第17話
日はすっかり暮れてしまい、空には満月が浮かんでいた。
「そろそろ戻ろう」とレオンに言われ、手を繋いだまま振り返る。
「わ! びっくりした」
じっと、こちらを見ている光る猫の目がたくさんあった。
「レオと、白猫さん。迎えに来てくれたの?」
猫の集団の中に、金色に輝くレオがいた。隣にいた白猫はにゃーと鳴いた。私とレオンは二匹の前にしゃがみ込んだ。
「レ……猫神さま。私、決めました。レオン殿下の王太子妃になります。それで、お願いがあります。私は蝗害を止めたい。力を貸してくれませんか?」
仔猫はしっぽをふわりと振った。
『良いよ。君は聖女だからね。ジュリアの願いを叶えてあげよう』
「え。私、……聖女なの?」
驚いてレオン殿下を見ると彼も目を見開いていた。
「何だ。二人とも気づいていなかったの? まあ、いいや。願いは蝗害を止めるだね。みんなで蝗虫を食べるよ』
「ありがとう」
私はレオに向かって頭を下げた。
「でもね、国内は広いし、虫は猫より多い。だから、ここの猫島の猫さんたちにも協力をお願いしたいの」
レオは瞳孔を大きくさせて固まった。
『僕のテリトリーに他の猫を呼び込むの?』
私は顔の前で手を合せてお願いした。
「猫さんが縄張り大事なのはわかってる。でも、猫の手は多いほうがいいと思うの」
レオは『猫の手ねえ』と自分の肉球を見た。
『わかった。ジュリアの願いだもの、この島の猫ボスと話してみるよ』
「ありがとう、猫神さま」
レオンがお礼を言い、続いて私もありがとうと伝え、レオを抱き上げた。
*epilog*
「ジュリア。今日も美しいね。子どものころから君のことが好きだけど、今日また恋に落ちた。君しか愛せない」
私の気持ちは望まないと言っていたレオンは、お城に帰ったら急変した。毎日、会う度に愛の言葉ばかりを語りかけてくる。
「レオンさま、私に勝手に触らないでください」
しかもスキンシップが多い。肩に触れてきたので、ぱしっと扇子で払う。
あれだ。やたら毛繕いしたがり、遊んでと絡んでくる、仔猫に懐かれた気分。
会話もなく、目も合せなかったのが嘘みたい。変わり用に戸惑うけれど、そこまで嫌じゃない。
これが、溺愛なの? 慣れって恐ろしい……!
王妃教育はなくなり、自由の時間が増えた。ガーベラが彩る城内を猫が悠々と歩く。
ユリアは猫島が気に入って、念願の猫に囲まれた生活を送っている。
仔猫姿だったレオは獅子ほどの大きさにあっという間に成長した。猫島の猫数百頭と元々国内にいた猫たちと日々、蝗虫を追い回し、食べてくれている。
そのおかげで、田畑や村に緑が戻ってきた。
ガリガリだったトニーとユウジーン兄弟たちも、今はすっかり健康的な体格になり、学校へ行っているという。
高位貴族の老臣たちをまとめ指揮指導しているのはレオンだ。彼は約束通り、日に日に立派に、頼もしくなっていく。
私の気持ち、望んでくれてもいいんだけど……。
猫を助けてくれたときに芽吹いた彼への感情は今、根を張り、すくすくと育っている。
これ以上、愛を与えられると本当に溺れてしまいそうで困る。けれど、あの金色の髪に触れながら、伝えたい。
私も、猫も、あなたも好きだと。
ゲームだけでは味わえなかった、少し先の未来を想像しながら、私は白い壁に描かれた金色の猫を指先でそっと撫でた。
fin. °+.*
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