第23話祖国のニュース1

 

「お嬢様、どうやらロクサーヌ王国は大変な状況のようでございます。なんでも王太子殿下の愛妾が殿下に似ても似つかない子供をお産みになったそうです」


「あらあら」


「その事を知った王太子殿下が産まれたばかりの赤子諸共愛妾を刺殺なさったようです」


「まぁ……」


 メイドの話にとぼけて見せた。

 何も知らないフリをしているけれど、その事はもちろん知っているわ。

 実父は取り巻きの誰かでしょう。

 当時から何かと噂になっていましたもの。ある意味、当然の結果でしょうね。

 如何に王太子殿下が恋人との愛を語ったところで男爵家の娘を妃に向か入れるなど現実的に無理というものです。だから「愛妾」のままだったのでしょうね。王族、貴族の結婚許可は国王陛下のサインが必要不可欠。許可は下りなかったのでしょう。


 クロエ・ライト。


 お父様達が王都を去った後に、ライト男爵家と彼女の取り巻き達の実家は取り潰されたと聞きます。これに公爵家は関わっていません。恐らく国王陛下の采配でしょうね。そうでもしないと王家としても存続が危ういと感じた結果でしょう。既に貴族達からの信頼は地に堕ちていますけど。

 


「それと、どうやら国が財政難に陥っているようです」


「……では、例の法案が通ったのかしら?」


「そのようです。せっかく旦那様が法改正を行ったというのに。これでは元の木阿弥です!」


 公爵家の使用人たちは総じて忠誠心が高い。なので身贔屓が過ぎる点は否めないのだけれど、確かに彼女の言う通り、お父様が推し進めた法案を無に帰す行動はどう考えても悪手としか言いようがありません。

 

「恐らく、貴族達からの嘆願があったのでしょうね。お父様がいない現状では国王陛下一人が反対していても意見が通る事はありませんもの」


「はい。新聞にもそのように報じられていました」


「残念ですわね」


「はい……」



 貴族だけの政治に一般市民で構成された庶民のための政治組織。それが『庶民院』。この二つの組織の力関係は非常に難しいものでした。できたばかりの『庶民院』には政治知識が欠けていましたがそれは驚異的な速さで『貴族院』においついたのです。その背景には宰相である父の存在があった事は明白。最初は「宰相の楽しい遊び」と揶揄していた貴族達は騒然としたものです。彼らの提案は特権階級に属する貴族達の権益を侵しかねない内容だったからです。それでも父は一切妥協することなく、時には強硬手段すら厭わない姿勢で立ち向かいました。

 結果、『庶民院』の力が増したのは必然と言えるでしょう。父はそれだけの影響力を持っている人物なのです。そして何より、貴族達に反発する市民の声を無視する事ができませんでした。


 けれど、父が政界から退いた途端にこうも瓦解するとは思いもしませんでした。

 再び特権階級たちが利権を貪る社会が始まります。


 一度手にした権利を果たして市民たちは受け入れるでしょうか?


 答えは決まっています。



 


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