アンナ・レイング(1)


"アンナ・レイング"


アダン・ダルに派遣された女騎士。

土の波動の使い手で波動数値は900程度。

元々は第五騎士団に在籍していた。


一年半前に"研究都市イース・ガルダン"という町で起こった、とある事件で犯人を特定した。

(ナイトガイのメンバーたちは後に、この事件に関わることになるが、この時の犯人は間違いなく、この"人物"である)


"犯人は***です!"


ありえない人物だった。

だが、この人間しかあり得ないと仲間と相談して自分が代表して証言したのだ。


だが、なぜか仲間だと思っていた者たちは、誰もアンナの味方をする者はおらず、結局裏切られる形で左遷されてしまった。


「しょうがないわよね……」


毎日そんな言葉を口走る。

そう呟かない日はないほどの口癖になっていた。


強い正義感が仇になったのだ。

黙っていればよかった。

まぁ処刑されずに済んだだけでも儲け物だったのかもしれない……そう思うしかなかった。



アンナの左遷先は荒地のアダン・ダル。

ここは左遷先としては最悪と言われる町だ。

しかも任されたのは町からそう離れていない場所にある遺跡に封印された魔物の監視。


その魔物の名はバフォメット。


昔、この地方を恐怖のドン底に突き落とした、レベル10に匹敵する魔物。

この事実を知った時、アンナは自然と諦めの気持ちが湧き上がる。


これは事実上、"死刑"と変わりない。


_________________



一年半前


夕方頃、アンナはアダン・ダルに到着する。

王都から直接来たからか少し疲れもあった。

ため息混じりで周囲を見渡す。


町を見回していると、背後に気配があり、


「きゃ!!」


いきなりのことで今まで出したことのないような高い声が出た。

誰かにお尻を触られたのだ。


アンナが振り向くと、そこには1人の少年が満面の笑みを浮かべて立っていた。


「き、貴様!!」


町の入り口に怒号が響く。

少年は勢いよく走り出して町の方へ向かう。


アンナは顔を引き攣らせながらも、疲れた体に鞭を打つようにして少年を追って走り出したのだった。



到着したのは中央の広場にある、こじんまりとした雑貨屋。

ここまで来ると、もう日は落ちて暗くなっていた。


アンナは恐る恐る、店のドアノブを捻って開けるとカランと来店を知らせる鈴の音が鳴った。

同時に心臓が少し跳ねた。


「いらっしゃい!」


明るい店内、奥のカウンターから女性の声がした。

店の中に入ると、そこには店番をしているワンピースを着た若い女性がいた。


「何かお探しですか?」


「ええ。ここに子供が入った気がしたが」


アンナは落ち着いて話す。

キョトンとした表情をしたワンピースの女性。


「え?ああ、ジョシュアのことかしら?あの子が何か?」


「私の……お尻を触って……」


そう言いかけて顔を赤らめた。

アンナには今までこんな経験はない。

思い出すと唐突に恥ずかしくなってしまった。


だが、アンナの言葉に全てを察した女性は驚く。

そして頭を下げた。


「すいません!私の弟が!」


「弟?」


そんなやり取りをしていると、カランと鈴が鳴る。

アンナが振り向いて入り口を見ると、そこにいたのは少し汚れた服を着た体の大きいブラウンの短い髪の男性だった。


「ケイト、どうしたんだ?この方は客さんかい?」


「お父さん!」


この男性はケイトと呼ばれた店番の女性とは親子だった。

ケイトは父親にあらかたの事情を手短に話していた。


「それは申し訳ないことをしたね。謝るよ」


「私は大丈夫ですが……」


「私はドミニクという者です。お詫びと言ってはなんですが、この店にある物を半額でお譲りしますよ」


「いえ、そこまでしなくても……」


アンナは困惑した。

そんなことをしてもらうために、この店に来たわけではない。


「いいんですよ。あまり売れないですから」


「え?それはどうして?」


この雑貨屋の場所は中央広場の人通りの多い所にある。

どう考えても立地としては最高の場所なのに、"あまり売れない"というのが信じられなかった。


「さぁ?なぜかわかりません」


ため息混じりのドミニクの言葉を聞いたアンナは、それが嘘なのではないかと思った。

このドミニクという男性は、なぜこの店に客があまり来ないのか知っている。


安っぽい"女の勘"というものだった。

だがアンナの勘はよくあたる。

そして、それが災いして左遷させられたのだ。


なぜ、この雑貨屋の売上が極端に悪いのか。

アンナがその理由を知るのは、もう少し後の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る