第5話 街すげぇ…
川水を飲んで水分補給をした後キノコを少しばかり採集して、俺とセシルは森を出発した。
「なぁセシル、今って時間どのくらいだ?」
「もうすぐお昼だよ。ちょっとお腹減っちゃった、えへへ」
「えへへ、てさっきキノコ食ってたろ、俺もだけど」
でも昼時かぁ、ダンジョン行くなら軽めに何か食っておきたいな。
あと衣食住は満たしてないと心配だな。
そういえばギルドとかってあるんだろうか。
異世界と言うとギルドにダンジョン、酒場!みたいなイメージが強いんだよな。
「ギルドとかあるの?」
「ダンジョンの近くに建物があって、そこがギルドだよ。ギルド寮とかも借りられたりするよ! 私もそこの寮使ってるんだー。
ギルド近くに食堂もあって一般の人より安く食べれるよ。しかもご飯のおかわりは、なんとなんと無料!」
食べ盛りの高校生にとっておかわり無料は嬉しすぎる。しかも寮付きだと。
完璧すぎるぞ、完璧すぎるぞギルドよ……!
それならこの今着てる音ゲー大会T-shirtから着替えれば衣食住が揃うな。
この世界の服はセシルが今着てるやつなのかな。
それにしても森の中って空気が綺麗だな。
都会とは全然違う、まぁその原因は車の排気ガスとか都市ごみの路上放棄、
緑の減少etc……
自然って偉大だ、改めて感じた。ありがとう、森。
そんな人間の愚かさと自然の凄さ偉大さについて考えていると、
木々の隙間から住宅の壁、商人が馬車を引いている様子が見えた。
木々の隙間から子供達の靴が床の石畳を蹴る音、どこかで料理をしているのだろうか微かに包丁で切る様な音が聞こえた。
「着いたよ! ここが私の住む街、ミュゲルーズムだよ!」
「すげぇ、街っていうからそこまで大きくないのかと思ったけど、これ都市と大差ないんじゃないのか?」
壮観だった。都市のビルも凄いが、なんていうか歴史の重みや深みを感じる。
代々伝わる伝統の行事みたいな重みと、
100年前からの継ぎ足しのタレみたいな深みを。
食べたことないから分からないけど。
「確かにー。けど一応街だよ!」
異世界に来たからダンジョン!
とかだけだと思ってたけど、これは異世界の日常も楽しんでいかないと勿体ないな。
だがしかし、推しが恋しくなってきた……
異世界は面白そうだし興味が尽きないけど元の世界にも戻りたい。
「唐突なんだけど元の世界に帰る方法って聞いたことある?」
「どうなんだろう。今までそんな話は聞いたことはないよ。異世界人は街に住んだり、都市の方に出て行ったりして元の世界に帰ろうって考えは見たことも聞いたこともないんだ」
敢えての選択で残ってるのか。
色々あるもんな、仕方がない。
けど俺は推しが恋しい! カップラーメンも恋しい! 狂おしいほどに!
までの熱狂的ファンでは無いものの恋しいもんは恋しいんじゃ。
ただ異世界で暮らして、元の世界への戻る方法を地道に探していくしか方法は無いんだろうな。気長に過ごそう、異世界生活楽しもう。
「因みに私この街に住んでから意外と経つから色々案内してあげるよ! ギルドとかダンジョンの後ね!」
最初に会ったのがセシルで良かった。
優しいしセシルの笑顔が元気を与えてくれる。いきなりこんな訳の分からないことに巻き込まれても安心出来るのはセシルのお陰だろう。
「案内してくれるの助かるわ。後さっきから気になってたんだけどこの匂いなんなんだろう、めっちゃいい匂い過ぎて腹が減るんだが」
「あれは、お餅だ! 異世界から伝わったんだよ。カノンも食べたことあるでしょ?」
「数えられないくらいには食べたな」
餅めっちゃ好きなんだよなぁ。
特にきな粉、醤油と七味のタレを付けて海苔で巻いたやつ。お汁粉も好物だし。
「買ってきたよ! はい、カノンの分ね」
「早っ! いつの間に! うわぁこれ絶対美味いやつだ……」
食器の代わりになっている葉っぱの上に、入道雲の如き湯気がもくもくと大きな青空へと登っていく。
焦げの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
そして俺は餅にかぶりついた。
「美味えぇ! やっぱ米美味ぇ。この醤油みたいなタレといい、焼きたての熱さといい、焦げ目の付き具合にこのモチモチ感。堪らん!」
「色んなお店で餅は売ってるけど、私はこの店の餅が1番好きなんだ!」
セシルの頬っぺたも餅が伸びるように動いていた。ちょっと触ってみたいと思ってしまった。
「餅食べて丁度小腹も満たせたことだし、いざギルドに向かってダンジョンへ! あ、セシルさんよ、お金どうしたら良いでしょうかね」
すんなり受け取ったがお金払ってない、というより払えない。
流石に払わせたままじゃまた借りが出来ちまうよ。
「ダンジョンの魔物を倒すと魔核石が落ちたり、時々アイテムが落ちたりするから、換金した時に貰おうかな! 出世払いってやつ! ほんとはお金なんていいよ〜って言いたいけどね〜」
「それだと面目がたたないよ……」
「とりあえずダンジョンに入るにしても、住む場所にしても、ギルドに加入しないとダメだから、ギルドに行こう! カノン、着いてきて!」
「おう、案内頼む!」
果たしてギルドはどんなとこなのだろうか。
俺の異世界生活はどうなるんだろうか。
そう期待と不安を胸に募らせ、先程見た子供達のように石畳を靴で蹴り打音を響かせた。
それはそれは心地の良い音だった。
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