敵機を撃破してください

 鳴り響くアラート音を聞き流し、ペダルを蹴る。

 加速する世界、水飛沫が舞う。

 相棒を見失ったミサイルが水面に突っ込む光景を尻目に、高架橋目掛けて飛ぶ。


≪ECMを起動する…始めるぞ≫

「タイムスタートだな!」


 所々が崩れた高架橋へ着地、衝撃を殺して疾走する。

 鳴り止まないロックオン警報。

 敵は4時方向、400m。


 視界の端に映る白いティタン──空中でスナイパーライフルを連続射撃。


 次々と狙撃が命中し、ビル群に潜む無人兵器が爆散する。

 いい腕だぜ。

 意地でも左腕はパイルバンカーのままだけど。


≪ルート上に敵が展開しているな≫


 俺の正面に着地し、アスファルトを削って止まるヘイズの機体。

 その隣を駆け抜け、進行方向に展開する敵を捕捉。


「こっちは任されたっ」


 4車線ある高架橋を封鎖するように戦車が4両、どっしり構えてる。

 ごてごてに増加装甲を装着、いかにも防御力が高そうだ。


≪任せる≫


 ロックオン警報と同時に白いティタンが跳躍。

 3時、4時、10時のビルから発射されるミサイル。

 これで統制が取れてないって?


≪私も行こう≫


 並んで走る鉄色のティタン。

 右腕のレールガンは青い光を蓄えている。

 師匠がいれば百人力だ。

 行くぜ!


 戦車の主砲が照準を合わせた瞬間──ペダルを踏み込み、空中へ相棒を飛ばす。


 鉛色の空が近づく。

 眼下を超高速のAP弾が抜け、ミサイルの雨が高架橋を爆破する。


≪エネルギー残60%≫


 スラスターをカットし、自由落下。

 スティックを操作、戦車の上面に照準を合わせる。


「おらおらおらぁ!」


 無防備な上面へ満遍なくAP弾を叩き込む。

 そして、レールガンの閃光が1両を貫き、橋上は爆炎に包まれる。

 スラスターを再噴射。


 黒煙を飛び越した先にも敵──ロックオン警報。


 戦車が4両、その後方に対空自走砲が3両。

 既にミサイルが発射され、ロケットモーターの閃光が見えた。


「師匠」

≪行くぞ、少年≫


 スティックを素早く操作、同時にペダルを蹴る。


≪エネルギー残30%≫


 左から右へ流れる鉛色の景色。

 敵弾を回避した瞬間、トリガーを引く。

 左右へ別れた俺と師匠は、ほぼ同時に肩部のミサイルを発射していた。


 白い軌跡が高架橋へ吸い込まれ──敵ごと爆砕する。


 決まったぜ、師弟コンビネーション!

 高架橋へ降り立ち、相棒を走らせる。


≪ふっ…やるな、少年≫

「へっ…師匠こそ」


 何も打ち合わせはしてなかったんだけどな。

 これぞ以心伝心!


≪何をやっている…≫


 俺たちの下へ舞い戻ったヘイズ、大変ご不満そう。

 どうした、妬いてるのか?

 まったく仕方ない友人だぜ──


≪残り4kmだ、急ぐぞ≫

「あ、うん」


 ペダルを踏み込み、スラスターを噴射。

 高架橋の上を滑走しながら、ノイズの走るレーダーに目を配る。

 赤点は減る気配がない。

 ムリヤさん、無事に離脱できたかな?


≪ECMの効果は抜群のようだ。それは新型かね?≫


 そう言って師匠は、レールガンの一撃を遠方のビルに撃ち込む。

 崩壊するビルの影から黒煙を引きながら墜落する攻撃ヘリコプター。


≪ああ、販売されたばかりの最新モデル──右だ!≫


 ヘイズの警告に反応し、一斉に散開する。

 右手には、倒壊して半分が水没したビル。


 コンクリートの壁面が赤く溶融──青い閃光が噴き出す。


 浮き上がった相棒の眼下、光線が高架橋を溶断する。


≪左脚部温度上昇≫

「嘘だろ!?」


 回避したはずだ。

 ナガサワでも、ここまでの威力はなかった。

 射手を頭部のカメラで捉える。

 ビルに開けられた風穴、その奥の立体駐車場。


 鋭利なフォルム、鳥脚のティタンだ──右腕が異様に長い?


