第17話同じドレス2

「ヴァレリー公爵令嬢……」


「ごきげんよう、王太子殿下」


「あ、ああ……」


 あらあら、漸く気付いたようですね。私とミレイ側妃のドレスが同じだと。


「ミレイ側妃の藤色のドレス素敵ですわね」


「あ、ありがとう」


「殿下が贈られたのですか?」


「あ、いや……」


「違うのですか?」


「…………だ」


 嘘ですね。

 この王太子殿下、素直というか、嘘をつけないというか、腹芸ができないというか。とにかく、顔に全部出てます。報告書通り、ポーカーフェイスが出来ないのは本当のようですね。まぁ、私には好都合ですが。


「では、今すぐに側妃を着替えさせてくださいな」


「……は……?……なにを……」


「聞こえませんでしたか?今すぐにミレイ側妃のドレスを別の物に着替えさせるように申しているのです。ご安心ください、王太子殿下。夜会は始まったばかり。側妃のドレスに気付いた者は少ないでしょう。私も事を荒立てるマネはしたくありませんもの。ええ、何らかの手違いによってヴァレリー家の娘と側妃のドレスが被ってしまっただけのこと。人は間違いを犯すものですものね。私はミレイ側妃を罪には問いませんわ」


 そう言い放てば、王太子殿下は口を開けたまま絶句し、隣のミレイ側妃は何を言われたのか理解できない顔でポカンとしたままでした。

 ミレイ側妃が夜会で着ているドレスは、王太子殿下からの贈り物ではなかったのでしょう。王太子が「自分が贈った物」と言った時、ミレイ側妃は目を大きく見開いて驚きを隠せていませんでした。そのせいで話についていけなかった様子ですし、何より、同じドレスを着ている意味さえ理解しているか怪しいものです。


「な、なにを突然言われるんだ。ミレイに着替えさせるだと……?」


「まあ!それでは殿下は私に着替えろと仰るのですか?」


「そんなこと言ってないだろう!」


「クスクスッ。殿下こそおかしなことを仰らないでください。そう言っているも同然ですわ」


 私の言葉に、ざわざわと騒がしかった会場が徐々に静まり返っていきます。

 ゴクリと唾を飲み込む音があちらこちらで聞こえ、それは静寂した会場に響き、更なる緊張が空間を支配していきました。

 皆の視線は私と王太子に釘付けです。そうでしょうとも。国賓の私を怒らせたのが自国の王太子なのですから。下手な事を言えば国際問題に発展する事態だと理解しているのでしょう。ただ、理解していない者もいますが……。


「ふざけないで!なんで私がドレスを着替えないといけないのよ!!」


 当事者が理解していない事が一番質が悪いと思うのは私だけでしょうか?

 貴族令嬢としての感性を持ち合わせていればここは謝罪の一択しかありません。それを理解していない時点で彼女は令嬢失格。いいえ、妃失格です。


 


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