第5話 あの時

「もう、知らないっ・・・」

アイツがむくれて公園の外の道路に飛び出した。


その瞬間はスローモーションのようで。

少し前の俺達の会話が頭の中で再生された。


※※※※※※※※※※※※※※※


「ねぇ・・・」

ブランコに腰かけたアイツが一瞬、顔を上げて聞いた。


大きな瞳が潤んで夕焼けの光に染まっている。

いつも以上に綺麗だと、俺は思った。


「な、何だよ・・・」

真っ赤になったに決まっている自分の表情を隠すように、俺は虚勢を張った声を出した。


「別に・・・」

アイツは目を伏せるようにして、顔を俯かせた。


あれ・・・?

こんなに長かったっけ、アイツの睫毛。


俺は両手をギュッと握りしめ、自分の気持ちと戦っていた。


いつもの帰り道。

幼なじみで近所の俺達は一緒に帰る。


とりとめのない話をしながら。


だけど。

高校生になってから。


徐々にぎこちなさが増えていった。


お互いを意識し始めているのは明白で。

特に俺は、毎晩、アイツを想い眠りにつく。


中学の時までとは違う方法で。


だから。

アイツが公園に寄っていこうと提案した時。


分かりすぎるほど。

分かっていた。


でも。

俺には。


一つの誓いがあったのだ。


インターハイ出場。

県大会で優勝したら。


アイツに打ち明ける。

好きだ、と。


それまでは。

必死で練習に励むんだ、と。


「ねぇ・・・」

泣きそうな目でアイツが呟く。


想っていることは同じ。

俺は両手を握りしめて必死に答えるのを我慢していた。


まさか。

アイツも眠れないほどに、俺を想ってくれていることも知らずに。

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