 左腕の火花を散らすナガサワを躊躇なく投げ捨て、異形のティタンは大きく跳躍。

 遅れてスナイパーライフルのAP弾が足場を吹き飛ばす。


≪J・B、動けるか?≫


 通信に耳を傾けつつスラスターをカット、高架橋へ着地。

 跳躍した異形のティタンに、ライフルのAP弾を浴びせる。


 ばかすか命中する──遅れて回避機動。


 さてはスナイパーライフルだけ脅威と見てるな?

 反撃を警戒し、高架橋の上を走る。


≪ふっ…やってくれる≫


 溶断された高架橋の向こう側。

 右腕を焼き切られ、装甲の変色したPV機体がいた。


「師匠、右腕が!」


 デジャブ!


≪問題ない。それよりも──≫


 問題ありますよ。

 よくもレールガンを!


 回避がおざなりな下手人め──速度で照準を振り切った?


 スラスターの赤い閃光を背負い、異様に長い右腕から青い光が噴き出す。


≪フラグシップとはなっ≫


 斜め上段から振り下ろされる青き刃──あの右腕、レーザーブレイドか!


 瞬時にスラスターを噴射、凶刃から逃れる師匠。

 レールガンを失うと機動の鋭さが増すのは仕様です。


「でたらめな出力だな!」


 師匠は回避するも、高架橋は橋脚まで一太刀で溶断された。

 大振りした結果、硬直中のティタン。

 その右肩にAP弾をぶち込み、タンクと思しきパーツを吹き飛ばす。


≪もらったぞ!≫


 同時に、その背面へ迫る赤い眼光。

 黒焦げのPV機体がレーザーブレイドを振り抜く。


 アスファルトの破片だけが蒸発──異形のティタンは空中に跳んでいる。


 そこへ側面から肉薄する白い巨人は、左腕を突き出す。

 火薬に点火、必殺の杭が射出され──


≪ちっ…!≫


 前面のスラスターを噴射、急加速で離脱する異形のティタン。

 パイルバンカーは空を切った。

 そして、鳴り響くロックオン警報。


「下がれ、ヘイズ!」


 すかさず追撃のAP弾を高架橋の上から異形のティタンへ見舞う。

 跳弾を確認、距離が遠い!

 そして、四方から飛来するミサイル。

 ペダルを蹴り、世界が加速する。


≪こんな僻地にフラグシップ……それもマッド・ドッグか≫


 俺たちを追うように高架橋が爆発し、崩落していく。

 視界の端では、水上から追尾してくるマッド・ドッグ狂犬


「あいつ、エネルギー切れにならないのか?」

≪奴はジェネレーター諸々を増設した特別仕様だ≫


 なるほど、ナガサワの異常な威力もか。


≪エネルギー残30%≫


 スラスターをカット、歩行へ切り替える。


 マッド・ドッグを手動で照準、発砲──AP弾は鋭角な装甲を前に跳弾。


 回避もせず、悠々と追ってくる。

 いくら研究施設へ辿り着けても、あいつは放置できない。

 ここで水没してもらう必要があった。


「あいつの相手、任せてくれないか?」


 研究施設へ接近するにつれ、ビル群が入り組んでくる。

 仕掛けるなら、ここだ。


≪奴の機動性に追従するなら、私が適任だ≫

「遠距離戦ができるのもヘイズだけだ」


 ヘイズは跳躍と射撃を繰り返し、遠方の無人兵器を叩いている。

 今もスナイパーライフルが火を吹き、水平線で閃光が瞬く。

 相棒では射程が足りない。


≪勝算があるのだな、少年?≫

「あいつは相棒を舐めてます」


 師匠の訝しむ声に、俺は確信をもって答える。

 マッド・ドッグは相棒を脅威と見ていない。


「そこが狙い目です」

≪ふむ……殿を引き受けようと思っていたが≫


 手負いの師匠を殿に?

