波動
この世界では"波動"という力が全てと言っても過言ではなかった。
確かに剣の技術や拳闘、魔法などの技術面は必要不可欠ではあるが、"波動"こそ、それらの土台である。
それは六大英雄の1人が作った"波動水晶"によって測ることができた。
魔王が倒された数百年後のこの世界でも、波動は存在し、高ければ高いほど崇められる。
今はそんな時代であった。
"波動"には6属性と原初の2属性、合わせて8属性ある。
炎・水・氷・地・風・雷の6属性。
光・闇の原初の2属性だ。
人間は生まれつき、どれかの波動適正がある。
数値が高ければ、"武具"と呼ばれる戦闘用の道具に波動を流し込むことによってそれぞれの属性に応じた攻撃が可能だ。
"波動"が高ければ高いほど強い武具を使えるというのがこの世界の常識だった。
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セルビルカ王国 カレアの町
ギルドのカウンターに1人の黒髪の青年が立つ。
黒髪の青年はギルドの受付であるジェシカにクロードと名乗った。
入り口から息を切らして入って来た少年は赤髪でボロボロの皮の鎧を身に纏う。
さらに後ろには、やはり赤髪のロングヘアの白いローブ姿の少女がいた。
周囲のギルドメンバーはニタニタと笑いながら、クロードからその2人に視線を移した。
「お、駆け出しが薬草採取から戻ってきたぞ!」
「なんだよボロボロじゃねぇか!薬草だけでどんだけ疲れてんだよ」
「お前らも田舎帰ったほうがいいぞー」
そう言いながら少年達は笑われていた。
その雰囲気に少年は奥歯を噛んだ。
後ろにいる少女は俯いている。
クロードは2人に話しかけようと歩き出すと、先にスキンヘッドの体格のいい男が立ち上がり、2人の前に立った。
左手に巨大な棍棒を持ち、それを肩に乗せている。
「お前らみたいな"低波動"がいると、ここのギルドの名が落ちるんだよ!さっさと帰れ!田舎もん!」
少年とスキンヘッドの体格差は凄まじいものだった。
だが少年は怯むことなくスキンヘッドを睨む。
「好きで"低波動"じゃねぇんだよ……」
「なんだと……!!俺に逆らおうってのか!!」
そう言うとスキンヘッドが棍棒を上へ振りかぶる。
完全に少年を殺める気でいた。
「やめて下さい!ギルド内での戦闘は禁止されてます!」
カウンターからジェシカが叫ぶ。
その瞬間、ジェシカはハッと、あることに気づいた。
クロードが、その場にいなかったのだ。
「ギルド内の掃除だ!!」
「!!」
少年は少女を守るように前に立つ。
スキンヘッドは構わず棍棒を振り下ろした。
ドン!!という轟音がギルド内に響き渡る。
周囲の皆がニヤニヤと笑っていたが、その笑顔はすぐに消えた。
少年の前にはクロードが立ち、スキンヘッドの棍棒を片手で止めていた。
「"郷に入っては郷に従え"規則は守らねばならんよ、髪無し君」
クロードは笑みを溢しながらスキンヘッドを見ていた。
スキンヘッドはこめかみに血管を浮き立たせ、棍棒に右手も添えた。
「"雷の波動"!!」
「やめとけ」
スキンヘッドが波動を棍棒に流し込む。
棍棒はバチバチと雷撃が走り始めるが、クロードは何食わぬ顔だった。
「……!!」
クロードが小声で"何か"を言った。
その瞬間、棍棒に無数のヒビが入り破裂する。
スキンヘッドはその衝撃で後方に仰け反り、地面に尻をついた。
「な、なんだ……今のは……」
「言ったろ?波動は熟知していると。ちなみにあんたの数値は?」
「お、俺は10万だ……10万の俺がこんなやつに負けるはずは……」
クロードはその数値を聞いた瞬間吹き出した。
表情を見るに笑いを堪えるのがやっとのようだ。
「恐らく、あんたはなぜ僕に負けたのか永遠に理解することはできない」
そう言うとクロードは振り向くと少年と少女の方を見た。
「大丈夫かい?」
笑顔のクロードだが、少年は凄まじい目で睨んでいた。
「あんたも俺を馬鹿にしたいんだろ……」
「ガイ!助けてくれたのにそんな言い方ないわ!」
「メイアは黙ってろ!」
ガイという少年はクロードを横を通り過ぎると、ギルドのカウンターへ向かう。
メイアもそれを追うが、ガイとは違い、クロードとすれ違う際にお辞儀した。
「ジェシカさん、これを」
「え、ああ、はい。薬草の採取ご苦労様でした。報酬の20ゼクになります」
ガイはジェシカから硬貨を受け取る。
その硬貨を見てガイは少し口元が緩んだ。
そして力強く握ると、ギルドから出るために入り口へと向かう。
クロードの横を通り過ぎるガイは、また鋭い眼光で睨むとメイアと2人でギルドを出て行った。
「出会いは最悪だな……まぁいつもそんなもんさ。一桁台はみんな一癖も二癖もある」
クロードはそう言ってニヤリと笑うと、ガイを追うようにしてギルドを後にした。
ギルドにいた他の人間達は何が起こったのか理解できず、ただ無言で立ち尽くす。
確かにクロードという青年は"波動"を使った。
だがこのギルドにいた者達はクロードがどの属性の波動を使ったのか、かわかる人間は1人もいなかった。
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