第2話 冒険者登録をする
冒険者ギルドの中に入ると、流石外見から見て取れるように内部も広々としており、大勢の冒険者たちでごった返していた。
新規登録受付の窓口を探してキョロキョロしていると、通りかかったギルドの制服を着た女性が声をかけてくれた。
「どうされましたか? ここは初めてでしょうか?」
「はい、あの、冒険者登録をしたいのですが、どこに行けばいいですか?」
「でしたら、あそこになります。受付の一番端、ちょっと怖そうな
そう言って、女性は二コリと笑って、口元に手をおき小声で僕に話しかける。
「見た目は怖そうだけど、あれで結構、面倒見がいいから怖がらなくても大丈夫よ。では、よい冒険を」
そう言うと、女性は僕に軽くお辞儀をして奥へと消えていった。
僕は女性の言われた通り、受付の一番端の窓口へと向かい、そこにいたスキンヘッドの男性職員に声をかけた。
「すいません。冒険者登録をしたいのですが、どうしたらいいですか?」
声をかけたその男性職員は僕をギロリと一睨みすると、まるで値踏みするようにジロジロと眺めてくる。
「若いな。その見た目でちゃんと成人してるのか? まぁいい、この用紙に全て記入して、またここへ持って来い。字は書けるか?」
「はい、大丈夫です」
僕は出された用紙を受け取ると、肩に乗っかっているハルさんの事を聞いてみた。
「あの。従魔がいるのですが。どうしたらいいですか? 登録は必要ですか?」
ハルさんを見た職員さんは急に頬がゆるむ。
「ちっこい従魔だな。へぇ~斑ネズミか? こりゃ珍しい……」
こいつ噛んだりしねーか? 大丈夫か? そう言いながら、ハルさんを触りたそうに手がワナワナしだした。この人、見た目の厳つさとは違って、案外、小っちゃいものに目がない人かもしれない。そんな小っちゃいもの好きなこの職員さんは名札からアランさんと言うようだ。
「おー、その用紙の裏に従魔の欄があるから、そこに記入しておいてくれ。それとな……」
アランさんは周りを確認すると、人差し指で合図しながら「ちょっと耳をかせ」そう言ってきた。
「ここだけの話だが、ここでは珍しい従魔はあまり人前に出すな。何でも欲しがるちょっと面倒な奴がいてな。忠告だが、お前も目をつけられるな……」
そこまで言ったところで、アランさんの視線が僕を通り越してギルドの入口の方に向いたようだ。
「チッ、噂をすれば何とかだ」
アランさんは、何気に舌打ちをして独り言のように呟く。冒険者ギルドの入口辺りを見ていたアランさんは厳しい目をこちらに移すと。
「おい、そいつをさっさと隠せ」
アランさんが見ていた方向に目を向けると、お揃いの甲冑を着こんだ男達の集団がギルドに入って来る所だった。そして、その男達は入口を挟んで両側に整列すると、甲冑二人に守られるように一人の少女が入ってきたのだ。
その少女がギルドに入って来たとたん、背筋がゾワリとする気味の悪い感覚に襲われてしまった。僕の直感が警鐘を鳴らす。
(アレはヤバすぎる……。)
慌ててハルさんをフードの内ポケットに隠したのだが……。気のせいだろうか? その時、少女がこちらにチラリと視線を向けたような気がしたのだ。その氷つくような冷たい視線は心臓を鷲掴みされたような痛みが走り、情けなくも身体が硬直してしまった。
ギルド受付の奥から一人の男がペコペコしながら慌てて出てくると、ギルド内に設置された部屋の一つに案内して行った。
僕は目の端で少女が部屋に入って行くのを確認すると、ホッとして、ようやく身体の硬直は解けたようだ。
そこで自分の要件をさっさと終わらせようと登録用紙に記入し始めた。
表面には名前、年齢、出身地、推薦者や身分証明書の有無、職業と属性等を書く欄を埋め、裏面の従魔登録欄にハルさんの簡単な情報を記入した。身分証明書に関しては師匠が手配しておいてくれたので、登録時に推薦者に師匠の名前を出さなくても済む。
書きあがった用紙と身分証明書をアランさんの所まで持って行くことにした。
「ほぉー、身分証明書有りか。推薦人は出身村の長か。この世界は一旗揚げようと家出同然で飛び出してくる奴が結構多いからな。にーちゃんのように身元がはっきりしてる奴は案外少ないんだよ。
それで、職業は薬師だな。あと属性は……」
