第7話 生きる意味

2032年10月22日。この柚子美と美咲は学校のプールに入っていた。二人の学校は室内プールがありこの季節でもプールの授業をしている。そしてプールに入っている時に、あの大災害は起こった。地震の影響で壁は壊れ、外にあった木や電柱がプールに倒れ込んできてしまった。二人はそのまま意識を失ってしまう。





東側のエリアには、古いお城のようなものがあった。おとぎ話に出てくるような小さいお城ではなく、東京ドーム4個分はある広さである。

「ねぇねぇミカ!私あのお城行ってみたい!」

遠目であの城を発見した時にユズは行きたいとミカに頼んだ。メイ先輩はよっぽどのことがなければ死ぬことはないと言っていたのでミカは承諾していた。本音はミカも行ってみたかったのである。

お城の中はまるで迷宮だった。天井はそこまで高くなく分かれ道がいくつもあった。途中隠し通路が開いた後のような場所を見つけ少しテンションが上がったが、開いた後ということは誰かが探索したということ。当然隠し部屋の後には何も残っていなかった。その隠し部屋の中には解読不能なポスターがあった。英単語が複雑に入り混じっており英語が多少分かる者でも何が書かれているのか理解できない程に。

二人は学校の成績で英語は学年2トップと言われるほど互角だった。ユズが勝つ事も良くあったがミカの方が常に1位を取っていた。

「このポスター。もしかして何かの暗号なんじゃない?」

ユズは何かを感じ取ったようでしばらくポスターを眺めていた。吊られてミカも一緒にポスターを見る事にした。しかしユズは5分ぐらいで飽きてしまったらしく部屋にある本を適当にめくっている。

「もしこれが何かの暗号なのだとしたら、多分この単語はフェイクって事になるからおそらく本命は.....あ!」

ミカは急に大きな声を上げた。恐らく、何かに気付いたのかもしれない。

「ど!どうしたのミカ?何かわかったの?」

「ここよユズ!ここの単語を一列にまとめて縦に読むと文字になってる。えーと翻訳すると.....」

一番右側にあった単語を一列に並べ替えると、一つの文章になっていた。



この部屋にある隠し扉。先に眠るは雷神。



「雷神?雷神って何?」

「さぁ?」

暗号を解くことはできたが、二人はその意味がよく分からなかった。そしてミカは近くにあった本棚に近づいた。

「普通隠し扉ってこういう物の後ろとかよね」

そう言ってミカは本棚を移動させてみた。すると本当に後ろには隠し扉のようなものがあった。


「え!本当にあった!」

ユズは驚いて飛び跳ねている。ミカはその姿を見て、可愛いなぁと思っていた。

「せっかくだし進んでみましょ?何かあるかも知れないし」

「うん!」

ユズは子供のように、はしゃいでいる。その空洞を10分ほど進んでいる。その間に二人は犬と猫どちらが可愛いかという話をしていた。ユズは犬の方が可愛いと言うが、ミカは猫の方が可愛いと言っている。そんな雑談ができるようになっている程にユズは元気を取り戻していた。

先に進むと、そこには宝箱があった。それを見ると思わずユズは走り出してしまう。おもちゃ売り場へ走る子供のように。

「ねぇねぇ!ミカ!宝箱!宝箱!」

「はいはい。私にも見えてるよ」

「何が入ってるんだろ〜」

ユズはすぐに宝箱を開けようとはせずにミカを待っていた。彼女は一人で開けたいのではなくミカと一緒に開けたいと思っているからだ。ミカも宝箱の前に着くとユズは手を差し伸べていた。

