サードセクシー:養われたテクニック

「ね? 足がつっちゃった……揉んでー」

 ベンチで待っていたのは痛む頭ではなく痛む足(自称)の群だった。

「アタシはふくらはぎが……」

「胸が重いー!」

 サキュバスの群は端的に言えばオツムの栄養が全てチチシリフトモモへ行ってしまった女悪魔の集団であり、要するにバカであった。

「おまえ等、足がつるほど走ってないだろう? と言うか前半は5分も無かったではないか……」

「やだー! セクシーパラディンっちが揉んでくれなきゃ後半出ない!」 

 まあ相手チームも同じくらいバカなので出てくれなければそれはそれでなんとかなるか? とセクシーに開き直りかけていた彼の肩を、サキュバスの女王が叩いた。

「あれ、ヤバいかも……」

 女王は悪魔チームのベンチを指さした。彼女は流石にまともだった。そして相手チームにもまともな悪魔が一匹はいるようで、アドバイス罪も恐れず不義の地獄の王にサッカーについて解説していた。

「なんと! すると後半は少し普通のサッカーになるかもしれんな」

「そうなるとウチら勝てないかもね……」

 サキュバスの女王は暗い顔で呟いた。セクシーパラディンはそんな顔の女性を放っておける血筋ではなかった。

「いや、例の作戦ができれば勝てる。しかしその為には……仕方ない、揉むか」

 セクシーパラディンはセクシーため息を吐き、一番近くに寝そべるサキュバスのふくらはぎからもみ出した。

「ちょっと急に! あっ! あん! 激しい~」

「あーん、アタシも~! やだっ、そんなとこ!」

 近寄るサキュバスを揉んでは投げ、セクシーパラディンは淫魔たちを回復させていった。


 これぞパラディンの能力「癒しの手」である。


「ああん、触り方が……えっち」

「うそこれ……女を知ってる手でしょ……あん」

 癒しの手というより、いやらしい手の様な反応を受けながらパラディンは治療を続けた。今更であるが上半身は裸のままである。その裸体に汗がにじみ、セクシー度は登場以来最高値をマークした。

「そこまで! 後半開始!」

 相変わらず何の競技か分かっていない審判の声が響く。だが癒しの手に全力を注いだセクシーパラディンに突っ込みの気力は残っていない。彼はグズグズするサキュバスたちの尻を文字通り叩いて、ビッチたちをピッチへ向かわせた。


「サッカー完全に理解したわー! もう通さねえ!」

 ドリブルするセクシーパラディンの前に立ちはだかった不義の地獄の王は、その体躯を生かして彼をボールごと吹き飛ばした。

「きゃー! セクシーパラディンっち、大丈夫?」

「大丈夫だ! ボールをキープしてくれ!」

 地面に転がり全身を激しく打ち付けながらも彼はセクシーだった。ボールへ近づくサキュバスの方を見て指示を飛ばす。

「ぐっへっへ。お嬢さん、悪いことは言わんからボールを寄越しな!」

「きゃー!」

 そのサキュバスへ別の悪魔が近寄る。王やクジラの悪魔ほどではないが、見事な体躯を誇るクマの悪魔である。

「言った通りに! いつも通りに!」

 セクシーパラディンはそう勇気づけたが、とてもではないが状況はそんな簡単なものではなかった。ボールに到着するのについてはサキュバスの方が僅かに早いが、体格差で容易に奪われるだろう。そしてその後ドリブルを開始されたら、か弱き淫魔たちに悪魔の攻撃を防ぐ手だては無い。

「分かったよ。うーん、セクシー!」


 誰もがそう思った瞬間だった。サキュバスはボールに足を伸ばすと、熊手で落ち葉を集めるかのように器用に足の裏でボールを引き、突進してきた悪魔と入れ替わった。


「「おおー!」」

 観衆がどよめく。まさかサキュバスがそんなテクニックをみせるとは。

「ねえねえ、こっちー!」

「はーい!」

 呼びかける右サイドのサキュバスに、そのサキュバスはパスを送った。そのキックフォームはお世辞にも慣れたものとは言えず、インパクトポイントも爪先だった。

「くそ、届かねえ!」

 しかしそのボールはインターセプトを狙った悪魔の足先を掠めて目当ての味方へ届く。例え足先のへなちょこキックでも、ボールの芯を捉えれば意外なほど早く飛ぶ。トゥーキックと言われる技術であり、相手の予想やタイミングを外せるのでフットサルやそれ出身のオフェンスの選手等が多用する技なのだ。

「よっと!」

 強い勢いで届いたボールをそのサキュバスは足の裏でコントロールし、また別の悪魔が近づく鼻先ではたく。

「なんだこのプレーは!?」

「まるでボールが足に吸いつくみてえだぞ!?」

 驚く観衆の見守る中、サキュバスは足の裏で、つま先で、踵でボールを巧みに操りパスを繋ぐ。


 それはまさしく野洲高がみせたような「セクシーフットボール」だった。


「ざーこざーこ!」

「だめよ、まだいかせてあげない」

「どうして欲しいか言ってごらんなさい?」

 サキュバスたちのボール扱いが洗練されていくと同時に、言葉責めも高まっていった。まったく奪えそうにないパス回しと心を抉る台詞に悪魔たちは完全に戦意を失っていた。

「そういう言葉を言うのは良くないな、うん。終わらせよう」

 そんな彼女たちを諫めながら最後にはセクシーパラディンがパスを受け、シュートを決める。

「ゴーーール! 勝者は……セクシーパラディンチーム!」 

 審判がそう宣言し、試合が終了した。全くおかしなレフリングであるが、冷静に考えれば訂正しても何の得もないのでセクシーパラディンは「誠実たれ」という誓いを少し拡大解釈してそれを受け入れた。

「なぜだ……なぜ負けた! なぜサキュバスたちがあんなに上手く……」 

 それを素直に受け入れられない存在がいた。不義の地獄の王である。彼は悔しげに何度も地面を殴った。

「まあ、簡単な事だよ」

 セクシーパラディンは汗と歯を光らせながら王に手を伸ばし告げる。

「サッカーとは普段から如何にたくさん、ボールと触れ合っているかにかかっているんだ」

 そして王を助け起こしながら言った。

「彼女たちは毎夜、男たちの睾丸……ボールに触れて、足で踏んだり突いたり蹴ったりしているんだろ? そりゃタマの扱いは上手い筈だよ。他にいるか? そんな悪魔?」

 その言葉を聞いて不義の地獄の王は、こりゃ玉蹴ったな~、もとい、タマげたな~という顔になった。

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