【完】食いしんぼうエルフ姫と巡る、日本一周ほのぼの旅!

タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞

第1話 突然の依頼


「ほお〜これがラーメンという食べ物なのじゃな。いい匂いがして、とても美味しそうじゃ!」


「ああ、これが横浜発祥の家系ラーメンってやつだ。熱いから気をつけて食べてくれ」


「わかったのじゃ!」


 ここは家系ラーメン発祥とされている某有名店。そんなお店に並ぶこと30分、ようやく席に案内されて待ちに待った注文がきた。


 隣にいるのはまだ幼い面影が残る可愛らしい少女。美しく輝く金色の髪、透き通った宝石のような碧眼、まるで西洋人形のように整った容姿。


 そんな彼女にはひとつだけ普通の人とは異なる大きな違いがあった。彼女がかぶっている大きめの白いニット帽、その下には長くて先の尖った耳がある。そう、彼女はであった。


 ……そもそもなぜエルフの女の子が、一般人である俺とラーメン屋にいるのかというと、話は数日前に遡る。




『ついに日本にも繋がりました異世界への扉。そして先日、異世界の代表者と総理大臣の話し合いが行われました。他国と同様に、お互いの国に友好的な関係を築きあげ、今後はお互いに人材を送りあうようで……』


「は〜ん、まあ俺達には関係ない話だな」


「ああ。そんなことよりも今月の営業ノルマのほうが大事だぜ」


「はは、違いない」


 同期で友人の杉本と一緒に社員食堂でテレビを見ながら昼食を食べている。


 地球上の各国で、異世界への扉が初めて繋がってから、早5年。最初に外国で異世界への扉が開いたというニュースが流れた時は、そのニュースを見た人達全員がなんの冗談だとツッコミを入れたに違いない。


 しかし、そのニュースは冗談などではなく、連日のように異世界への扉のニュースがテレビやネットで流れるようになった。衝撃的だったのはそのあとに世界中へと配信された動画で、そこにはエルフやドワーフに竜人といったファンタジーの中だけの存在である種族が映っていた。


 さらにはその者達が使った魔法によって、ファンタジーが一気に現実のものとなったのだ。もちろんそんな動画は偽物だという人の意見が多く見られたが、そんな折にその国とは別の国に、新たな異世界へと繋がる扉が現れた。


 そして先日、ついにこの日本にも異世界へと繋がる扉が現れたのだ。アニメや漫画みたいに戦争にはならなかったから、俺達には直接関係のない話だがな。




「さあて、午後も頑張りますかね」


「おう、今月のノルマ達成のために、もう一踏ん張りだな!」


 うちの会社はそれほど大きい会社ではなく、いわゆるブラック企業であったが、社員食堂だけはそこそこ充実している。今日の昼食もなかなかの味だった。


 ザザザザ


「うわっ!?」

 

「な、なんだ!?」


「だ、誰!?」


 昼食を終えて食器を下げ、午後からの仕事へ戻ろうとしたところ、いきなり会社の社員食堂に5人の黒スーツを着た者達が入ってきた。


「……失礼します。佐藤武光さとうたけみつ様でよろしいでしょうか?」


「お、俺!? は、はい。佐藤武光ですが……」


 黒スーツの乱入者達の目的は俺らしい。先頭で俺に話しかけてきているのは黒い髪のメガネをかけた美人な女性だ。しかし、なぜだ? 別に俺は犯罪行為なんてしたことがない善良な一般市民のはずだぞ!?


「……写真とも一致しておりますね。恐れ入りますが佐藤さん、我々とご同行をお願いします」


「いや、あの、午後からの仕事もありますので……」


「すでにこちらの会社の社長からは許可をもらっております。さあ、どうぞこちらに」


 社長、なに勝手に許可してんだよ! 俺の意思は!? ……でも社長から正式な許可を得ているということは、こいつらはまともな連中なのか?


「……あのう、ちょっと強引すぎませんかね? 佐藤のやつは別に犯罪者ってわけじゃないですよ。それなのに無理やり連行するのはちょっと横暴じゃないですか?」


 おお、さすがマイフレンド杉本! 5人の黒スーツ達の前で堂々と自分の意見をいえるお前はマジで格好いいよ! この会社の中で一番仲の良い友人なだけあるぞ!


「……我々は警察官と同等の権限を与えられております。我々の妨害をするようでしたら、公務執行妨害により逮捕することも可能となっております」


「あ、そうなんですね。じゃあもう邪魔はしません。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!」


 マイフレンドオオオオオ!!


