第89話 追放されし
「いやぁ、もう良いか。公式訪問と言ったって、俺が話す内容全部外に伝えられるはずは無いし」
シュンの口調が「ダイモスⅡ」で歓待を受けている間に砕けてしまった。
当然、「ダイモスⅡ」は貸し切り状態だったわけだが、それにしても砕けすぎだ。
いや、元々はそういう口調だったのだろう。
革新派の旗頭に収まった時に、それらしい言葉遣いを意識したようだ。
「俺、デュークさんの結婚式にも出たいんですよね。でも、それに合わせてこちらにお邪魔すると、都市間の関係性を重んじるっていう指針がぶれるって皆が言うから……」
砕ける砕けない以前に、酔いが回ってきているようだ。
新酒はなんと言っても、その飲みやすさが魅力の一つでもある。
「良いんだよ、俺のことは。そんな大規模にするつもりもないし」
シュンと、そして「クーロン・ベイ」の要求でデュークも「ダイモスⅡ」の接待には顔を出していた。
元々、デュークとシュンは顔見知りでもあったようだ。「北の帝国」との戦いの時に見知っていたのだろう。
「主席なんぞが来たら、どうやっても規模が大きくなり過ぎる。気持ちだけは受け取るからさ」
「まったく、主席なんか引き受けるんじゃ無かった。面倒事ばっかりで……」
どうやら「クーロン・ベイ」でも、街の運営に携わる者は貧乏くじを引くものらしい。あるいはそれぐらいの意識の方が健全であるのかもしれない。
「仕方ねぇだろ。お前が以外に誰がいるんだ?」
「コンゲさんとか~、あの人で良いと思いません? それにしても、この店は涼しくて良いなぁ」
今年は残暑が厳しいので、思わずそう言ってしまうことはわからないでは無いが、話の方向がバラバラだ。
さすがにこれ以上はマズい、とお付きの者が腰を上げ様とした時――
「……これは、酔っている間の愚痴みたいなものだと思って欲しいんですが」
シュンの口調から、突然酒が抜けた。
宣言とは真逆に。
公式な発言では無い、と受け取るべきなのだろう。
そう察したデューク、それにウェストも居住まいを正す。
「ユウキ卿を始めとした、保守派の面々については追放ということになりました」
「聞いています。連絡も受けました」
ウェストがすかさず応じた。
「クーロン・ベイ」の事後処理としてはまず無難なところだろう。
死罪については街の者には嫌うものが多いし、それ以外の罪を重ねて問えば保守派の親類にまで及ぼす影響が大きい。
連座は論外としても、それと似たような処置を行えば、結局は都市の活力が減衰してしまうのだ。
結果、保守派の名前が知れた面々は「クーロン・ベイ」、その周辺からの追放。
やはり、そういった「処置」がもっとも無難ということになるだろう。
ウェストも参事会の面々と諮って、それを了承したはずなのだが……
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