第171話【 創の匠の風 】

第171話【 そうたくみの風 】



 

 魔力濃度の高い人型の広大なユミル高地。

既に暗くなった大地に穏やかな風が <ゆるり> と流れる。

深い森の中に位置するドヴェルグの街の西地区に、

数多くのドワーフの姿があった。


そこから少し離れた所にエル、アルガロス、シグルズの姿がある。


「あっ! 戻ってきた!」


エルとアルガロスは、魔力の感覚で分かっていたが、最弱クラスを装いそう呟いた。

シグルズの前ではもう通用しないが、今迄の体裁を保っているのだ。


彼等が手を振り帰りを待っていたのはカルディアだ。

その近くには、カルディアを手伝っていた数人のドワーフの姿がある。


「手伝って頂いて有難うございます! 助かりました!!」


とドワーフ達に頭を下げて礼を言うカルディアは、 <チラッ> とある女性ドワーフの方に視線を送った。


「アルヴィースさん、ちょっとこちらへ」


「えっ? あっ、まだ手伝う事があるのね。私は大丈夫よ! 何でも言って!!」


優しい笑顔でそう答える20代前半に見えるアルヴィースと呼ばれる女性ドワーフは、茶髪の少年を見つけると飛ぶように走り寄ってきて、力強く <ガシッ> と手を握った。


「有難う」


「お爺さんを助けてくれて、ほんっっとうに有難う!!」


『めちゃ力強っ!!』


手を握るその力…、細身には似合わない握力に少し面食らっている茶髪の少年アルガロスは、ビックリしながらもデレデレ顔だ。


アルヴィースのお爺さんのガージルも、その光景を見て微笑んでいた。


「アルガロス君って言うのね。教えてもらったわ! 私はアルヴィース。宜しくね!」


<ブンブン> 振り回されるアルガロスの腕を心配しながらも、カルディアはエルに笑顔を送る。


「エル、VOICEで!!」


「うん。もう確認済みだよ!」


そう言うエルは、少しビックリした表情をしている。


エルとモサミスケールしか見えない相手のステータスが分かる霊力魔法のVOICEが、アルヴィースの前で “ μονόκερωςモノケロス ” を浮かび上がらせている。


これは、そうたくみを意味する古の文字。


特に驚くのは、アルヴィースの魔力だ。

クラスAの魔力を持ちながら、その力は封印された様に下位のスキルしか発動していない。

それに……淡いオレンジ色の瞳………。

濃さは違うが、これは世界樹であるユグ、ドラ、シルと同じ系統の色なのだ。


何故そうなっているのか疑問に思ったが、エルは目を <パチクリ> させながらシグルズへと促した。


「シグルズさん、彼女だよ!」


そう促されたシグルズは、両手で彼女の手を <ガシッ> と掴み、眼鏡の奥で目を輝かせた。


「アルヴィースさん、宮廷に来て下さい! 今直ぐ! 今直ぐに!!」


「もちろんお爺さんも一緒に!!」


「えっ? えっ??」


訳が分からないアルヴィースとお爺さんは超〜焦り顔だが、2人の事情は聞いていられない。

ドヴェルグの未来がかかっているので、今直ぐにでも宮廷に連れて行きたいのだ。


はやるシグルズは、大声で御者に手を振る。


「馬車を回せーっ!!」


ドヴェルグの輝く風が、彼女を導く様に宮廷へ向けて優しくなびいていく。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 穏やかな朝日が広がるユミル高地。

自然豊かな森の中では様々な生き物が元気よく動き出す。


ドヴェルグの街にも <キラキラ> と日差しが注ぎ、ものづくりの街として動き出していく。


そんな中、朝食を終えた後、皆がドヴェルグ宮廷の客間に集まっていた。

エル達とヨウン博士、シグルズ。そして、アルヴィースとお爺さんの姿もある。



「……と言う事でのぉアルヴィース。そなたにはそうたくみの資質、スキルが備わってるんじゃよ!」


一通り伝え終わったヨウン博士は、木彫りのマグを手に取り小さく口をつけた。


みんなはアルヴィースの方を見ているが、当人は <キョトン> ……、と固まったままだ。

信じ難い…、空想上の話しみたいな事をいきなり言われたのだから仕方ない。


ヨウン博士は彼女の気持ちが分かっている様で、和やかにする為に小さく微笑んだ。


「全てを一度に背負っておくれとは思っとらんよ。ドヴェルグを守るのはワシ等の役目じゃしシグルズや衛兵、ギルドのメンバーもいるからな。アルヴィースの成長と共に出来る範囲でいいんじゃよ!」


「ただ……、ちょいと急いどる者がおってのぉ。無茶ばかりする奴等の身体を守る為、そうたくみが作る強固な道具が必要なんじゃ」


「こう言う言い方しか出来んですまんのぅ」


ヨウン博士は、気遣いながらも真逆な事を口に出している矛盾は理解していた。


「は、はい…」


ヨウン博士の言葉に返事するも、何をどうすればいいのか全く分からない。

アルヴィースは今迄、お爺さんの鍛冶屋工房で雑用のお手伝いをしていただけで、打つ、叩く、作る等した事が無いし、ましてや何かを倒す、守るなんて見当もつかない。


「わ…、私は何をすれば……」


<ギュッ> と膝の上で握る拳からは、不安と言う心の動揺が溢れていた。


しかし、ヨウン博士も歯切れの悪い返事しか……。



「それがのう…、ワシにもわからんのじゃ」



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