第5話 A級 鬼神
「ふーふっふふーん。A級〜A級〜」
鼻歌を歌いながら洞窟を進んでいくこの少女、ヒナはご機嫌だった。山エリアの入り口付近で見つけた初心者を罠に嵌め、A級武器の為の生贄にしたのだ。だが彼女にとってそれは、使い捨てカイロを捨てることと同じだった。彼女は自分以外誰も信じていない。自分さえ幸せなら他人がどうなろうとどうでも良かった。
ヒナはそのまま洞窟を降り続けると遂に宝箱のある部屋を見つける。
「あったあった〜」
そして宝箱を開けると、そこには一本の剣。A級鬼神が眠っていた。
「これで私はもっと強くなれる!」
彼女はテンションMAXで鬼神を持とうとした。だが、その手は鬼神から弾かれてしまった。
「え?.....何これ?.....装備不能?」
宝箱の上には、装備不能 このプレイヤーは鬼神の装備資格を持っていない為鬼神を装備できません。と書いてあった。
「はぁ!何これ聞いてないし!ここまで来てそれはないでしょ!ねぇ!」
ヒナは何度も鬼神を持とうとしたが、何度やっても弾かれてしまった。
「もう災厄なんだけど〜!あ〜あ帰ろ」
遂に諦めたらしくヒナはそのまま帰ってしまった。生贄まで使って手に入れようとした鬼神を残したまま。
ナトは熊に吹き飛ばされた衝撃と洞窟に頭を強くぶつけてしまったことで気を失っていた。
約10分間気を失っていたがようやくナトは目を覚ました。
「あれ?......えーと....どうなったんだっけ?......」
意識が朦朧もうろうとしていたがすぐに熊のことを思い出した。
「そうだ。あの時吹き飛ばされて、それで...」
ナトはすぐに立ち上がり洞窟の出口へと向かった。早くエルとミラに加勢する為に。
「エル!ミラ!」
洞窟の出口が見えるとナトは反射的に叫んだ。そして彼は洞窟の外へとたどり着いた。
洞窟の外ではボロボロになりながらたった一本のクナイで闘っているミラがいた。
「っ...!来ちゃダメだ!ナト!こいつの強さは俺たちとは..」
言葉を最後まで言う前に、ミラは熊のモンスターに吹き飛ばされてしまった。.
「ミラ!」
ナトはすぐにミラの方へ駆け寄った。そしてミラを抱き抱える。
「ミラ!しっかりして!ミラ!ミラ!」
「ごめん...ナト...あの後..頑張って二人で闘ったんだけど...俺の作戦が...失敗しちゃって...エルが俺を庇ってくれて...でも体力が...」
熊は一歩ずつ二人の方へと進んでくる。
「じゃあ...エルは...」
その時、ミラの体が黄色に光り始めた。
「あはは...こりゃ...俺も駄目みたいだね...多分いまの攻撃で最後の3%使い切っちゃったみたい...」
ナトが洞窟から出て来た時、エルは既に消滅。ミラの体力はたった3%しかなかった。そんな状況でも逃げずに戦い続けていた理由は友情だった。ここで逃げたらエルの死が無駄になってしまい戻って来たナトに警告することも出来ない。そんな想いが彼が戦い続けている理由だった。体力が0%になったらそのプレイヤーは消滅してしまう。それを分かっていても尚、ミラは戦い続けたのだ。
「待って!嫌だよ!行かないでミラ!ミラまで居なくなっちゃったら...俺はどうやって戦えば...」
光に包まれ今にも消滅寸前のミラは、ナトに頬に手を当てた。
「ナト...逃げて...エネミーには...今のナトじゃ...勝てない...逃げるのは負けじゃない...ここでナトが生き残れば..俺の勝ちだからさ...」
ミラはナトに逃げるように促した。このまま自分が消滅したら、ナトは自殺するかもしれない。そんな想いが頭をよぎったからだ。
「でも..一つだけ..お願いなんだけどさ...俺たちの事...忘れないでほしいな...それが..俺とエルの願いだから...」
