第49話 向き合うべき感情

「だからといって、無理です、なんて事も出来なくてね。お客さんが求めてるし、それが出来ないままだと自然に客足は遠のく。そうするとあたしが集めた仲間達も……」

「そうね。生活背負ってるし」


 わがままを言えないメイの事情を察することが出来るミオ。

 ミオはそんな自分に驚いたが、それ以上に驚いたのはメイの変化だ。


 であるなら、メイへの対応はどうしたものか……と考えても簡単には答えが出てこないと感じたミオは、とりあえず外堀を埋めることにした。


「……そんなに素っ気ないの? ユージさんとか」

「ああ、やっぱり、っていうか当然知ってるよね、あの人。あの人はあんたというか、パシャっておじさんに恩義を感じてるみたいでさ。……この際だから聞いてみるけど、あのおじさんは何者なんだい?」


 そう言われて、改めてミオは考え込む。

 長い付き合いになったが、未だに素性不明だ。何しろパシャ自身が自分の素性を覚えていない……らしい。


 それに「何者?」なんて言われるようなパシャのおかしな動きは、それこそミオと出会った時からなのだ。つまり最初からおかしい。


 そうやって黙り込んだミオを見て、メイは苦笑を浮かべる。


「なんだい。あんたもよくわかってないのか……でも、あのおじさんのおかげであんたは助かるし、あたし達はまともになるきっかけを貰った」


 突然、メイが立ち上がった。

 そのままミオに深々と頭を下げる。


「――すまなかった。謝って済むことじゃないけどね。あたしの自己満足のために謝らせてくれ」


 ミオはそんなメイを見て……やはり動かされる感情は無い。

 当然という気持ちと、今更、という感情がぶつかり合って、結局イーブンに落ち着いてしまう、とした方が正確だろう。


 だが、反応を見せないミオに焦ったのかメイはさらに言葉を重ねた。


「あたしもイブさんに店を任せて貰ってさ。その時は単純に喜んだんだけど、続けていくと思い出すのは店長に叱られた事ばかりだ」


 店長とは、ミオの父親スタディのことだ。


「それで自分がどれほど甘ちゃんなのか、やっとわかった。叱られた事を恨みに思って、取り返しのつかないことを――」

「う~ん、実はね。さっきまで忘れたのよ。あなたたちの事」


 ミオが突然声を出した。


「で、向き合ってみるとやっぱりモヤモヤはするんだけど、思っていたよりも全然たいしたことないのよ。だからって、あなたたちを許すつもりは無いんだけど――」


 頭を下げたままのメイがゴクリと唾を飲み込んだ。


「――それはそれとして、あなたの所にフルーツ卸さないのもおかしな話だって思うのよ。それで、そっちのお客さんが残念な気持ちになるのは可哀想だって」

「それは……あたしもそう思う。け、けどさ……一応ライバルになるわけじゃ無いか?」


 メイが改めて、デリケートな部分を確認する。

 だがそれに対しては、ミオはにんまりと笑った。そして宣戦布告するようにメイにこう言い放つ。


「そんなの『ダイモスⅡウチ』に勝てるわけ無いでしょ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る