「せーので開けよ?」

「、、、、、、うん。」

ミカはユズのこういう素直なところが大好きだった。もし自分が女ではなく男だったら、彼女に本気で恋していたかも知れないとたまにそう思うぐらいだった。


『せーの!』

二人で宝箱を開けた。すると中には一本の剣が入っていた。そして宝箱の上には装備可能と書かれている。

「何これ?剣?もしかして、さっき書いてあった雷神ってこれのこと?」

「雷神っていうぐらいだから、てっきり雷とかを操るのかと思ってたけど、、、普通の剣見たいね」

中には剣と一緒に3枚のメダルが入っていた。ミカがそれぞれのメダルに触れると、雷鳴、意思疎通、真理眼と表示された。

「もしかして、昨日あの女の人が言ってたアイテムメダルってこれのことかな?3枚もあるね〜」

ユズは真ん中にあったC級意思疎通のメダルを手に取る。

「どういうアイテムなのか分からないから、帰りにメイ先輩に聞いてみようか」

「あっメイさんか。ごめんごめん」

ミカは残りの2枚を手に取るとユズは剣を手にした。その剣、雷神をミカに渡そうとするがミカは頭を横に振った。

「きっと強力な武器だから。それはユズが持ってた方がいいわ」

「え?いいの?」

「そうでもしないと、ユズは特訓サボしそうだし〜」

「もぉ!そんなことしないよ!」

二人はからかい合いながら部屋を後にした。来た道を引き返し安全に帰るつもりだ。途中でミカは雷鳴をリングにセットする。残りの二つの使い方はわからなかったがこれだけは確実に戦闘用と分かったからである。ゲーマーなら手に入れたアイテムを早く使ってみたいと思うのは必然だった。隠し扉の空洞を歩いているとユズはミカに唐突なことを聞いてきた。

「前から聞いてみたかったんだけどさ〜ミカは何で男子が苦手なの?」

「苦手っていうか、あの下心丸出しの顔が嫌いなだけ。純粋に友達になりたいって思ってくれる人なら別に良いんだけど、ああいうゲスい目をする人は嫌いなのよ。そういうユズだって、男友達なんてほとんどいないじゃない」

「まぁ私の場合は相性が悪いというか。男の人って一緒にいると疲れるのよね〜ミカみたいにずっと素でいられるんだったら友達になりたいって思うんだけど。やっぱり私はミカしかいない〜」

「はいはいありがとう」

二人はいつも通りにいちゃついていた。このまま平和が続くなら理想郷なんていけなくても良いと思うぐらい、今はとても幸せだった。しかし、幸せとはそうずっと続くものではなかった。



ガタン!!!


「ん?今の音...」

何か奇妙な音が聞こえた。それと同時にユズの床は垂直になる。そう、さっきの音はトラップが起動した音である。ユズはそのまま悲鳴をあげると同時に床下へ吸い込まれてしまった。

「ユズ!」

ミカはすぐに跡を追おうとしたが、ユズが落ちてしまうと落とし穴も閉じてしまった。これでは助けに行く事ができない。

「ユズ!ユズ!」

ミカは床に向かって叫び続けたが返事は聞こえなかった。すぐにミカはスイッチを探した。さっきの音がなった時に恐らく何かのスイッチに触れてしまったのだ。ならもう一度そのスイッチを見つければ落とし穴は開くはず。そしてユズが歩いていた道にあった小さな窪みに触れると。



ガタン!!!



再び落とし穴は起動した。これでユズを助けに行く事ができる。そう思いミカはすぐに穴に飛び込もうとした。しかしその瞬間穴の下から恐ろしい叫び声が聞こえてきた。ユズの声ではなかった。恐らくモンスターの声である。その声を聞いた瞬間にミカは足を止めてしまった。さっきまでユズを助ける事でいっぱいだった頭の中が一瞬にして恐怖に包まれたからである。


どうしよう...早く行かないとユズが...行かなきゃいけない...分かってるのに...


分かっていてもなかなか足を前に進める事ができなかった。このまま足を踏み入れれば生きて帰ってこれないかも知れない。そんな想いがよぎっていたからである。

だが彼女は思い出す。ユズと出会った時の事を。彼女と初めて帰った時のことを。一緒にお泊まりをした事を。そして彼女は自分にとってかけがえのない親友である事を。


怖いから何よ!ここで逃げたらもう戻れない!あの子がいなくなってしまったら、生きてる意味なんてない!


そして彼女は床下へと飛び込んでゆく。恐ろしいモンスターの叫び声を聞きながら。

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