 いくら機動性が上がっても、飛び道具無しのハンデは大きい。

 弟子としちゃ見逃せないぜ。


≪ここは少年に任せよう≫

「うっす」


 承諾してくれる師匠。

 その期待には応えないとな。

 後は、ヘイズに許可を──


「残り2km、目と鼻の先だ。必ず戻ってこい」

「おう!」


 俺の友人は、なんだかんだ言って背中を押してくれる。

 ロックオン警報が再び鳴り出す。

 スティックを握り直し、俺は仇を睨みつけて吠える!


「レールガンの弔合戦だぜ!」


 高架橋を外れて水上へ飛び出す。

 ビル群を越え、滑走中のティタン目掛けてライフルを連射。

 命中弾は全て弾かれ、火花のように散る。


≪エネルギー残10%≫


 スラスターをカットし、足場となるビルの屋上へ落下。

 劣化したコンクリートが砕けて舞う中、マッド・ドッグが動く。

 凄まじい加速で眼前に迫る──


「そんな直線機動じゃ…」


 ペダルを蹴れば、相棒も同様に足場を蹴る。

 コンクリート片が散り、青い閃光が足下で瞬いた。


「当たらないぜ!」


 ビルが溶断された瞬間、スラスターを噴射して次のビルへ後退する。

 硬直中のマッド・ドッグへAP弾をプレゼントしながら。


 当然のように装甲で耐える──ならどうだ?


 「ビンゴ!」


 右肩のタンクを吹き飛ばした瞬間、レーザーブレイドの刀身が揺らぐ。

 それを確認し、背面のビルへ着地。


 相棒を睨む狂犬の眼差し──次が来る!


 スラスターを噴射し、闘牛士の如くを躱す。

 大振りじゃない、刺突だ。

 ビルの壁面を蒸発させながら、異形のティタンは俺を追って再加速。


「あぶねっ」


 下段からの振り抜き──右へスラスターを噴射して回避。


 すぐ体勢を立て直し、マッド・ドッグが追撃してくる。

 ようやく本気になったか?


≪エネルギー残30%≫


 上段からの振り下ろし。

 前方へスラスターを噴射、赤と青の光が一瞬だけ交わる。

 下方にビルが見える位置まで一気に後退。


≪エネルギー残0%≫


 スラスターをカット、自由落下。

 横一文字の斬撃が頭上を掠めた。


マッド・ドッグ狂犬か、なるほどな…!」


 すぐに俺を再捕捉し、急降下に移る異形のティタン。

 俺を叩き切るまで追撃をやめない気か。

 いいぜ、来いよ!


≪右腕武器、パージ≫


 空中に放り出されるライフル。

 相棒がビルの屋上に接地した瞬間、斜め上方へ跳ぶ。


「眼は良い」


 進路上に現れた異物に狂犬は

 レーザーブレイドがライフルを両断、弾薬が爆ぜる。

 空振り、目潰し、がら空きの胴体!


「けどなっ」


 左腕にエネルギーを集中し、光の剣を生み出す。

 無機質な眼に驚愕が宿る。

 マシンパワーで俺を圧殺しようなんざ──


「甘いぜ!」


 マッド・ドッグの胴体へレーザーブレイドを振り抜く。

 装甲の表面で火花が散り、世界が明滅。


 刹那──光の剣は鉛色の空を切る。


 俺の背後には、胴体を両断されたマッド・ドッグの後ろ姿。

 慣性に従ってビルの屋上に激突、灰色の煙が舞う。


≪エネルギー残10%≫


 エネルギー回復のため、屋上へ降り立つ。


「狂犬、か」


 足元に散乱するスクラップを見遣る。

 機体性能は脅威だったが、奴には遠く及ばない腕前だった。


 ただ、もしもが手綱を握っていたら──ロックオン警報。


「息つく暇もねぇな…!」


 スラスターを噴射し、灰色を一掃して飛び立つ。

 ミサイルの直撃で倒壊するビルを尻目に、俺は研究施設へと向かう。

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