第14話 必要な犠牲 2

 翌日。

 盛大に寝坊した。

 時計を見ると10時を過ぎており、今日の予定を打ち合わせていなかったが、これは寝坊だろう。

 聞き込みもろくにしていないというのに警察の引き渡しに立ち会う為に村に戻らなければならない。

 クレアさんは気を利かせて自分を起こさずに一人で向かったのかもしれない。

 急いでクレアさんの部屋へ向かう。

「クレアさん!失礼します!」

 が、そこにいたのはベッドで爆睡しているクレアさんだった。

 この人も寝坊していたのだ。

「はぁ……。」

 クレアさんの寝相はとても悪く、女性として見えては行けない所が見えそうである。

 下はズボンなので大丈夫なのだが、もう少し女性としてそういうところには気をつけてほしいと思う。

「クレアさん!起きて下さい!立ち会いに間に合いませんよ!」

「ん……。」

 肩を揺すり起こそうとする。

 が、起きる気配は無い。

「っ!」

 肩を揺すり続けているといきなり腕を掴まれベッドに引きずりこまれる。

 気が付けば自分はクレアさんの抱きまくらになっていた。

「スゥ~。」

 綺麗に寝息を立てて寝ている。

 本来ならばこんな美人に抱き枕にされて喜ぶところなのかもしれないが今はそれどころではない。

 両親の命がかかっているのだ。

「……いい加減に。」

 体の自由が奪われているのでクレアさんの頭をめがけて思い切り頭突きをする。

「してください!」

 頭突きは見事に命中し、クレアさんは目を覚ます。

 しかし、思った以上に石頭だったのか自分の頭の方がダメージがすごい。

 その証拠にクレアさんはケロッとしている。

「あー……おはよう?」

 クレアさんは額を押さえておるので体は自由だ。

 だが、クレアさんは状況を飲み込めていないようだ。

「はぁ……。」

 

「……ごめん!」

 眼の前で謝罪をするクレアさん。

 事情を説明し、理解してもらえた。

「まぁ、良いんですけど。」

 正直良い思いは出来た。

 それだけは確かだ。

「で、どうするんですか?立ち会い、絶対に間に合いませんよ。」

「あぁ、それは大丈夫。予定通りだから。」

 疑問が浮かぶ。

 一体何が予定通りなのだろうか。

「……じゃあこの寝坊もですか?」

「いや、これは……。あ!というか君も寝坊したんだろう!?だったらあの頭突きは酷く無いかい!?」

 痛い所を突かれてしまった。

 だが、反論の余地はある。

「あ、あれはいきなり抱きついてくるそっちが悪いんですよ!」

「ぐっ!だが君の寝坊はどう言い訳するつもりだい!?」

 どうしても寝坊について自分を巻き込みたいらしい。

「そもそも、あなたが昨日のうちに今日の予定を教えてくれないのが行けないんですよ!」

「い、いや!君には洞察力を磨いてほしいからね!あえて言わなかったんだよ!」

 言いたい事を言い切って互いに一度落ち着く。

「分かりました。自分の寝坊は認めます。あと、いきなり頭突きしたのも謝罪します。その代わりいきなり抱きついてきたのは謝ってください。」

「分かった。寝坊と抱きついたことについては謝罪しよう。」

 そして、口論は落ち着いた。

 で、本題はここからである。

「で、予定通りってどういう事ですか?」

「ああ、元々あれに立ち会うつもりは無かったんだ。」

 容疑者の引き渡しに立ち会うというのは確かに聞いたことは無い。

 事情聴取も既に済ませているので確かに怪しい感じはしていた。

「つまり、どういう事ですか?」

「恐らく応援は奴らの息がかかった警察だ。じゃなければこんなに到着が早いはずもない。」

 確かに早いとは感じていた。


 ここら都市圏までの距離を考えても早すぎるのだ。

 だが、それだけでは判断材料としては弱い気もする。

 しかし、クレアさんはそんな疑問を見越してか質問する前に答えてくれた。

「実はねあの坑道の時から予想はしていたんだ。つまりは奴らの仲間を捕まえたことは既に坑道を利用して情報は伝わっている。それに、異世界では普通に流通している遠くの者と話すことが出来る電話というのを既に奴らは保有している可能性がある。まあ、警察との立ち会いが罠かどうかは分からなかったけど、念の為にね。」

「では、奴等は立ち会いの時に何をしようとしていたんですか?」

 すると手招きをして、近寄るように言われる。

 クレアさんは小さな声で教えてくれた。

「私達を殺すつもりだったんだろう。」

 するとその直後に扉をノックされる。

「しー。」

 出ようとするとクレアさんに押さえられる。

 しばらくすると人の気配は消えていった。

「何故ですか?」

「この宿に泊まる時に君の村で見た顔を見た。念の為さ。」

 つまり、こちらの行動は奴らに予測されているのだ。

 奴等の影響はこの村にまでも及んでいるらしい。

「さあ、ここからは慎重に行くよ。」

「……分かりました。」

 どうやらここから先はほんの少しの油断も許されないようだ。

 気を引き締めて行こう。

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