超ショートショート集 インスタントフィクション

@kaiken824

第1話 赤い糸

「好きです。付き合ってください」

 彼女はチョコを差し出し、そう言った。少し上目遣いで見つめてくる表情に、僕はドキリとした。この子こんなに可愛かったっけ。

 見つめ合って気付く。彼女の白くて小さな鼻から、黒く、太い鼻毛が一本出ている。彼女の手は微かに震えている。鼻毛も震えている。僕はそれをじっと見つめた。

 鼻毛は彼女の心と繋がる糸のように見えた。

 二週間も前から、美味しいチョコを作る練習をしてくれている。彼女は台所に母と二人で立っている。試作品を食べる父親は、どこか不満げ。今日は本番なのに少し失敗したみたい。彼女の中には不安と期待がぐるぐる回って溶けている。

 緊張からか、彼女の鼻からとろりと血が出てきた。鼻毛がゆっくり赤く染まる。

 気付くと僕は彼女を抱きしめ、優しくキスをしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る