師匠に属性は正直に書くなって言われてる。何故なら、実は僕にははっきりした属性なんてないからだ。転生者特典なのか、簡単な魔法ならほぼ全ての属性魔法は扱える。
強いて言うなら精霊属性か? ただ、エルフやドワーフのような妖精種でない者は持てないと思われている属性だから、それは公には出来ない。それにだ、精霊術だけでなく他の魔術も使える事がバレると色々と面倒な問題に巻き込まれるかもしれない。
そんな面倒は御免こうむりたい。まぁ、そう言う事だ。
「はい、水属性です」
属性は申告制でいい。何故なら申告した属性の魔法を使えないとギルドからたまに来る強制依頼をこなせないと言う事になる。それはかなりのペナルティーになってしまう。
そこで、職業を薬師にしたので、属性は水って事にしておいた。それが都合がいい。だって、水属性はあまり戦闘向きではないと思われていて、魔物討伐とかのクエストへの参加はあまり廻っては来ないようなのだ。
「よし、これでいいか。ギルドカードは明日出来るから。また明日の朝以降にでも来てくれ。その時にギルドカードと連携した従魔のタグも一緒に渡す事になる。あ、ちょっと待て……」
アランさんは登録の魔導具に僕の情報を入力していて、アルル村からの報奨金が有る事に気付いたようだ。
「お前、アルル村で何をした?」
「いやー、ちょっと、偶然に目にした事がどうも犯罪に関わってたらしく……」
割とざっくりと説明すると、アランさんは納得してくれたようだ。報奨金が用意出来るまで待ってろ。その内にあいつらが出ていくだろうからと言って奥に引っ込んだ。
◇◇◇
僕はアランさんからのお呼びがあるまで、壁際のベンチに腰かけて待っていたのだが、なかなかアランさんは戻って来ない。暇を持て余しての、ギルド内の様子をぼーと観察していた。
ギルド内の人たちは、ギルド入り口辺りに陣取っている例の一団には余り関わりたくないのか、気にしない風を装ってはいるようだが、そこにはピリピリとした険悪な空気が流れているように感じる。
『なぁ、ハルさん。あいつら何か面倒そうだな。僕らもなるべく関わらないようにしような』
『ほら、部屋に入ってったあの娘だけど、あの娘がここに入って来たとたん、精霊たちがあたふたと一斉に逃げ出したんだぞ。あいつさ、めちゃ、やばそうじゃない? アキトは可愛い顔してる女に弱いから、鼻の下伸ばして近づかないように気をつけろよ』
『おいおい、ハルさん、僕を何だと思ってるんだ?』
ハルさんはどうも僕に関しての考え違いをしているようだ。その内にハルさんの僕に対しての認識を改めさせねばと強く思うのだった。
やはり、精霊が怯えて逃げ出すほどのヤバさなのか。どんな恐ろしい力を秘めてるんだろうか? あの少女には充分に気を付けないと。
『君子、危うきに近寄らず、だよ』
それからしばらくして例の少女はお供を引き連れてギルドから出て行った。一団が居なくなると、それまでの緊張感から解放されてか、ガヤガヤと騒がしくなって日常を取り戻したようだ。その時になってようやくアランさんが帰ってきた。
「すまんな新入り。待たせた」
僕を呼ぶ声がする。苦虫をかみつぶしたような顔をしたアランさんが窓口へ帰ってきた。
「ちょっと副ギルに足止めされてな」
アランさんはすまなさそうに、髪の毛の無くなった頭を撫で上げている。その副ギルドマスターと言うのは、さっき例の少女にペコペコしながら部屋に案内して行った男の事みたいだ。
ギルマスの留守を良い事に好き勝手やりやがってとブツブツと愚痴りながら、アランさんは報奨金が入った巾着を差し出して……。
「気をつけろ。金を持ってる事を周りに悟られるな」
さっさとしまえと、僕にそれを「ほらよ」と渡して来た。
「そういやー。お前、宿屋決まってるか?」
「まだ宿屋は決めてないです。ここに来てすぐにギルドに来ましたから」
「そうか。じゃあ俺の知り合いの宿屋を紹介するぞ。実は、俺の姉がやってる宿屋なんだ。良けりゃ、そこに泊まってくれ。ぼったくりは……無いとは思うぞ。多分な」
アランさんはニヤリと笑った。
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