第129話【 今度は私の番 】


 アルガロスは後ろを向いたまま、少しでも心配させまいとゼブロスポーズを決める……。


自ら別れとなる ” 死 “ を選ぶ……………。


そんな壮絶な最期に、揺れる肩と震える手。

アルガロスの背中からは、悔しさと寂しさが滲み出ていた。


………………それらを振り切って精一杯笑顔を作り、決意の表情でドラの方へと身体を向けた。



「ドラ! 俺を無に遷移してくれ!!」








<ヒュオオオォォォ……ゴ……ゴゴォ━━━━>







時が止まった空間に、アルガロスの乾いた声が響く。

冷たい魔力の風が遠くで音を立て、共鳴している様にアルガロスの言葉を受け入れる………。


しかし────────────。



「っバカッ!!!!!」


カルディアが突然そう声を張り上げた。

赤い顔で拳を作り肘を広げながら絶叫する様に。

そしてさらに顔を振りながら声を荒げた。


「あ“━━━━あ━━━━あ”っっっ、ホンっとうちの男どもは情けない!!!」


「諦めたらそこで終わりじゃんか!!!」


「心配してくれるのは有り難いんだけど手段が有るならそれに賭ける! たとえ命がかかっていてもねっ!

それがハンターであり、それが仲間!!! 」


「エルは私達を何度も助けてくれてる。エルが暴走した時、アルガロスが身を呈してエルを助けた。じゃあ今度は私の番じゃん! 」


カルディアがまくし立てる言葉は彼等を圧倒していく。

普段は大人しく心配性で内気な性格なのだが、彼等の内向きな言動に我慢出来なかったみたいだ。

そして、超〜怒った表情でエルの方を見た。


「私の事を仲間と思ってないのっっ??? 」


「いっいやっ、そう言う事じゃ…」


とエルが動揺している隙に、カルディアがアペイロス無限空間の中に入れてるエルの手を<ポンッ>と軽く弾き上げた。


「あっ…」


手と共に弾き上げられた混迷の魔術師リーゾックのコルディスコアが宙を舞う。


不意をつかれたエルは、頭がついて来ず唖然とその光景を眺めるしか出来なかった。


<ガシッ>


宙を舞うコルディスコアをカルディアが鷲掴みする。

そしてアルガロスへと顔を向け、ゼブロスポーズをしながら啖呵を切る。


「アルガロス! 私が悪魔を呑み込める様にしてあげるわ!!!」


そう言いながら艷やかで膨らみの有る胸の上をはだけ、コルディスコアを勢いよく肌に当てた。

そのまま肘を張り両手をコルディスコアに近付けて、自身の全魔力を一気に、目一杯流し込んでいく。


メタ超越マゲイア魔力


<バチバチバチッバチバチバチバチバチバチッ>


勢いよく流し込む魔力が摩擦で弾ける様に光り出す。


「「 カ、カルディア!!! 」」


<<バチンッ>>


エルとアルガロスは焦りながら手を伸ばすが、カルディアの魔力とコルディスコアが元々含んでいた凶悪な魔力に、手が拒否された様に弾き飛ばされる。


これは……、マブロスオーブと似た現象だ。

カルディアがコルディスコアに魔力を流した瞬間、新たな種、ひつぎとしてその身体を選択した証。


それと同時に黒ずんだ目の様な、細胞の様な物がコルディスコアの切れ間で見開く様に浮かび上がる。


<ブフォォオオオオオォォォォ━━━━ッ>


凄まじい魔力が吹き荒れ圧倒されるエルとアルガロス。それに精霊達………。


悪魔の身体から取り出された当時のままのコルディスコア。その魔力が生きた様に荒れ狂い、目視しづらく触手の様にうねる魔力が、カルディアの身体に食い込んでいく。


「うグッ」


強烈な激痛が身体全体を貫いていくが、カルディアは溢れそうな悲鳴をグッと抑える。

エルやアルガロスの前で、心配をかけてしまう弱音を吐きたく無かったからだ。


それに、今まで様々な場所で訓練してきた経験が、痛みに耐えられる身体を作っていた。


カルディアの身体に、古の刻印に似た模様が一気に刻まれていく。

それを見たドラが、マブロスオーブとの違いに危険を感じ顔をしかめた。


【 不偏の等質!?……。同一化が急激に進んでいる……。早い…早すぎる!!! 】


マレフィキウムもその急激な変化に、驚き口を開けたまま…。


【 マ、マブロス・オーブとは桁違いの侵食の早さじゃ…… 。成り立ちの違いが出てるのかもしれぬ……。それとも……、混迷の魔術師リーゾックのコルディスコアだからか?……… 】


「ぅぐっ」


小さな悲鳴がカルディアの口から漏れ、肌の色が徐々に黒ずんでいく。

それと共に黒い模様の範囲が広がり、色が濃くなっていく。

しかも、その刻印と思しき模様が僅かだが、動いている様にも見える。


「カルディアッ!!!」


心配するエルの叫びに、苦し紛れに笑顔を作る。

しかし……、その笑顔が徐々に消えていきまた苦痛の表情へと………。


急激に進む悪魔化………。

混迷の魔術師リーゾックのコルディスコアは、カルディアの身体を苗床に、必死になって根付く様這いずり回っているのだ。


痛みと耐え難い不快感がカルディアを襲っていく。

その気持ち悪さに見開く目は……、既に黒く淀んでいた。



<ドクッ──────────…………>



今までに感じた事の無い身体内部の違和感……。


『あ”っ!!!』


カルディアの目が淡く赤黒く輝くと同時に、コルディスコアの凶悪な魔力が、既にに届いた事を知る………。



『 駄目ッ…、このままじゃ呑み込まれる…… 』



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