第004話 私なんかを護る為
「な、何をする!?やめっ!ひぃいっ……ヤメてくれ!」
……この男達も違ったか。
「お前達、これまでに無辜の女を襲った事は有るか?」
「も、もうっ赦してくれ……頼む!」
「有るのか、と聞いている。答えろ」
だが……もしも過去に、その様な事をしているのであれば……。
「な、無い!本当だっ!アンタを誘ったのだって、酔っ払ってたからあんな誘い方になっちまったが……無理強いはしてないだろっ!?な?本当なんだ……ほ、ほら……俺の冒険者タグだ!」
ふむ……Dランク一つ星、か。
ランクはともかく、星付きなら嘘ではないのかもな。
タグも……魔力を流せばちゃんと光るか、本物で間違い無い。
アノ刺青も無いし、見逃してやるとするか。
だが……その前に。
「一つ、答えろ。身体の……その部分だ。ソコに、醜悪な刺青が入った男を知らないか?隠し立てする様なら……」
──チャキり。
「ひっ!?や、やめ……て、やめてくれさい!し、知らない!知ってたらこの状態で絶対に嘘なんて吐かない!頼む……っ!」
あまりにも必死……嘘、では無さそうだ。
……この男達も知らないか。
脅し、
アノ男は一体何処に、今、何処で何を思うのか。
私が想像するアノ男は、何時もニヤニヤと私を見下ろす。
見下ろして、下卑た笑いで私に迫り、苦しめるのだっ!
決して……断じて、赦せるものかっ!
……姉さん。
この様な事を繰り返す私を……今の姉さんが見知ったら……何と思われるだろうか。
馬鹿げているのかもしれない。
正気では無いのかもしれない。
姉だけでは無い。
父も、母も、祖父母も……喜びはしないのかもしれない。
だが……今更……だ。
今更、この歩みを止める訳にもいかぬ。
「──ちっ。……今、私が聞いた事、それを誰かに話す事を禁じる。もし、風の噂ででも巡り巡って私の耳に届く事が有れば、その時は……お前らにとっての真実と事実がどうであれ、殺す」
アノ男……と、黒幕の男。
私は、絶対に赦さない。
……必ずだ、いつか必ず、辿り着いてみせる。
だが、私がこうして探している事は、知られる訳にはいかない。
知られてしまった方が、おびき出せるのかもしれないが……。
いや、やはり駄目だろう。
危険が過ぎる。
あの時、私にもっと力が有れば、と思ったが……。
ふふ、何と無様な事か。
……今も、まるで力が足りぬ。
強く、もっと強くならなければ。
今の私では、それなりの者に囲まれれば太刀打ち出来はしない。
だから、やはり知られる訳にはいかぬのだ。
私に……全てを薙ぎ倒す程の力が有ればな……。
ふっ、それは無いもの強請りと言うものか。
「わ、わわ、分かった!絶対、絶対に言わない!誰にもっ!だ、だからもう許してく、くだ、さい!刃物は仕舞ってくれ!」
──ひゅっ……チャキり。
「その言葉、違えた時は……。いいな?」
さて、この街にはもう、用が無い。
次だ。
私の旅路は未だ、始まったばかりだ。
必ず。
辿り着いてみせる。
必ずだ。
見付け出してみせる。
姉さん。
待ってて。
私が……必ず。
✿
「何だこのガキゃ!?スヤスヤとおネンネかよ!」
「ぎゃははっ!凄ぇガキだな?」
「お前ら黙れ……これは遮音結界だ。並じゃ無い」
「シャオン?お前の言葉はいつも意味がワカンネ!」
「ぎゃはっ!オレぁ知ってるゼ?アレだろ……?アレさ!」
「……糞っ。何で俺がこんな馬鹿者共と……」
「ああ!?おい、お前今ナンつった?お!?」
「もしかして、オレらを馬鹿にしたか?なぁ、笑え無ぇな!」
