詩集、連想

半月 工未

【短編】1

 線路の脇に黄色いタンポポが咲いている。

 それに気付いたときには、すでに曲がった線路の向こうから列車が顔を出してきていた。沈んでは浮いてを繰り返すような重たい走行音が次第に近づいてくる。怒っているみたいな振動をホームに立っていながらも感じている。

 ふいに僕は考える。

 あのタンポポが白い綿毛になった時のことを。

 生温い風が吹いている。

 列車はもう駅に停まりかけている。

 白い綿毛のタンポポが風で揺れる。

 今にも飛ばされてしまいそうに揺れる! 

 僕だけがいる無人駅で、僕だけがそれを見ている!

 列車がベンチに腰を下ろすように静かに停まり、ドアを開けた。

               

 適当な窓辺の座席に座った。

 ほんとうに無人となった駅のホームを眺めている。

 僕はそのベンチに何かを置き忘れてしまったような喪失感を覚えている。心配になって鞄の中を覗いたが、結局なにも忘れてなどいなかった。

 再び窓の外に視線を戻すと、景色は滑り始めていた。

 無人駅はもう見えない。

 近くのものほど窓を速く滑っていく。

 一面の水田に差し掛かった。踏切の遮断機が軽トラックを塞き止めている。カンカンカンと鳴っている音が救急車みたいに遠ざかっていった。

 遠くのものほど視界に長く居続ける。

 空に浮かぶ雲を眺めていた。

 風に流されるままにふわふわと浮かんでいる。


 僕はその雲の形を、別のなにかに連想している。

 

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