『ヴァルプルギス・ザ・コーヒー』

 ねえ

 どうして


 ねえ


 どうしてなの


 一年に一度くらい

 たった少しの ほんの少しの願い事なのに


 こんなことくらいも叶わないのなら

 悪いのはきっと


 この「まじない」のほうね


 だったら


 燃やし尽すわ

 全ての夢を


 叩き落とすわ

 願い星ごと


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『ヴァルプルギス・ザ・コーヒー』

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 材料

  ・夢見る魔女の強い願いとそれと釣り合う裏切りによる絶望

  ・ヴァルプルギスの朝に採れた星霜柱(赤いものは決して使用してはならない)

  ・「古きまじないの声」が閉じ込められた書物


 効能

  ・一口でも口にすれば誰もが逃れられない悪夢に囚われる

  ・この悪夢に囚われたもの同士は、絶望ヶ淵と呼ばれる"夢の沼"で繋がっている

  ・転じて、「呪い」「呪いに対抗するまじない」として

   儀式や治療に用いられることもある


 レシピ

  1 世界を覆いつくす漆黒の海の底の底のように深く黒い大鍋を用意する。

  2 夢見る少女の強い願いと裏切りの絶望をありったけ放り込み、

   最後に上から細かく砕いた星霜柱を散らす。

   (この時、弾けた願いや響いた嘆きに目や耳をやられないように注意が必要)

  3 「古きまじないの声」を閉じ込めた書物を薪として燃やす。

   ともに燃やす薪は古いものであればあるほど良い。

   どろどろに溶かし溶かして、三日三晩混ぜ続けた後、

   書物が燃えている間もずっと溶かし混ぜ続け、炎が消えたら出来上がり。

   (三日三晩立たない間に炎が消えそうな場合には

    追加で書物を追加しても良い。

    ただし、「正しいまじないの声」を記した書物であれば

    正しい期間燃え続けるため、

    消えた場合は「正しいまじない」ではないということ。効能も半減する)


 備考

  ベルテーン祭りにはさまざまな世界のいろいろな者たちがやってくる。

  病気や飢餓に救いの力を持つ女神、聖女として信仰の対象になった尼僧が

  いただとか、命と引き換えに春を連れてくる魔女がいるだとか。

  絶望を捨て、過去を捨て、希望を手に新しく生まれ変わる時。

  ドルイドのかがり火で寿ぐ季節。

  復活と再生の季節。

  ゲーテが記した書は世界をめぐる。

  決して魔除けを持たないまま森に入ってはならない。

  魔女たちが集まるヴァルプルギスの夜。

  手に手を組んで踊りあかす夜。

  幼い魔女は招待状無しに参加してはならない。

  一目見ることも許されない。

  決して、踏み込んではならない春迎えの夜である。

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