が無いとか? 美的感覚は元の世界と同じようなので、エルフが人族にとっても美しい種族だということは間違いないと思う。
この森はエルフの身体能力を強化するらしいから、ここでの奴隷狩りを避けているというのも考えられる。それにしたってララノアの行為は褒められたものじゃない。
「人族は良い人が多いよ。でも数が多いから、悪いことを考える奴だってたくさんいるんだ。人族同士が殺し合うのを余興にしてしまう。自分より下の立場の存在を作ることで欲求を満たそうとする」
これから気を付けて欲しいから脅しておく。
「だから君みたいな可愛い子がひとりで森を歩くのは危ないよ。人族の奴隷狩りが狙ってくるかもしれないから」
「はい、お姉ちゃんにも言われました。今後はもう、ひとりで森に来るのは止めるようにします」
馬に乗って移動を始める前、姉のラエルノアが彼女に何かを話し、ララノアはひどく落ち込んだ表情をしていた。その時に俺が言ったことと同じようなことを言われていたのだろう。
きっと初犯ではないんだろうな。
これまでは運が良かった。
今回も相手が俺たちだったから、少し問題はあったが何とかなった。しかし次もそうだとは限らない。姉が殺されるかもしれないという恐怖を感じ、彼女にとって良い薬となったはず。これ以降は本当に注意してほしい。
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