 ちょ、おまっ!? そりゃ逮捕されるとか言われたら引き下がる気持ちもわかるが、もう少し粘ってくれよ!


「他のみなさんも、今回の件につきましては他言無用でお願いします。もし情報が漏れた場合には処罰の対象になる可能性がございますので、十分ご注意ください」


「「「はい!」」」


「………………」


 食堂にいた社員全員が即座にいい返事をした。気持ちはわかるのだが、とても悲しい……


「それでは佐藤さん、こちらにどうぞ」


「はい……」


 どうやら俺にはこの人達に従うという選択肢しかなくなったようだ。






「あの、今から俺はどこに連れていかれるのでしょうか?」


「……すぐにおわかりになります」


「………………」


 今俺は黒スーツの者達の車に乗せられている。両隣には黒スーツの者がおり、逃げる隙などない。


 しばらく車が走ったあと、とあるビルで車が止まった。拘束もされていないし、目隠しもされてないということは誘拐とかではないと思うんだけどな。


 そしてそのままビルの中へと入り、ビルの中のとある一室に連れていかれた。


「それでは佐藤さんをこちらに呼び出した理由をご説明させていただきます」


「はい、特に犯罪行為を起こした覚えなんてないんですけれど……」


「犯罪、なんのことでしょう? 我々はただ、佐藤さんに依頼があるだけですよ」


「依頼!?」


 なんだよ、ややこしいな! それならそうと初めから言ってくれればいいのに。絶対に他のみんなに勘違いされているよ……


 しかし、依頼ってなんでまた俺に? 自慢じゃないけれど俺に特別な才能なんて何もないぞ。


「佐藤さん、あなたは大学生時代に自転車でをしたことがありますね?」


「……はい」


 そう、俺が経験したことの中で、ほとんどの人がないであろう唯一の経験は、大学生の時に学校を1年休学して、自転車で日本一周をしたことくらいだ。


 しかし、なんでそのことをこの人が知っているのだろう? 当時は旅をしながら動画を公開したり、ブログを書いていたのだが、身元がバレるようなことは公開していないはずだ。


「失礼ですが、すべて調べさせていただきました。あなたへの依頼は、とある要人に日本全国を案内してほしいのです」


「案内ですか?」


「はい、各都道府県の観光地を巡り、その都道府県の名物などを紹介してほしいのです」


「いや、日本全国ってかなり時間が掛かりますよ! 俺仕事があるんですけど!?」


 当然日本を一周するわけだからかなりの時間が掛かる。俺が自転車で日本一周をした時はゆっくり回っていたとはいえ、10ヶ月掛かった。車やバイクでどんなに早く都道府県を回ったとしても、観光地を巡って名物を食べるなら相当な時間が掛かる。


「それほど時間は掛からない予定です。仕事につきましては、佐藤さんの会社の社長にすでに休職の許可を得ております」


「俺の許可は!?」


 おい! なんで本人の許可を取る前に会社の許可を得ているんだよ!


「佐藤さんの昨年度の業績の倍額をお支払いするとお伝えしたところ、快く了解していただき、煮るなり焼くなり好きにして良いと言われました」


「社長、あんたもか!」


 くそう、杉本も社長も人をなんだと思っているんだ!


「いやいや、営業の仕事ってのはお金だけじゃないですよ! 休んだ期間分だけのお金を払えばそれで良いってわけじゃないです。顧客から長期間離れたら、信頼関係が壊れますって!」


 営業の仕事というものはお金も大事だが、そのあとの関係というものもある。契約を取ったからといって、それで関係が終わるわけではない。サポートや実際に作業をする人達との間に入る時もあるし、顧客との信頼関係も大事なのだ。


「すでに佐藤さんの顧客には連絡を取って許可をいただいております。佐藤さんがいない間のサポートを無償で補填するとお伝えしたら、どなたも快く承諾してくれました」


「………………」


 信頼関係ってなんなんだろうね? うん、世の中大抵のことはお金で解決できるよね……


 というか俺は今日の午前中まで普通に仕事をしていたんだけれど、その手回しの良さはどうなっているんだ?


「そして全国を案内するための費用につきましてですが、移動費、食費、観光費、宿泊費などはすべてこちらで負担させていただきます」


「えっ!?」


「そして報酬ですが、無事に全国を案内することができましたら、税金等を差し引いて1億円をお渡しします」


「はああ!? 1億円!?」


 全国を回る費用は全部出してくれて、その上さらに1億円だと!? 条件が良すぎて逆に怪しい!


