第25話 異世界式の交渉
手を広げて集中する。索敵魔法の中にいるエルフたちを攻撃目標に設定。彼女らの周囲まで俺の魔力を伝播させる。
準備完了だ。
「
「そ、それは!
先ほどエルフの少女を拘束した魔法だ。それに気付いた彼女が仲間に警告を発したようだ。でも無駄だろう。俺が詠唱した時点で既に水が彼女らの手足にまとわりついているし、そもそもこの分厚い水の防壁の中からは音なんて伝わらない。
この中にいては外部の状況も目視したり聞いたりはできないが、そのために俺の広範囲索敵魔法がある。この水防壁は索敵魔法とセットで使うモノなんだ。ちなみにこれらは1日に10セットくらいは発動できる。けっこうコスパが良い魔法だ。
それと比べると、水を超高速回転して2~3人の首を斬るのが精いっぱいの攻撃魔法は1日3回しか発動できないため、かなりコスパが悪い魔法ってことになる。
「トール、ボーっとしてどうしたニャ?」
「ちょっと考え事してた。でも、魔法はちゃんと発動したみたいだよ。俺らを囲ってたエルフたちの手足に水はついた」
さぁ、交渉のために一旦拘束させていただきますか。
「
エルフたちについた水を凍らせ、四肢を拘束する。
無事に
7人かと思っていたが、魔力をかなり制限して隠れている奴がいたんだ。気づけて良かった。離れた場所にいる7人目に気付いて、もうこれ以上の伏兵はいないと思わせておき、魔力感知に優れた敵の目を欺く。そんな感じなのだろう。
この世界のエルフ族って、油断ならないな。
全員を拘束したままこの付近に集合させても、自動迎撃の水魔法は万全にしておくべきだ。別の手段で隠れているエルフもいるかもしれない。
「
拘束したエルフたちを魔法でここまで運ぶための魔法を使った。俺たちを守ってくれていた分厚い水の壁はいざという時のために、空中に浮かせて維持しておく。
「
「
「
氷の手枷足枷によって拘束された状態の女エルフ3人と、男エルフ3人が俺の前に集結した。みんな美男美女でかなり壮観。
「
エルフの少女は自分のせいで仲間が捕まったとでも思っているのか、泣き出してしまった。その涙を見て、ちょっと申し訳なくなる。本当にこの後、俺たちは和解できるのだろうか。
「
最初に俺らの前に現れた美女エルフが、ものすごい殺意を込めた目で見てくる。拘束されても闘志が全く折れていない。きっと伏兵がバレていないと思ってるのもあるんだろうな。まずは何をしてもダメだってこと、理解してもらおう。
「
「
遠くに隠れていたふたりもここに来てもらった。隠れていたのはふたりとも女エルフで、彼女らが拘束された状態でこの場に飛んできたのを見て美女エルフが驚いた表情を見せた。
「通訳お願いしたいんだけど、良いかな」
「お姉ちゃんを離して! わ、私は、どうなってもいいから」
彼女が何度か叫んでいたから分かっていたけど、やっぱりこの美人エルフさんは少女のお姉さんなんだ。獣人とかを奴隷にしてしまう人族が妹を拉致しそうな場面に遭遇したら、そりゃ殺す気で奪い返しに来るよね。
「うん。君が俺たちの要求を受け入れてくれるなら、お姉さんたち全員を無事に解放してあげる。だから落ち着いて。まず、君の名前を教えて」
「……ララノア」
「ララノア、まず俺たちは君を襲おうなんて思ってなかった。ただ水魔法を見せたかっただけなんだ。それについては心から謝罪します」
「ほんと、調子に乗ってごめんニャ」
ミーナが俺の横で頭を下げる。
「次に、俺たちの安全のための保険として、これをみんなに飲むように言って」
水の入ったコップを見せる。
これは魔力の混ざっていないただの水。
「
少女は問題なく通訳してくれたようだ。エルフたちは怪訝な顔をしたが、みんな諦めたように俺の汲んだ水を飲み込んでくれた。
「さて、今みんなに飲んでもらったのはこれと同じです」
そう言って空中に維持していた水の塊から少し手元に移動させ、小さな水球にした。通訳してと視線で少女に促す。
「
「俺は貴方たちの体内で、これをこんな風にできます」
手元の水球から勢いよく鋭利な棘を複数飛び出させた。
実際に彼らが飲んだのはただの水なので、体内の水をこんな風にすることはできない。でもそんなことを知る由もないエルフたちは、顔に絶望の色を浮かべていた。
「何もしなければ1日ぐらいで今飲んだ分は体内から出ていくでしょう」
「
「ただし俺たちに危害を加えようとしたら、容赦なく発動させます」
「
「俺が死んでも自動で発動します」
「
エルフたちは良い感じでビビってくれている。少女がちゃんと俺の脅迫を通訳してくれているみたいだ。俺だって本当はこんなことやりたくないが、いきなり頭を狙って矢を放ってくる種族に隙を見せられない。
これが異世界での交渉なんだ。
弱みを見せたら死ぬかもしれない。
「じゃあ、解放しますね。くれぐれも俺たちを攻撃しないでください」
氷魔法によるエルフたちの拘束を解いた。
一矢報いようと襲ってくる可能性もあったが、俺の
ララノアとその姉は互いに近づいていき、抱き合って泣き始めた。胸が締め付けられるように感じるほど美しい光景だ。それはミーナも同じ感覚だったみたい。
「なんか、すごく申し訳ないニャ」
「あぁ。俺もそう思うよ」
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