第154話【 隠れスキル 】


 思い返してみれば、捜査や諜報活動の訓練には力を入れていたが、自分の魔力アップには関心が無かったのだ。


エルは超笑顔でゼブロスポーズをシグルズに向ける。


「まだまだ素質あるよ! シグルズさんには!!」


「はあ?」


そんな言葉を今迄一度も掛けられた事が無いシグルズは、只々戸惑うばかり。

しかも祝福を受けて数年しか経ってない少年達に言われたので、立場があったものじゃない。


そんなシグルズを横目に、エルはそのまま言葉を続けた。


「それには……」


「先ずは魔力をコントロールする術を身に着けて、魔力を低レベルに保ち、オーラ循環速度や血流と呼吸を操作出来れば闇隠れスキルが使える様になる」


そして目が点状態のシグルズに追い打ちをかける様に、さらに別のスキルも口ずさんでいく。


「それに……、さらに魔力が上がればへとスキルアップするよ!!」


「レアスキルの隠密に!!」


「えっ……あの隠密!?」


引き攣るように驚くシグルズ。

隠密スキルは類稀な能力の1種。故に重宝され重要な任務に就く事がある。

その隠密スキルの素質がシグルズにあると言う事だ。


「そう。隠密ってただ隠れる事に秀でてるだけじゃ無くて、他者の思考や感情を読んだり行動を予測したり出来るでしょ!諜報活動にもってこいじゃん」


今の秘密諜報部に隠密スキルを持つ者は居ない。

それ所かドヴェルグ全体でも存在していないスキルなのだ。


「な…、何で俺のスキルが分かるんだ?」


「洞察力〜洞察力〜!!」


「えっ? それも洞察力なのか??」


エルは大袈裟に胸を張り、自慢げに親指で鼻を弾いた。


「だからたまには魔力アップの訓練した方がいいよ!」


唐突に投げられた言葉だがズレの無い内容に戸惑いながらも、何故か素直に受け入れてしまう。

シグルズの頭からは、既に彼等が歩き回っていた非常識な行動の事が消えていた。


「訓練か…。久しくしてないなぁ…」


完全にエル達の術中にずっぽりハマったシグルズは、もう抜け出すことは出来ない。

そんな彼を見て、核心に迫る言葉を放り込む準備が整ったと感じた。


「あのさぁ。聞きたい事があるんだけどぉ……」


「なんだ?」


シグルズは平常心を保とうと必死なので、新たに耳に入ってくる言葉の意味を深く考える事が出来ず、普通の会話の様に聞き入れてしまっている。

その流れで、エルは “ あの ” 事を <さらり> と放りこんでいく。


「鍛冶職人の事なんだけと、匠じゃなくて、そうたくみって知ってる?」


そうたくみ??」


「うん。街の人達やダーフギルドの人達にも聞いたんだけど、誰も知らないって言うから。匠の中でも飛び抜けた素晴らしい称号らしいんだけど…」


そんな疑問に違和感を感じ取れなくなったシグルズは、素人の様に素直に返答していく。


そうたくみと言う称号……、そんなの聞いた事もないぞ!?」


と言いながら顔を軽く振り、エルの言葉に精一杯応えられる様、何やら頭を回転させている。


「もしかしたら、あの方なら知ってるかも……」


「あの方って?」


とエルは聞き返したがその問い掛けには反応せず、シグルズは <ブツブツ> 考え事をしながらポツリと言葉を漏らした。



「……、ついて来い」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ドヴェルグ宮廷の外観からは、全く想像出来ない内観で、複雑に入り組んだ通路や部屋はまるで迷宮そのものだ。


その中を忙々と歩くシグルズの姿がある。後ろには珍しい物を見るような目で、<キョロキョロ>しているエル達の姿が。


伸ばした腕を前後に振りながら足早に歩くシグルズは、顔は真正面に向けながら口早にエル達に伝える。


「離れずついて来いよ」


「は〜い!」


エル達は軽〜く返事し、笑顔でスキップしながらついて行く。

背中越しに伝わって来る彼等の楽しそうな感情に、シグルズは自問自答する様に頭を捻る。


『俺は…、何で彼等をあそこに案内してるんだ?』


『………』


頭が回転しないシグルズは、窓の外を指差した。


「あそこが目的地だ」


「ええ━━━━━━━━っ!??」


驚くのも無理はない。


窓から覗くそこには……、大きな岩山が見えていたからだ。


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