「うん...約束する絶対に...」
ナトが最後のセリフを言い終わる前にミラの体は消滅してしまった。ただ最後の瞬間、ミラは笑っていたような気がする。
熊はもうナトのすぐ近くまで迫って来ていた。ナトは立ち上がると洞窟の方へ向かって走り出す。彼は泣いていた。手で涙を拭いながらミラの最後の言葉通り熊から逃げることを選んだのだ。
彼は洞窟の中を走り続けた。洞窟は上へと続いていた。ナトは何も考えずにただ走っていた。エルとミラの顔をうモイ浮かべ泣いている。そして洞窟の中央の広い部屋にたどり着くと何かに躓いて転んでしまった。
躓いたと同時に涙も止まった。立ち上がると躓いた方に置いてある箱を開けた。その箱、宝箱を開けると中には一本の剣、鬼神が入っていた。この洞窟は上からと下からで繋がっていたのだ。本来なら下で仲間がモンスターの気をひいてるうちにもう一方の仲間が洞窟に入りA級武器をゲットする。そう言う仕組みだったのかもしれないがそれをヒナが悪用したと言うわけだ。
ナトが鬼神に触ろうとすると何かが表示された。
装備可能 このプレイヤーは鬼神の装備資格を持っています と書かれている
ナトは何も考えずに鬼神を手にした。装備可能と言う表記も彼も目には入っていなかった。そんなことを考える余裕は全く無かったからだ。そして彼は洞窟を引き返す。熊がいる下の出口へ向かって。
熊型のモンスターは壁をガリガリと削っていた。この穴から外へ出たいようにも見える。
ナトが鬼神を持って外へ出ると熊はすぐに彼に気が付くが、すぐに襲ってこようとはしなかった。さっきとは違う何か異様なオーラを感じ取ったのかもしれない。
ナトの頭の中はぐちゃぐちゃだった。頭の中に思い浮かべるのは街の近くの石の上で二人と話した会話の記憶、そして二人の顔だった。この熊を見ていると、ミラが消えてしまった瞬間の記憶が嫌でも頭の中に蘇ってくる。
鬼神の使い方は分からなかったが、もうどうでも良かった。ゾンビシアターでシドという少年がやっていた事をうっすらと思い出しながら、ナトは鬼神の刃の部分に左手の人差し指を置きそのまま刃の先端目掛けてなぞった。
こいつを倒したい。そんな彼の気持ちに応えるかのように鬼神は赤く光り始めた。その姿に熊は少し後ずさる。
そしてナトは走り出したかと思えば、さっきとは全く別人のように一瞬で熊の目の前に移動した。そしてそのまま熊の右手を切り落とす。血は出ていないが熊は痛そうに悲鳴をあげた。熊は混乱している。今自分に何が起こったのか分からなかったのだ。熊からしてみれば突然自信の右手が切られてしまったから。いや、聞かれたことすら理解できないかもしれない。それだけ今のナトの動きは一瞬だったからだ。
「その程度で何悲鳴なんか上げてんだよ」
ナトは熊に向かって呟いた。そしてそのまま熊に向かって一瞬で移動すると熊の体を2秒間の間に15回切り裂いた。まるでサイコロステーキかのように熊の体は一瞬バラバラになると、そのまま光に包まれて消滅してしまった。
熊が消滅すると銀色のメダルが地面に落ちた。これがエネミーを倒すと手に入るメダルである。彼は無言でそのメダルを手にとると空を見上げた。左手にはメダル右手には鬼神を持っていた。すると雨が降ってきた。台風ほど激しくはないがかなり激しい雨だった。彼の体はすぐに全身濡れてしまっていた。しかし彼は動こうとはしなかった。空を見上げながらある決意をする。
もう誰も信じない。
仲間なんていらない。
いつかアイツを。
ヒナを。
必ず殺す。
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