第二話:宇宙猫と魔法②
魔法とは何だろうか。
早急に問われて答えられるものは多くはないだろう。
ファンタジーの代名詞、象徴とも言える単語、存在でありながら創作の世界においては様々な定義が付けられており、一概に「魔法」という言葉の定義を答えるのは難しい。
『回答。つまり、「魔法」とは定義するのが困難な「力」の総称であると我は理解した。それ故に、これから与える力は「魔法」であると定義する』
エイブラハムはそう言った。
「要するにボクたちに理解しやすいように言葉を選んだ結果、その与える力とやらを「魔法」と称した……と」
『肯定。わかりやすさを重視した。「力」についての詳しい説明が欲しいのなら開設することもやぶさかではない。その場合、多少の時間がかかる』
「多少って?」
『計算。現住生命体ではまだ知覚できない法則、「十一次元世界観測理論」からの説明になるのでイチカとシオンの理解力ならば、およそ地球時間で換算して一億六千万分ほどあれば――』
「「却下で」」
『備考。休息時間も計算に入れている』
「だとしてもだから」
弌華と紫苑はエイブラハムの魔法発言にワクワクとした眼で居ずまいを正し、正座して話を詳しく聞いていた。
そういうお年頃な二人にとって「魔法を使える」可能性というのは是非とも見過ごせない可能性だ、それが宇宙からやってきた宇宙猫から貰えるとなると尚更に。
紫苑など「ラノベみたいな展開だ」などと何度も呟いていたぐらいだ。
それはそれとして、話を詳しく聞くとエイブラハム曰く、「魔法」云々の言葉自体はあくまでこっちで集めた情報から弌華たちにわかりやすい形で受け止められるよう翻訳した言葉らしい。
ちなみに集めた情報とは言ったが、その情報源は弌華の持っているラノベや漫画、ゲームなどだ。
どうにも一夜明かす間、弌華が寝ている間にこっそり見たらしい。
「ねー、ねー。弌華のやつ、どんなゲームを隠し持ってたー?」
「おい、お前……。エイブラハム、言わなくて――」
『回答。全般的には美少女なヒロインと共に戦う異能能力バトル、ヒーローもののアクションものが傾向としては多かったものの、最近の傾向としては青春学園ラブコメもを――』
「ぎゃあぁああああ?!」
「ぷっ、女の子と縁が無いからって現実世界に生きなー?」
「うるせー、このストーカー気質のレズドルオタ女!」
「ストーカーじゃありませーん!! 見守ってるだけですー!! それにリオ様に対する感情はレズとかそういう低俗の感情ではなく、もっと高尚な崇拝とか畏敬の念とか何度言ったら――」
ぎゃーぎゃーと言い始めた紫苑を尻目に弌華はエイブラハムへと話しかけた。
「まあ、とりあえずわかった。わかりやすい説明のために「魔法」という単語を使っていると……それで重要なのはその「魔法」という力を俺たちが使えるのかという話だけど」
『回答。可能。正確に言うのであれば、地球人類ならば誰でも使うことが出来る――素質がある』
「素質……」
エイブラハムの話をまとめると弌華と紫苑だけでなく、地球人類は誰もが「魔法」を使える素地だけは持っているのだとか、ただそれを使えるまでの進化を重ねていないので使うことは出来ないらしい。
「魔法」に対する「魔力」、「MP」のようなものをみんな持ってはいるが、使い方を知らないので「魔法」と仮称している超常現象を起こす力を使えない――ということらしい。
『回答。地球人類が「魔法」を真の意味で使えるようになるまで、あと七世代ほどの時間が必要であると我は計算』
「七世代……凄い時間だ」
「少なくとも俺たちの時代じゃまず可能性はなかったわけだ」
「でも、ボクたちも使い方を知らないだけで「魔力」自体はあるってことは……」
『肯定。使い方を学びさえすれば「魔法」を発現させることが出来るということ。これを我は対価として差し出したい』
つまりはこういうことだ。
「俺たちはエイブラハムに衣食住を確保して面倒を見る」
『対価。我はイチカとシオンに「魔法」を与える。――どうであろうか?』
二人の回答は決まっていた。
「「乗った!!」」
弌華と紫苑は息を合わせてそう返答した。
「ははは、喋る猫を拾ったと思ったらそれが宇宙からの来訪者で、更に「魔法」も使えるようになるなんて」
「ラノベや漫画見て―な展開だ。これぞ本当の意味での宇宙猫な展開」
『疑問。猫型宇宙生命体という意味での宇宙猫という呼称だが、それ以外にも宇宙猫という単語には特別な意味合いが?』
「ああ、流石にミーム汚染というかそっち系統は知らないのか」
