第29話――不運


 ジャックの希望をなくした姿に、白人青年は言葉を返せず閉口したままだったが、我慢しきれないように再び問い返した。


“……Are you 野球は no longerもう、 playing baseballやらないんですか??”

 

 ジャックは青年の方にちらっと顔を向けると、溜息交じりに前に視線を逸らし零すように言った。


“……Actually実はI came to日本に来たのは、 Japan to takeプロテストを a professional test受けるためだった。.”


 その答えに、白人青年は驚きとともに問い掛けた。


How did you……結果は??”


I took the11球団 test of 11 teams受けたが、, but it was no good全て駄目だった。


 白人青年は落胆の色を必死に堪えながらジャックの話の続きを聞いた。


The problem問題は isn't ability能力じゃなく、, it's past behavior過去の素行だ。


 ジャックは生気を無くしたような諦めの目つきを青年の方に向けた。


They are彼らも、 also profesプロのsional scoutsスカウトだ。.And researcそれぐらいはhing about it調べてる.”


 白人青年は必死に擁護するように反論した。


Butでも、 that'sあれは a legitimate完全な正当 defense防衛だ.”


Yesああ、,that'sでも、 overprotectiveやり過ぎた。.”


 難なく返されたジャックの一言で青年は口をつぐむしかなかった。

 が流れた後、ジャックは天井を見つめながら深く息を吐いて言った。


Only on残るはe team1チーム remainsだけだった。.I came here 滞在費をto earn 稼ぐmoney for my stayためにここへ来たんだが, but I'm このout of luckザマだ。.”


It's theツイてないのは、 same僕も for me,同じだ


 白人青年が精一杯出来うる限りの励ましの言葉をかけた。

 ジャックは彼の方を向くと、何かに気づいたようにその横顔を見つめながら言った。


“……As far as I've君の発音を heard your聞く pronunciation限りでは、,you areネイティブ not naではtive,rightないよね??”


 その言葉に、はっとするように白人青年はジャックの方を向いた。

 さっきまで失意に沈み細くなっていたその両目を開けると、ジャックは再び問いかけた。


Anywayまだ、 I don't名前を know your name聞いてなかったな。.”


 すると、白人青年は躊躇ためらいを隠しきれないように言い淀んだ。それを見てジャックは、踏み込み過ぎたと思ったのか、微笑みを浮かべながら手の平で制止した。


Sorryすまない, you don't無理 haveして to force答える yourself必要は to say itない。.”


My name is Katsuyori honda.


 その返答に驚いたように、ジャックは思わず青年の方に向き直った。


“……Katsuyori?頼? Son of Shinge武田信玄n Takeda?の息子の?


If あのthat poodleプードルヘア hair heard,が聞いていたら、I'm sureさぞかし he was teasing me.笑っていただろうな。


 青年は自嘲気味にそう言うと、少し照れくさそうに前へ視線を逸らしながら語り始めた。


Because my father 私の父が、戦国was a maniacマニア of the だったSengokuから、そう period.名付けられた。


Is your fathお父さんがer Japanese日本人??”


Noいや、,Japanese日本人は is my mother母の方だ。.My father父は was originallyオレゴン from Oregon,出身だけど、 but he 大のmoved to Japan b日本好きでecause he loves Japan,移住してきたんだ。andで、 met m母とy mother.出会った。


 勝頼は肩の力が一気に抜けたように、さらに続ける。


At first, 父はmy father 最初、was goi『信長』ng to name meしたかった Nobunaga,らしいが、but 母がmother必死に stopped.止めた。As expected, 絶対に、 I l名前ose m負けy name.するって。


 勝頼が軽く笑うと、


Katsuyori 『勝頼』も、 is also a 十分 respectable 立派な military commander武将だよ。.”


 微笑みを浮かべながらジャックは勝頼の目を真っ直ぐに見据えて言った。


Thank youありがとう.”


 二人の会話がそこで途切れ、管制室に静寂が流れた。

 

 ジャックは再びゆっくりと視線を前へ逸らすと、さりげなく口を開いた。


By the wayところで、 Katsuyori勝頼。.”


What?”


 その呼び掛けに勝頼が顔を上げる。

 ジャックは、もう一度ゆっくりと彼の方に顔を向けると、今度はで言い放った。


Are t何か、here an対策はy measures?あるのか?


 吃驚びっくりしたように勝頼はジャックの表情をマジマジと眺めた。

 対照的にジャックは冷静な顔つきのまま向こうで寝そべっている男女三人の方に目を遣った。


Sure確かに、ly ,it彼らはis wiser眠らせて to let them sleep.おいたほうがいい。


「気づいているのは、あなただけではありません」


 その声で、勝頼は思わずジャックとは反対隣の左方向を向いた。


 二メートルほど離れた所に、同じように壁に背をつけて座り、ずっと黙り込んでいたネイビージャンパーの男が勝頼の方をじっと凝視しながら尚も言った。


「警視庁は、


 勝頼は戸惑うように左右に首を動かして、ジャックとネイビージャンパー男の顔を交互に見つめ返す。

 ジャックは言った。


I don't 彼のunderstand言葉は his words,わからないが、but I can 二人のnotice by表情を looking at 見ればyour two faces.わかるさ。


 そう言った途端、ネイビージャンパー男が鋭く反応するようにジャックの方に視線を移した。ジャックはその視線を受け止めると、少しだけ得意気に尚も言った。


No matter あんたがhow much どれだけyou have a poker face,ポーカーフェイスでも、 I understand.俺にはわかるよ。.You are必死に thinking of何かを something,考えてる。


 そして、もう一度寝息を立てている男女三人に目を遣り、


If they 彼らがwere awake,目を覚ましても、just making noise騒ぐだけで、, we can'何一つt think対策は of anything.浮かばない。


 そう言うと、ゆっくりと壁にかかっているアナログ式の丸い掛け時計の方を向いた。

 よく見ると、その中央に小さくデジタル式の表示があり、その最初の位辺りの数字が目まぐるしく動き、減少しているのがわかる。


“23:10:000―――”


 ジャックはそれを見つめながら言った。


Time残された left時間が、 is a waste.無駄になる。




 その光景を一部始終、俯瞰するようにモニターで眺める人物がいた。


『決してあきらめないで』


 向き合っている画面上のその最後のスレッド文章を閉じると、その人物は近くに置いてあった湯気が出ていたマグカップに上品に口をつけた。

 カップを机に置くと、大きく両腕を上げ背伸びをし、そのリクライニングシートに身を埋めるように背凭れた。

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