「ちっ──。馬鹿になどしていないから黙れ。これは高度な……スゲェ魔法って事だ。まぁそのお陰で、この距離で馬鹿騒ぎしてもこの少女には何一つ聞こえて無いだろうがな」
「バカが騒ぐだ!?やっぱお前、バカにしてんべ!?」
「ぎゃはははっ!パイセンはオレと違ってバカだからな!」
「はぁ……。分かった分かった、俺が悪かった。さっさと起こして連れてくぞ。カシラに怒られたくないだろ?」
「あっ……そいつぁ、いけねぇや……。シゴト、だな?」
「そうだな、カシラがキレたらヤベぇ。さっさとシゴトすんべ」
「やれやれ……。騒がれたら面倒だ。先にこれで口を縛れ」
「ああっ!?何でシン入りのお前が指図すんだよ!?」
「ぎゃははっ!パイセンがバカだからじゃね?」
「くそっ……。分かった、もう良い。俺は先に外で待ってる」
「お~し!シタっパは見はりってのがソウバってもんよ!」
「そうよな!シゴトはオレらパイセンに任せときな!」
「……俺だってカシラには怒られたくはない。頼むぞ?」
「っ!?そ、そうだ……カシラは気がみじけぇ」
「ぎゃはっ!パイセン~良いトコ見せて下さいヨ~!」
「──本当に大丈夫だろうな……ちっ。仕方無いか──先輩方、それじゃ俺は、見張りをやっておくから急いでくれ」
──ばたむ。
「いよぉ~っし、ウルセぇシン入りは消えたか」
「カシラがお気に入りだからって調子ノってんだべ」
「くそっ!そうでなきゃ俺がクラわしてやんのによ!」
「ぎゃははっ、パイセンじゃリ~ム~じゃね!?」
「アホっ!ムリじゃ無ぇっ!オレのが強ぇ!」
「じゃ~今度ヤっちゃって下さいよぉ!パイセンなら出来る!」
「そ、そうだな!いっちょ今度、ヤったるから見とけや!」
「さっすがパイセン!男前!ぎゃははははは──!」
──「……無駄に馬鹿騒ぎばっかりしやがって……外まで丸聞こえだっての。俺がお前らみたいな雑魚に負ける訳が無いぞ」
「ええと……村中のガキを集めればイイんだよな!?」
「確か、そう!パイセン賢い!憧れるぅ!」
──「カシラが言ったのは加えて、静かに、さっさと、だ。カシラさえどうにかなればな……こんな馬鹿しかいない盗賊団なんて泥舟みたいなものだ。くそっ……どうして俺はこんな事に……」
「よっしゃシゴトの時間だ!あ~……とりま、起こすか!」
「そっすね!オラ、ガキぃ!起きろや!?」
──「あいつら……だから、いくら大声出しても起きないぞ。いくらなんでも頭が悪すぎる……。カシラもカシラだ。どうしてこんな馬鹿ばっか集めたんだよ?」
「起きねぇな?しゃあない、カツいで行くか!」
「ええ!?ダルくね?……ほら、ガキ起きろ!起きろや!?」
──「馬鹿共が……早くしろっての」
「き、きゃぁぁぁあああ!!!あ、あなた達は誰!?」
「お、ナンだ?ユすったらすぐ起きたな!」
「シャオンケッカイ、破れたりぃってか!?流石パイセン!」
──「ちっ、馬鹿共が……だから先に口を塞げと……もう付き合ってられん。……俺は他の家を回るとするか。カシラも、仕事さえこなせば文句は言うまい」
「や、やめて、やめて下さい!だ、誰なんですか!?」
◆
ベルファが張った魔法、遮音結界。
それは、嵐に、そしてこれから村で起こるであろう事にセストが怯えずに済む事を願って、ベルファが施したものだ。
しかし……結果として、それが仇となった。
母の悲鳴が、セストを案じて逃げろと叫んだ声が……。
セストには、届かなかったのである。
嵐に乗じて、盗賊団がエルフの村を襲ったのだ。
母の安否は……。
父は、姉は、セストは……。
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