不意なランクアップ


アダン・ダルへ戻ってきた多くの冒険者たちは唖然としていた。


迷宮に閉じ込められていた数日で、町自体が無くなるという状況に理解が追いつかなかったのだ。


先ほどまで雲一つない昼下がりだったが、少しづつ増え始め、この地方では珍しく雨が降りそうだった。

そんな中、町の中央広場には1人の女性がいた。

短い青髪にキャミソール、ホットパンツの少女……のように見えるが、顔立ちは凛々しい。

背の小ささからか、木箱の上に乗って冒険者たちに状況を説明していた。


"魔物の仕業によって作られた町と迷宮"


冒険者たちは耳を疑ったが、最強クラスの人型の魔物となれば、そんなこともあり得るのだろうと納得せざるおえなかった。


そして青髪の少女は冒険者の中にいた誰かを見つける。

すると涙ぐみ、木箱から飛び降りて走り出した。


冒険者たちを掻き分けて、1人の少年に抱きつく。

周りはこの状況を驚きつつ見ていた。


「よかったよー。ガイ……」


「ローラ……おいおい、みんな見てるだろ」


「あら、若いってイイですわね」


その声に反応してハッとしてガイから離れる。

声の主は2人をニコニコとした表情で見ていた。


「な、なんなの……この女は……」


ローラの警戒心を強める。

両肩に掛かるような長さのゴールドの巻き髪に赤い鎧、白く短いスカートの背が高い女性。

左手には見たことのない剣を持っていた。


「まさか……あんた、あの迷宮で……」


「何を想像してんだよ!!カトリーヌは俺を助けてくれたんだ」


「へ?」


「いえいえ、わたくしの方が助けられましたわ」


笑顔でそう言うカトリーヌ。

ただただ"美人"……ローラはそう思った。


「私はこれで失礼しますわね。パーティを探さないと」


「ああ。今度はいつ会える?」


ガイの言葉にローラは固まる。

どういう質問なのだろうかと眉を顰めた。


「あなたの目的地は?」


「ロスト・ヴェローだ」


「……なるほど」


カトリーヌは少し表情を曇らせ、顎に人差し指を当てて考えていた。


「なら私もそちらへ向かいましょうか。でも、あなたのランクだと王都より先の北には行けませんわよ」


「あ……ランク……」


「そうだわ……ギルドも無いから結局ランクあがらないじゃない!」


ガイとローラは気づいてしまった。

最初は迷宮を攻略すればランクが一つ上がるものだと思っていたが、町のギルド自体が消滅している以上、ランクアップは望めない。


「北に行くには、まだまだ時間は掛かりそうだな」


「え、ええ……」


ガイとローラはため息をつく。

そのやり取りを見ていたカトリーヌは笑みを浮かべて口を開いた。


「なら、私があなたのパーティのランクを上げますわ」


「え、そんなことできるのか?」


「ええ。これでも国王からナイトの称号をもらってますから」


「なんですって!?」


ローラはこの発言によって初めて目の前の女性がSランク冒険者だと知った。


「ナイトはギルドマスターの権限も持ってますのよ。あなた方のパーティのランクを一つ上げるように手紙を書いておきましょう」


「マジか!」


「これで入れる町が増えるわね!」


「ですが一つ上げてもCランクですから。王都も含めて北へ行くとなれば、もう一つ上げる必要がある」


「そうだな」


「でもガイ、あなたらすぐにBランク上がりますわ」


「え?」


「そして、あなたは必ずナイトになる」


カトリーヌの言葉に周囲の冒険者たちが反応した。

S級冒険者であるカトリーヌの美貌に顔を赤らめる者が多くいたが、それ以上にガイへ注がれる視線は多かった。


S級冒険者に認められた少年。

一体、この人物は何者なのかと皆が思った。


「そんなのわからないだろ」


「いえ、あなたは必ず私を倒す。そしてナイトになりますわ」


そう言ってニコリと笑うカトリーヌ。

そんなやり取りをしていると後方から叫ぶ声が聞こえてきた。


「お嬢!!お嬢!!」


「あら、私が見つけるつもりが……まぁいいですわ。では私はこれで失礼致します」


「ああ。ありがとうカトリーヌ」


カトリーヌはガイとローラに笑顔で手を振って別れる。

カトリーヌが後方に少し歩くと2人の男女が立っていた。

黒いマントの男と東方の民族衣装を着た若い女性だ。


「お嬢!よかったです!まさか迷宮の入り口で分断されるとは……俺たちが油断しました」


「……ごめんなさい」


2人の暗い表情を見たカトリーヌはキョトンとした顔をしたが、すぐに笑みをこぼす。


「いいんですのよ。二人とも無事で何よりでした。それに、お陰で私はいい出会いをしましたので」


「誰です?」


「"ヴァン・ガラード"の弟ですわ」


「なんですって……まさか"獄炎のヴァン"に弟がいたなんて」


「彼と会ったのは駆け出しの頃だったので忘れかけてました。昔の命の恩人の弟となれば助けないわけにはいかない。さらに私と同じワイルド・ナインとなればなおさらですわ」


「ヴァンの弟がワイルド・ナインとは……まぁヴァン・ガラードは"波動の天才"と言われるほどでしたからね。ロスト・ヴェローの一件が無ければ世界トップクラスの波動使いでしょう」


「ロスト・ヴェローで起こった惨劇は口には出さなかったですわ。ですけど、彼がアレを知るのも時間の問題でしょう」


「そう……ですね」


「私たちもロスト・ヴェローを目指します。できる限りガイをバックアップする。あの惨劇に関わった、"あの男"を彼に近づけさせてはならない」


「また北ですか……寒いのは苦手ですが、お嬢がそうおっしゃるなら仰せの通りに」


S級冒険者の3人はアダン・ダルを後にした。

目指すのはロスト・ヴェロー。


そして、この出会いによってナイト・ガイはCランクに上がることとなった。

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