「いや、条件が良すぎて怪し過ぎるんですけど……」


「案内をする方がそれだけの要人ということになります」


 外国の大統領でも案内するのかよ……


「それだけの報酬だと、命の危険があったりしますか?」


「……ほとんどありません」


「………………」


 可能性はゼロじゃないんだ……しかし、日本一周の費用を出してくれた上に1億円の報酬という話は魅力的すぎる。


「ですが、なんで俺なんですか? 命の危険があるなら、それこそ警官とか自衛隊が案内すればいいんじゃないですか?」


「とある理由から、今回の案内人はすでに日本全国を回った経験がある人にしかできないのです。そして日本一周を経験した多くの人の中から、あなたが選ばれた理由はこちらです」

 

 そう言いながら黒スーツの女性は1枚の写真を俺に見せてきた。


「こちらの方をご存知でしょうか?」


「……いや、知らない人だ」


 黒スーツの女性が見せてきた写真には、キッチリとしたスーツを着たおっさんが写っていた。


「ではこちらの方はいかがでしょうか?」


「んっ、どっかで見たことあるな。……あっ、旅の途中に出会ったおっさんだ!」


 こちらの写真にはアロハを着たおっさんが写っていた。日本一周の旅をしていた時に出会ったおっさんだ、この人。このアロハは一発でわかる。よく見るとこのスーツを着たおっさんも同一人物か。


「実はこちらの方が今回の案内人選任の責任者となります」


「マジで!?」


 やべえ、驚き過ぎて思いっきりタメ口になってしまった。しかしこのおっさんがそんなに偉い人だったとは……確か旅の途中でたまたま困っているところを助けてあげたら、飯と酒を奢ってくれたんだよなあ。


「この方の推薦により、急遽佐藤さんの動画やブログより情報を集め、佐藤さんの個人情報を集めたというわけです」


「………………」


 よくあんな昔の動画やブログからたどり着けたものだよ。出会った人達やお店の人達とは地元の話をしたから、特定できないとは言えないけどさあ。とりあえず俺が選ばれた理由はわかった。


「依頼内容の詳細を聞いてもいいですか?」


「はい。佐藤さんにはその要人と一緒に各都道府県の名所を回っていただき、名物などを食べてもらえればと思います」


「名所や名物は俺が選ぶんですか?」


「はい、以前に佐藤さんが行った場所や食べた料理と同じでも大丈夫です。基本的に佐藤さんには前日どこに行き、何を食べる予定なのかを報告していただく予定です。もちろん連絡さえいただければ、途中で予定を変更してもらっても問題ありません」


 ということは、同行者がいるだけで、俺は普通に旅行しているのと変わらないわけか。もちろん同行者の好き嫌いも考慮するが、前に旅したルートをなぞってもいいだけだから、それほど難しいことではない。


「……それなら命の危険はないと思うんですけれど、その要人が命を狙われているとかですか?」


「いえ、そういうわけではありません。詳細につきましては、佐藤さんが依頼を受けた時に説明しますが、移動方法が初めての試みとなりますので、危険があるかもしれないといった次第です。個人的にはなんら問題ないと思っていますよ」


「ああ、そういうことですか」


 つまりは新しい乗り物か何かの走行テストということだろう。開発中の乗り物だから多少は事故の危険性があるというわけか。だがそれを言ったら日常の中でも、事故で命を落とす可能性もあるし、大病を患う可能性だってある。


 なによりタダで日本一周に同行できて、報酬が1億円というなら、なんらかのリスクがあって当然だろう。それにもし1億円があるなら、今のブラック会社を辞めることができる!


「契約書とかはありますか?」


「はい、こちらに」


 営業職として契約書の確認は非常に重要だ。彼女達のやっていることはめちゃくちゃだが、ちゃんと会社や俺の顧客先に話は付けているようだし、本当に国からの依頼らしい。


 ……なるほど、契約書の内容は依頼内容を他の人には話さないこと、一度契約をしたら最後までやり遂げること、もし万が一俺の身になにかあれば慰謝料なども支払われることが記載されており、問題ないように思えた。


「しばらく考えることはできますか?」


「いえ、実は時間がありません。佐藤さんが依頼を受けてくれるのでしたら、明後日には出発していただきます。もし断られるのでしたら、このあとすぐに別の候補者に話を持っていきます」


 なるほど、その要人とやらが来るのが明後日なのか。そして俺が断ったとしても別の候補者がいるらしい。日本一周をしたことのある人は俺以外にもいるだろうし、ここまで用意周到に準備をしている彼女達なら、本当に別の候補者も準備しているのだろう。


「……わかりました、この依頼を受けます」



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