第3話 わんことの出会い

 お腹を空かせた、かわいらしい声の持ち主をどうするべきか悩んでいると、持ち物にあったカコリーメイクを思い出した。




「よかったらコレ、食べます?」


「ほんと!?くれるのっ?」




─ふんふんっ!と鼻息を荒くした状態で立ち上がった時に、驚くべき事実を目の当たりにする。




「ケモミミだああぁ!!」




 間違いなくケモミミだった。ケモミミの持ち主が勢いよく立ち上がり、着ている外套のフードがズレて、オレの探し求めていたものが目の前に降臨する。


 黒髪といえば黒髪であるが、どちらかと言えばグレーがかった黒髪の彼女から、同色で分かりずらいがしっかりとケモミミが付いている!エクステのように、ところどころに白の毛が良いアクセントになっていて、とても魅力的だ。どうやら、かわいらしい声がしっくりくる美女のようだ。


 神だ。こんなにも近くでケモミミを見ることができるなんて、生まれてきてよかった。




「ありがとう。神よ…」


「ごはんっ!ごはんっ!!」


 


 感動しているオレを余所に、ケモミミ美女がじわじわと迫ってくる。




「お、落ち着いて。あげるから」


 


 初めて間近で見るケモミミに興奮するも、彼女の勢いに押されてカコリーメイクを差し出す。




 がうっ!という効果音が似合いそうな勢いで、ケモミミ美女が少し強引に取り上げる。




 すげぇ勢いで食べてるな…カコリーメイクをあんな勢いで食ったらむないか…?


 的中。案の定強引に口の中に放り込んでいたため、むせたらしい。




「けほっ!かはっ」


「あぁ。ほら、水飲んで」




 すぐさま、カバンに入っていた水のキャップを外して差しだす。




「飲み終わったら、このキャップを付けておくんだよ」




ゴクッゴクッ!




「勢いがすげぇな…」


「ぷへっ、おいしい!」




 わざとらしい効果音を付けるのは狙っているのか?かわいい。




「そりゃよかった。ご飯食べられてないの?」


「お金がなくなっちゃって、ご飯食べられなくなったの…」




「そうか…」


 この世界で生きていくのは大変なのかな…




「さて、どうしたもんか…」


 この世界の相場観も分からないからな…、下手に引き受けるわけにもいかないし、困ったぞ。




くそっ!せめて自分の手持ちを確認しておけば…!ケモミミ美女探しに無駄な時間を使いすぎたっ!!もっとちゃんとしていたら、彼女ともっと一緒に居られたかもしれないのに…!




 悩んでいるオレに、ケモミミ美女が妙な行動をとってくる。




「くんっくんっ」




 だからそれ、狙ってんの?かわいい。




「まだ、ご飯持ってる!ほしい!」




 どうやら、オレがまだカコリーメイクを持っていることに気付いたらしい。


 これってそんなに匂いしたっけ?




「ごめん、これはオレも食べるやつだから…」


 そう告げると、ケモミミ美女が明らかに落ち込んでしまう。




―オレの全身に電撃が走る。




「…今までは、女性の落ち込む姿をたくさん見てきました。そうですね、こういった状況で落ち込んでいる女性は少なかったですが、おなかが空いているよりもツラい状況の人をたくさん見てきました。ええ、たくさんです。都合がよかったのかよく相談されていましたから。いや、それよりもケモミミ美女の話だ。そうですね、ケモミミ美女はずるいですね。落ち込んでいるだけの女性では、美女であってもそこまでの破壊力はありません。見慣れていますからね。そうです、ですが、彼女には最強の武器ケモミミが付いています。これはダメです。私の中で今、核爆発が起きました。その落ち込んだことが秒で分かる耳の垂れ下がり具合。効果は抜群です、これは良いものですが、原因が自分であるとなれば話はまた別です。そう、私が『暴言』とも言えるその言葉を発した直後に、彼女が視線を落とそうとした刹那、元気だったケモミミがふにゃっとなり、下向きへ方向を変えた瞬間に、私の見ている世界が変わってしまいました。もう、しょうがありません。こんなにもかわいい仕草を、目の当たりにする状況がこようとは、大変です。私は、今まで生きてきた中で『最上級の犯罪』を犯してしまいました。これは、同志たちから許される状況ではありません。今すぐに対処が必要な案件です。謝罪、ごはんの献上、すぐさま金を稼ぎ、『至高のケモミミ』をお持ちである、彼女のお腹を満たすことに全力を注ぐのです。ああ、こんなことを言っている場合ではない。ケモミミ美女が落ち込んでしまっています。今すぐに謝罪するべきです─」