「いや、知られてても困るけどね。じゃあ、あとで教え込まないとね」
「……教え込むのか?」
「そりゃ、快適な地球生活を送ってもらう対価として「魔法」を教えてもらうわけだし」
「どう考えても楽しんでるだけだろ?」
「でも、楽しそうじゃない?」
「……地球のネット文化を知ってもらう為だから!」
「これは善行だから!」
弌華と紫苑は悪ガキ丸出しの笑顔を作った。
宇宙からの来訪者に対して日本のネット文化に染め上げてやろうと無駄な目標を作った瞬間であった。
『解説。二人が「魔法」を使うために発動体を作る必要がある』
「発動体?」
「ふーん、要するに魔法の杖的な存在ということか?」
『肯定』
「いいね、そういうの結構好き。それでなに? なんか木の棒とか持ってくる必要でもあるのか?」
『否定。この場合の「魔法発動体」というのは二人の「魔力」を顕現化させたものとなる』
エイブラハムの説明によると体内に持っている「魔力」を使うことで「魔法」は使うことが出来るらしいのだが、未だ進化が未熟な弌華と紫苑ではそのままの「魔力」を使って「魔法」を使うということは難しいらしい。
そこで一工程増やし、体内の「魔力」を使って「魔法発動体」を顕現化させ、それから「魔法」使うという手段を取る必要があるという。
『解説。手法的にはキチンとした進化の果てに、その領域に至ったのなら不必要な技法。だが、この手法なら短時間で「魔法」使用が可能。我としては直接「魔力」から「魔法」を使えるようになった方が有用性が違うので、そちらを推奨したい所ではある』
「でも、それって修行パートとか必要な感じでしょ? そういうのはノーセンキューで」
「お手軽に力が欲しい。インスタントで」
『検索。これが昨今の修行パートを忌避する若者……理解した。ではやはり「魔法発動体」を使うとして――』
「エイブラハムのやつ、俺のスマホをペシペシと尻尾で叩いて可愛い-なとか思ってたけど、もしかして今もどんどん変なことを学習してない?」
「思うんだけど、SFものとかで余計な学習させて大変な事件を引き起こすタイプの奴ってあるよね。人工知能とか知能を持った外生物とか」
「あー、あったあった」
「「…………」」
「「まあ、いいか。それより「魔法」だ」」
エイブラハムの説明は続く、この手法で生み出す「魔法発動体」というのは精神や魂、素質などの影響を受け、固有な形を取るという。
「固有な形……専用アイテムってことか」
『肯定。その者の精神の写し身と言って程に影響を受け、形作られるために「魔法発動体」の形は変更することは出来ない』
「好きに作れるわけではないということか。日本刀とかがよかったのに、あと銃とか」
「銃刀法違反でしょっ引かれるだろー。んー、でも物もデザインも選べないか。……ということはガチャ?」
「ガチャ?」
「いや、当人の精神やら魂やらを参照するならガチャってわけでもないんだろうけど」
『解説。顕在化した「魔法発動体」の種類や傾向によって、使える「魔法」の系統も変わってくる』
「「魔法発動体」に付随して使える「魔法」もガチャってことか」
『回答。「魔法発動体」は当人のその時点の才能を発露する形になるので特異な力の方向性に準じて顕在化する。無論、苦手な「魔法」でも努力次第では使うことは可能ではあるが……』
「その場合は、さっき言っていた「魔力」から「魔法」を使う技法の習得ってのが必要というわけか。まあ、要するに最も相性の良い「魔法」が選ばれると考えれば……」
「自由に得られる「魔法」の内容を選べるなんて上手い話も無いか。それで「魔法発動体」の顕在化ってのは覚えるのにどれだけ時間がかかる?」
『回答。それ単体なら直接我がテレパシーで教えるのでコツを掴むのは特に難しくないはずだ。およそ一日あれば両者共に「魔法発動体」の顕在化を習得できると推測』
エイブラハムの言葉に弌華と紫苑は顔を見合わせた。
自由に得られる「魔法」が選べないのは残念ではあるが、なんか凄い修行をする必要もなく「魔法」という特別な力を得られる……というのは、何というかうまい話過ぎる気もする。
気もしたのだが、
「よし、じゃあ頼むぜ、エイブラハム」
「どんな「魔法」が得られるかなー! 「魔法発動体」ってのも気になるー!」
『了承。では、始めるとしよう。遠い星の初めての友人よ』
その日、二人の「魔法使い」がこの星に生まれた。
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