フリーランスにご注意!
はい、本日もセントラルを練り歩いております。
空は相変わらず鉛色、ストリートをサイボーグや獣人が行き交ってます。
そんな周囲からの視線にも慣れ──慣れねぇわ。
先生の言う通り、そろそろイメージチェンジすべきなんだろうな。
「どんな脚部があるんでしょう…楽しみです!」
三つ編みのおさげを跳ねさせ、きらきらと目を輝かせるゾエ。
クローバーラインとHEKIUNを天秤にかけた時の落ち込みようが嘘みたいだ。
やっぱり笑ってるのが一番だぜ。
「積載重量の高い脚部って言えば戦車型かなぁ」
「戦車……強襲形態への変形はあるんでしょうか?」
ゾエちゃん、劇場版ロストエッジの強襲機は二足歩行ロボットいらなくねってなるからやめよう。
「そういえば変形するティタンって見たことないな」
「ゾエも見たことがありません」
メインストリートを外れ、端末に表示されたルートを進む。
俺たちは現在、クローバーラインとHEKIUNを搭載できる脚部を求めて、ヘイズ御用達のショップを目指していた。
ゾエの欲張りさんめ。
でも、その気持ちはよく分かる。
「あ、でもサブアームを持つティタンは見たことがあります!」
「サブアーム?」
また、面白そうな機構を考える人がいるもんだなぁ。
大柄なサイボーグさんが対面から来たので、ゾエの手を引いて避ける。
「アルビナの配信でレーザーブレイドのサブアームを使用する敵機を見ました」
「ほほう」
「取り回しと燃費の悪さが致命的、とアルビナは評価していました」
「か、辛口レビュー」
アルビナ先生、容赦がないぜ。
面白そうとは思うが、相棒にサブアームを付けても負担になるだけだな。
「アルビナの評価は適正だと思います。サブアームを起動して28秒で敵機はエネルギー切れを起こしました」
「短期決戦なら十分じゃないか?」
奴なら俺を3回は殺せる時間だ。
十分な気がする。
「両腕とサブアーム2基が干渉し合って攻撃に苦労しているようでした」
「そりゃそうなるわ…」
大いに理解できるロマンだ。
しかし、どう考えても4刀流は無謀だよ。
俺たちヒューマンの腕は4本もねぇんだ!
「サブアームを軽量な火器に変更すれば……」
指を立てて名案を閃いたという表情のゾエ。
そのスカイブルーの瞳が道端へ向けられる。
「道端で人がうずくまっています」
言われて振り向けば、狭い路地の端に体育座りするお姉さんが1人。
サイバーパンクなデザインのボディスーツに、ヘイズ並みの無表情と来た。
困ってるんだよな、多分?
「どうしたんだろ」
ゾエと顔を見合わせ、とりあえず声をかけてみることを決意。
「大丈夫ですか…?」
おっかなびっくり声をかけると、死んだ魚みたいな目が俺とゾエを見る。
良かった、オブジェクトじゃない。
ゆっくりと瞬きしてから、お姉さんは口を開く。
「おお、神よ……ついに天使を遣わせたのですね」
「ゾエ、行こう」
だめだ。
俺たちの手に負える相手じゃない。
心配そうにするゾエの手を掴み、その場を離れ──
「待ってください」
ひしっと足に抱き着いてくる姉さん!
「いやいや、待たないって、力強っ!?」
無表情だが、是が非でも逃さないという鋼の意志を感じる。
とんでもねぇのに捕まったぜ。
「ここで会ったのも何かの縁、話だけでも聞いてくれませんか」
「拒否権が無さそうなんですが?」
目を逸らすも手は離さない。
そして、思い出したように上目遣いで見てくる。
「こんな美人が困っているのに…」
「それ自分で言う?」
この世界の住人は、ほとんど美形か異形じゃん!
すれ違う通行人の同情的な視線が突き刺さる。
同情するくらいなら助けてくれません?
「と、とりあえず話を聞いてみましょう!」
「感謝します、私の守護天使」
おい、勝手に守護天使にするなよ。
しおらしい表情を浮かべても、目に光が戻ることはない。
「私はフリーの傭兵をやっているのですが、この度解雇されて収入がなく…」
「ふむふむ」
「ティタンに補給ができないため、ミッションへ出撃することもできないのです」
「それではクレジットを得ることができません…」
ゾエの言葉に頷きながらも、俺の足は離さないお姉さん。
「宜しければ、私を支援してはくださりませんか?」
「ちょっと待った……どうして解雇になったんです?」
「私は仕事への正当な対価を要求しただけなのですが、それを理由に解雇されたのです」
間違いなく正当な対価が高かったからだ。
しかし、仕事を引き受けてもらった以上、支払うのが筋だろう。
「ひどい話です!」
「まったくその通りです。弾薬費の追加請求をしただけで、解雇とは不当です」
お姉さんは右手で俺の足を保持しながら、左手で握り拳を作る。
雲行きが怪しくなってたぞ。
「追加請求…?」
「はい、増援の敵対勢力を殲滅するため使用した弾薬費です」
「どのくらい請求したんですか?」
それを聞かれたお姉さんは、左手で腰から端末を抜き、画面を見せる。
「これくらいでしょうか」
「わぁ…レールガンが2丁も購入できますよ!」
ゾエの記憶力はすごいなぁ。
それで理解できた。
この桁のクレジットを一度の戦闘で請求されたら、そりゃ──
「このままでは私はおしまいです」
悲壮感の欠片もない声を出し、お姉さんは足に抱き着く。
通行人の視線が突き刺さるようだぜ!
「どうですか、私を雇ってみませんか? 腕利きのティタン乗りで、ミッションの達成率は120%、しかも美人です」
「自己評価が高い…!」
この人、放っておいても問題なくやっていけそうなんだが?
「雇ったら赤字確定じゃん…初心者に負担できるわけ──」
「いえ、貴方からはクレジットの香りがします」
「どんな鼻してんの…!?」
「犬と呼んでください」
「プライドを持てよ!」
死んだ魚みたいな目は、俺をロックオンしたままだ。
俺をツッコミ役に徹させるとは、手強い。
「犬は駄目ですか」
「いや、それ以外でもだめだよ」
固唾を飲んで見守るゾエの情操教育に、大変よろしくないのでやめてください。
この勝負、圧倒的に俺が不利だ。
いや、声をかけた時点で敗北は決まっていたのか。
恐るべしティタン・フロントライン。
「はぁ……分かりました」
結局、俺が折れることにした。
堂々巡りするのは目に見えてるし、俺以外の被害者を出すわけにもいかない。
犬に噛まれたと思って諦めるさ。
「全額は負担できませんよ」
「いえ、感謝します。貴方は命の恩人です」
無表情のままピースされても反応に困るんだが?
俺は思わず天を仰いだ。
こうして──俺たちはトリガーハッピー赤字姉さんを拾ったのだった。
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