第110話【 軋む身体 】


 「グオオオ━━━━━━━━━━ッ」


 アルガロスの悲鳴が暗黒の空へと響き渡る。

古の刻印が網の目の様に身体を走り、彼が放出する魔力が……、意に反して強制的に継続されているのだ。


「ア、アルガロス!!」


焦り、声を上げるエルの肩を抑えて前へ出るドラが、アルガロスの背中側、首下を<ポンッ>と突いた。


「うぐっ」


首を垂れ、意識を失いながら崩れゆくアルガロス。

すぐさまエルとカルディアがアルガロスを支えて、地面へと座らせる。


古の刻印は……、網の目の様にアルガロスの身体を走ったままだが、波打つ事無く静寂したまま……。


「……ドラ、こ、これは……?」


突然刻印が変化したので、驚きを隠せないエル。

世界樹のドラは、この現象を深く思索しながら推測していく。


【 ……アルガロスの魔力に反応した………。もしくは…… 】


と言葉を詰まらせた時、アルガロスにパーフェクト・ヒール完全回復を掛けて意識を回復させた後、カルディアが自分の考えを呟いた。


「吸収して…成長した………」


「えっ…!?」

「なにっ!?」


驚きを隠せないエルと、苦痛の余韻に顔を歪めるアルガロスは、そう言葉を漏らす。


「……、アルガロスの魔力は……、程よく濃度の濃い ” 餌 “ となってるんじゃ……」


その言葉を聞いたドラは、眉間にシワを寄せ小さく頷いた。


【 カルディアもそう思うか…。訓練して魔力を上げてきたが……、やはり悪魔の魔力には到底及ばない……… 】


「悪魔より……、強い魔力を流してみないと……」


と、カルディアとドラは、エルの方を見た。


「…お、俺の魔力を……?」


【 マヴロス・オーブは悪魔の未知の産物……。試す形になるが……、より強力な魔力が必要なんじゃないかと考える 】


「で、でも…、俺の魔力を吸収してさらに同一化が進んでしまったら……」


【 ……かもしれんが、遅かれ早かれ同じ道を辿る。なら……、皆が見守ってる前の方が対処しやすいだろ 】


その言葉にエルの瞳が揺らいでいく。

“ 対処 ” ………と言う言葉が引っかかったのだ。


「対処って……それは………?」


そう言いながらドラを……、半ば睨む様に見つめるエルだが、それに対してドラは小さく首を振っていた。


【 勘違いするな。知恵を出しあえば止める事が出来るかもと言う意味だ 】


カルディアがドラと目を合わせ、その意見に頷いている。

エルは不安を拭う事は出来ない。だが進めていかなければ、確実にマヴロス・オーブに呑み込まれる事だけは理解していた。


「わ、分かった……。やってみるよ……」


不安だけが折り重なっていく……。

確かな対処法がある訳でもないが、何かにすがりたい思いが……、彼等を前へと進めていく。


「アルガロス、行くよ」


「お、おう!!」


エルは手に貯めた魔力を、恐る恐るアルガロスへと流していく。


<ズオオオオ━━━━━>


先ずは小さな魔力を流していき、徐々に強く濃度の濃い魔力を流していく。


「どうだ? アルガロス」


「身体の変化は無いな。刻印もそのままだし…」


アルガロスは、自身の身体を確認しながら不安そうに返事すると、カルディアが心配して声を掛けてくる。


「ちょっとした違和感でも、我慢せずちゃんと言ってね」


「分かってるよカルディア。そんな心配するなって!!」


内心は不安で覆われているみたいで、から元気なのが伝わってくる様な笑顔で返事するアルガロス……。


エルも同じ気持ちだが、良化を祈り…進めていくしかない……。


「よし。もう少し魔力を上げていくよ!」


「ああ、やってくれ!」


再度、魔力を上げてアルガロスへ流して行く。

ゆっくり、ゆっくり、慎重に…。


<ズオオオオゴゴォ━━━━━>


しかし……、変化は無い。

アルガロスより遥かに強い、濃い魔力を流しているにも関わらず、古の刻印は波打ってもいない。


すると………。


「くっ…」


アルガロスの表情が少し歪んでいる。


「どした? アルガロス」


「ちょっと身体が痺れるだけだ。そのまま続けてくれ!」


強がり、痛みを我慢しているのが見て取れる。

アルガロスが少しの間……、軋む身体…、苦痛に顔を歪めていると………。


不意にカルディアが声を張り上げた。



「止めてエル。アルガロスの身体が!!」


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