「ご、ごめんっ!全部食べていいから!」


「本当に!いいの!?でも、お兄さんのご飯なんじゃ…?」




「すぅ…。これはダメですね。ケモミミの破壊力舐めていました。そうです、彼女へごはんを再度献上することを申請した瞬間。垂れ下がっているケモミミが勢いよく立ち上がりました。この衝動、感情は何という感情でしょうか『萌え』『愛』『かわいい』いやっ!そんな軽い言葉で表すことができないのは言うまでもありませんね。しかも動物ではあり得ることのない、感情の発露が更に『ケモミミの効果』を何倍にも増幅させていますね。そう、具体的な数字にするのであれば『50倍』程でしょうか。これは、とんでもないことになってしまいました。加えて、至高のケモミミをお持ちの彼女は外套を纏っていて気づきませんでしたが、どうやら『しっぽ』もお持ちのようです。彼女はこれまで、私に対する評価と安全性から『しっぽ』は反応していなかったみたいです、これは犬にも近い反応かもしれません。っと、今はどんな動物なのかを気にするときではありませんね。そうです、彼女へ『ごはんの献上』を申請した際、勢いよく立ち上がってくれたケモミミに加えて、外套を揺らすほどの勢いで揺れだした『しっぽ』に私の視線は、釘付けになってしまいました。これは、ケモミミ美女たちが感情でケモミミやしっぽを操作していないことを示唆しています。そうですね、瞬間的に出した答えでもあるので、正解かどうかは怪しいところでありますが『獣時代の本能として』そのケモミミやしっぽを操っているのでないでしょうか。そうではないと『おかしい』と言うタイミングを私は見逃しませんでした。そうです『本当に!?』彼女がそう言葉を発した瞬間、いや本当の『ほ』それ以前のHの音が聞こえると同時、息を吸い込む瞬間、その時にケモミミ続いてしっぽが外套を揺らす勢いで反応していました。これは『至高のケモミミ』を感情だけで動かしていない証明として、観察の結果を申請することができそうです。そして、私のことを『お兄さん』と呼んでいる。これは、私の見ていた世界が確実にひっくり返ってしまったことを意味しています。私に妹はいません。故に『お兄さん呼び』の良さにいまいち気付けていませんでした。心よりお詫び申し上げます。現在私は、目の前に居る至高のケモミミをお持ちの彼女から『お兄さん』と呼ばれてしまいました。これは自分が兄じゃないと理解していても、相当な破壊力を持っていることを意味しています。自分が『至高のケモミミ美女の兄ではないのか?』と勘違いするほどの破壊力。これほどまでとは、たかだかケモミミが付いているだけだと感じるかもしれませんが、これは全く別の方向を向いてしまっています。いいですか?自分とケモミミ美女が兄妹であることは関係ありません。どう思って、どう感じるか、ここがとても重要な案件になってきます。何よりも私ごときの『餌』の心配を彼女はしてくれています。これはもう、世界で最強の破壊力を持っています。彼女と私は今あったばかりの関係です。私はあろうことか『ケモミミ美女にとっての暴言を吐き捨てた』にもかかわらず、心優しい彼女は『こんな醜い人間』を気遣ってくれています。もう何も心配いりません。至高のケモミミへ、全力を持って『ごはんの献上』を実行すると、ここに宣言します!今、死んでしまっても報われると、そう明言しておきます」




─バタッ…。


(ケモミミ…最高…)




 オレは彼女にカコリーメイクを手渡すと、その場で倒れてしまう。




「おいしい!ボク、お兄さんについていく!」




(しかも、ボクっ娘かよ…カハッ…)

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